第九話『作戦会議』
「ポチ、おいでぇ」
ニーナが黒い子犬と走り回っている。
子犬はガルムなのだが、不思議な事に戦闘の後に小さくなってしまった。
マサランが持っていたレアアイテム『封印の指輪』で、戦闘時以外子犬の姿になるようにしてあるらしかった。
結局、懐いてしまったので、ポチと名前を付けて、ニーナの遊び相手として連れてきたのだ。
「タマとも仲良くしなくちゃダメだよぉ」
「タマ?」
ポチをお座りさせて、ニーナは指を立てて言い聞かすように説明する。
聞いた事がない名前に、ミュトスは首を傾げた。
「タマはね、村の友達だよぉ」
「ああ。ご飯を持っていってた動物ねん」
ニーナが何日かご飯を何処かに持っていっていた事をブラッドは思い出した。
多分、野良犬か何かにあげていたのだろうと予測していたが……。
「取りあえず、宿屋で休んでから、塔に行くのが良いだろうな」
「そうだね」
この町に来た日からミュトス達は、ずっとバタバタしていたせいか、疲れが溜まっていた。
ここら辺で、一度ゆっくりしようと考えたのだ。
領主が用意してくれた宿屋は、かなり高級らしいので、西の塔を攻略する前に、ミュトス達は疲れを取っておきたかった。
「大きなお風呂があるらしいよ」
「ニーナ、お風呂大好きぃ」
「じゃあ、一緒に入ろっか?」
「うんっ!」
村にいた時は、殆どが水浴びだった。
だから、ミュトスもニーナも、風呂に入れるのが嬉しかった。
しかし、風呂付きの宿屋は、最高級でミュトス達の財布事情では、とても泊まれなかった。
それが泊まれる、しかもタダだと言うのだから、はしゃぐのも無理はない。
宿屋に着くと、ミュトス達は与えられた二部屋の一つに集まっていた。
「ブラッド、西の塔の情報は集まった?」
「色々な話を集めてきたわよん」
少し前の話なら、ゴードンがある程度知っているのだが、やはり現場での情報収集は大切だ。
という訳で、ミュトスはブラッドに、西の塔の話を、攻略にいった事のある冒険者達に聞きに行かせていたのだ。
ブラッドが聞いてきた話は、かなり有用な情報が多かった。
「やっぱり、五十階が強敵だね」
「そうだな。そこはニーナの魔法を発動してからがいいかもな」
「ニーナ、魔法頑張るよぉ」
五十階は、だだっ広い空間で強力なモンスターが出現する。
死霊騎士と呼ばれるモンスターだが、こいつがわんさか出てくるのだ。
ミュトス達は敵が単体か少数なら、どんなに相手が強くても負ける事はないだろう。
しかし、人海戦術で来られると、場所によっては弱い敵でも手こずってしまう。
「前衛は私とゴードン。ブラッドはニーナとサラの護衛」
「私とニーナが魔法をバンバン使う」
「期待してるからね」
死霊騎士は神官の聖なる術と魔法の炎に弱い。
だから、サラとニーナには魔法で敵を弱らせる作戦だ。
その分、治癒術を使えなくなるが、そこは魔法薬を使用すれば間に合うと考えていた。
ミュトスは魔法で防御力が上がっているお陰で、死霊騎士ぐらいなら、あまりダメージは通らないだろうし、ゴードンはかなりタフだ。
作戦が決まると、その場の空気が緩む。
「そういえば、西の塔について、面白い話を聞いたわよん」
「面白い話?」
「ええ。五十一階の話なんだけど……」
ブラッドの話によると、最近五十一階に隠し部屋が見つかったというのだ。
転移装置が施された部屋は、二つのボタンが付いていた。
一つは一階に降りるボタンらしく、何組かのパーティが試してみて、塔の外に出口専用の魔法陣を発見したそうだった。
問題はもう一つだ。
どうやら、上に行くボタンらしいのだが、どんな冒険者が押しても反応しなかったそうだ。
壊れている訳でもないので、何か条件があるのだろうと推測されていた。
「へぇ」
「それでね、その転移装置が勇者に反応するんじゃないか、って噂があるのよん」
「