11話
先ほどまで父の知り合いという認識でしかなかった人物が国王様だと明らかになった。
俺は動揺した。
年上としての敬意は払っていたが、王様に向けるものとしては不適切な態度を取っていたからだ。
「も、申し訳ありませんでした!
レイン様が国王陛下であらされるなど知らず、不敬な態度を取ってしまいました!
どうか!どうかお許しを!」
俺はもうこれ以上ないほど心を込めて誠心誠意土下座を決める。
俺にはこの手の異世界転生に付き物の特別な力がないのだ。
あるのは知識だけ。
知識だけでは権力というものには逆らえないのだ。
だからこその裏表なし、精一杯の謝罪の印、土下座。
「ふっ、ふはっ!ハッハッハ」
俺の土下座を見てファーガスとレイン国王様含めた大人達がこりゃ堪らんと腹を抱えて笑い始めた。
「お父様!陛下の御前です!それに、息子の命の危機ですよ?!一緒に頭を下げてください!」
俺はそこらで笑い転げている父親を目にもかけずひたすらに額を地面に擦り付けながら非難の声を上げる。
息子の命の危機なのに不謹慎なやつだ。
それに、やつだって王様に向かって不敬な口を聞いていたんだ。
いくら昔からの知り合いだって不敬罪がこの世界にあるのか知らないがクビが飛ぶ可能性があるんだ。
何をそんなに笑っているんだ。
「ごめんよ、カイル、これは俺たちの計画だったんだよ」
ファーガスは笑いすぎてこぼれた涙をぬぐいながら話す。
なに?計画だと?
「お父様、それは一体どういうことですか?」
相変わらず俺は地面に避退をつけたまま質問する。
「君があまりにも賢いのと、昨日レインにあったという話をみんなにしたら、その噂の神童君の鼻を明かそう、という話になってね」
そこから先の話を俺は心底呆れ顔で聞いていた。
魔導書云々の話しは完全に予定外だったらしいが、今日この城まで連れて行くことはすでに決まっていたらしい。
「昨日のお前の対応を見ていてもまるで3歳のガキには見えんかったからな、からかいたくなったのだ」
レイン国王様も今回の件には乗り気で参加していたらしい。
そこからは、この4人組の昔話とこの国の昔話を聞かされた。
なんでもこの4人はうちの母親ともう1人を含めた6人で冒険者とひてパーティを組んでいたそうだ。
元々レインさんはこの国の王子であったが妾の子、すなわち庶子であるため王位継承からは遠い立場であった。
そのため、命の危険が伴う冒険者稼業を許されていた。
そして、ファーガスを含めたパーティメンバーと出会い、ファーガスとレインさんの二枚看板を打ち立てたパーティ、【コンウェルの牙】を設立した。
後に大魔導師などど呼ばれるファーガスと、俺は知らなかったが頑強騎士と呼ばれたレインさんの二枚看板がそろった【コンウェルの牙】はメキメキと頭角を現し、この国1番のパーティとして名を馳せた。
しかし、10年前にこの国の隣国であるガノス公国と戦争が勃発したのだ。
冒険者は国に雇われて戦争に参加することがあり、【コンウェルの牙】はレインが王族ということもありほぼ強制的に戦争に参加した。
とは言っても、王族が参加していることもあり、緒戦に投入されて主戦場から離れた場所に位置されることが多かったらしい。
その中で先代の国王様率いるコンウェル王国軍は劣勢に立たされ、第1次リキア平原の戦いと呼ばれる戦いで遂に本軍が壊滅し先代が戦死する。
これで王位継承がすんなり第1王子にでも行われていればよかったのだ。
しかし、ことはそう簡単には行かなかった。
第2王子が王位を狙ってクーデターを起こしたのだ。
戦時中にも関わらず、だ。
結果、まとまりを欠いたコンウェル王国はガノス公国に敗戦を重ねて大きく領土を失った。
今もその領土は戻ってきておらず、本来この国はもっと広大な領土を持っていたのだ。
ジリジリと後退して行く中、第1王子の配下の者が国の未来のためを思って、自らの支える王子を暗殺し第2王子の元に軍を降らせる計画を思いついたのだ。
そして、その計画を実行に移したのだ。
暗殺自体は簡単に済んでしまった。
しかし、ここでも事はうまく行かなかった。
第2王子の配下にも同じように考えた者がいたのだ。
せめて、連絡が取り合えていれば、そして実行の日がズレていればレインが王位を継ぐ事はなかっただろう。
しかし、その暗殺計画はくしくも同じ日に行われたのだ。
事前に示し合わせたわけでもなく。
そうして、国を治める主人が不在になった国は大混乱におちいる。
そして、困り果てた重臣達はレインさんに目をつけたのだ。
王妃と先代との間の子供は先の2人しかおらず妾の子供しか残っていないこともあってか、レインは国王に就任したのだ。
その後、レインさんの元1つになった王国軍はレインの権限でソフィアさんを将軍にして戦線を立て直し、大魔導師ファーガスの大規模魔法を駆使して戦線を押し戻し、第2次リキア平原の戦いで敵軍を率いていたガノス公国の大公の息子を打ち取って停戦を結んだのだ。
その後すったもんだもあったがファーガスは報酬として得た資金で商会を開き、ガイツさんは孤児院を開いた。ソフィアは戦後、古参の重臣達の陰謀で1度国軍を解散した事で将軍職は解任されたが団長としてレインさんを軍事面で支え、現在も国のために騎士団の団長として働いている。
母は父と結婚して落ち着き、もう1人はフラリと旅に立ったらしく、レインさんは国王に、とパーティは自然と解散された。
しかし、円満に解散したこともあり彼らはこうして定期的に今でも飲んでいるのだった。
ここまで聞いて俺は思った。
「…お父様、何故このような重要で面白い話を黙っていたのですかっ!!」
その日、夕焼けを背景にした王城に俺の怒声が響き渡った。