張飛との偽装結婚が本当の結婚になっちゃった
さて、困りました。
まさかこんなタイミングで父である夏侯淵と張飛が出会ってしまうとは思っていませんでしたよ。
ああ、でも曹操が俺の女宣言したせいで、誰も私に近づいてこようとしなかったのを考えるとこれは曹操の後宮から逃げるチャンスかもしれません。
私は張飛を小突くと、”適当に話を合わせて”とささやきました。
ちゃんとわかってくれればいいのですが。
「あ、あのですね父上、この人とは二年前ぐらいから時折会ってっていたのですが
最近会いに来てくれなくてさみしいと思っていたら、
実は劉備のもとにいたそうなのです、最もはぐれてしまい
今どこにいるのかはわからないそうなのですが」
「なん……だと?」
私に言葉に驚く父上
「なん……だと?」
そして驚く張飛
おーい、うまく話を合わせてくれっていったのに、そこで驚いてどうするのですか。
「で、では、呂布を処刑した頃からその男と会っていたというのか?」
幸い父上は張飛の不審な様子には気がついていないようなので私は言葉を続けたのです。
「はい、この人は外見はいかつくて粗暴で短気に見えますが
実は結構優しいのですよ」
私は張飛を小突いて、うまくやれと目配せします」
「お、おう、なんか山の中にいた小娘が重そうに
薪やら何やらを運んでたから手伝ってやったんだけどな」
よし、いいですよ、無理に嘘をつかず会ったことをちょっと捻じ曲げるのは信用度が高いです。
父は張飛を睨みつけながら私に聞きました。
「それは真の話なのか?」
私は笑顔で答えます。
「はい、彼はとっても力持ちなので、すごく助かってます。
それでものは相談なのですが」
父は恐る恐るという表情で聞いてきました。
「ま、まさかその男と結婚したいなどというのではないであろうな?」
「あ、いえ、そのまさかなのです。
孟徳叔父上の後宮に入って正妻たちにいびられる毎日を過ごすくらいなら
この人と一緒になったほうが私は幸せになれると思います」
「なん……だと?」
「なん……だと?」
だからちゃんと話を合わせなさいと。
「ねえ、そうですよね益徳?」
「お、おう、安心しな、
俺にはこいつをいびるような妻はいないからな。
曹操なんぞよりちゃんと幸せにしてやれるぜ」
おお、いい感じじゃないですか。
「ま、まさかそんなことになっていたとはな
お前には苦労をかけていたからせめて
いい婿をと考えていたのだが……」
私は苦笑して父に答えました。
「そうは言いましても孟徳叔父上のお気に入りに思われている私に
普通の人はよってきませんからね
そんなことができたのはこの人だけです」
私に言葉を張飛がフォローします
「お、おう、そういうことなんだ」
「しかし、その男は……」
私は泣きそうな表情を作り父に言いました
「あくまでも父上に認めていただけないなら
私は益徳とともにこの地よりはなれ
どこか遠くでほそぼそと暮らすことに致します」
「お、おう、どこか遠くに二人で逃げて暮らすぜ」
父は少し悩んだようでありましたがやがて口を開きました。
「そこまで言うのであれば、仕方あるまい
しかし、勝手に何処かにゆくのはゆるさぬ。
孟徳が知れば俺も処断されるかもしれんし
お前をその男から取り戻そうとどこぞへ兵をあげて
攻めこもうとするかもしれん」
うん、それはありそうです。
「分かりました、では明日孟徳叔父上にご挨拶をいたしましょう」
父はほっと胸をなでおろしたようでした。
「うむ、頼むぞ」
私は張飛にむかって
「では、部下の方々も心配しているでしょうし
また明日来てください。
お待ちしています」
と言った後小さな声で
「話を合わせてくれてありがとう、
とりあえず明日もお願いね」
と伝えたのでした。
「お、おう、じゃあまた明日な」
といって彼は山に帰っていきました。
父は深くため息を付き。
「まさかあのような男とおまえがな……」
と悩んでいたようでしたが
「身分の低い母の出自である私には、
むしろあの人のような素朴な人のほうがいいのです」
といっておきました。
まあ、張飛から見たら私みたいな小娘は範囲外でしょうけど。
さて、翌日になり張飛は律儀に山から降りてきて私と一緒に曹操の持ちへ向かうことになりました。
「変なことに巻き込んでごめんなさい、でも今日もうまく話を合わせてください。
基本は私が話しますので」
張飛はコクコク頷いて
「お、おう、わかった、まかせておけ」
といったのです。
まあ、なんとかなるでしょう。
そして私たちは曹操のもとのにやってきました。
「孟德叔父上、お久しぶりございます」
曹操は私の姿を見て笑顔を浮かべました
「うむ、月姫、直接会うのは久方ぶりであるな。
で、妙才より聞いておるが、
その男と結婚したいというのは真か?」
私はコクリと頷きました。
「以前お約束させていただきましたとおり
私は私が認めた男と結婚したいのです。
どうかこの方との結婚を認めていただけますか?」
曹操はうーむとうなっていました。
「しかし、その男は短気で粗暴ときくが?」
「いえ、少なくともこの人は女子供などの弱者に
手を出すようなことはいたしません」
曹操は張飛に向き直り言いました。
「ふむ、では張飛よ、俺の下で働かぬか?
それなりなり待遇は無論しよう」
しかし張飛は
「悪いがあんたの下につくきはない。
俺の兄貴は玄徳だけだ」
曹操は鼻を鳴らしいいました
「ふむ、では約束であるからにはそれは守ろう。
月姫、この者との結婚は許すが
私の侍医をやめることは許さん。
月に一度私にもとへ赴くようにせよ」
私は曹操に頭を下げました
「ありがとうございます、ではそのようにさせていただきます」
「ではいい、下がれ」
「はい、失礼致します」
そして私たちは屋敷へと戻りました。
「はあ、茶番に付き合わせてしまいすみませんでした
まあ、これで父上もそうそうもとりあえず
今のあなたに危害は加えないでしょう」
私に言葉に張飛はからりと笑っていいました。
「いや、別にかまわないぜ。
しっかし、お前さん本当にいいとこのお嬢さんだったんだな。
どうだ、本当に俺と結婚しないか?」
「へ?」
彼のまさかの言葉に私はそれしか返す言葉がありませんでした。
「よく見れば美人だし、曹操や夏侯淵にあんなことをいった
以上は少なくともここらへんで他のやつとは結婚できないだろうし
夏侯家といえば漢の建国以来の名家の家柄。
兄貴は皇帝の末裔らしいからな、親衛隊の俺も
夏侯家の娘と結婚してもいいはずだ」
私は冷たく言いました
「家柄なんていいことばかりではないですよ。」
「あ、ああ、すまねえ、そういう意味で言ったつもりじゃないんだが
お前さんはその場逃れのためだけに言ったことなんだろうが
俺はお前さんのことを気に入った。
偉そうにしないとことかも含めてな。
お前さんから見たら俺はどうだ?」
私はしばし悩んでから言いました。
「美男子ではないし年も離れすぎだとは思いますが
決して貴方の性格は嫌いではありませんよ」
「へ、ならいいんじゃねえか?
それのお前さん、すごくかわいいしな」
「う、ありがとうございます」
私は顔を赤くしてしまいました。
こんなことをまともに言われたのは初めてかもしれまあ円
まあ変にプライドばかり高いボンボンよりはこの人は好感が持てますけどね。
「そうもしれませんね。
ではこんな私ですが、よろしく願い致します」
こうして私は張飛と結婚することになったのです。
「で、お前さんはどうするんだい?」
張飛は呂姫に言いました。
「無論私は月姫様の侍女ですのでお供いたします」
ん、それって張飛の側室になるということでしょうか?
「はは、まあ、仲良くやろうぜ」
「ええ、私もよろしくお願いいたします」
こうしてなぜか呂姫も結婚することになったのです。
ナンデコウナッタ。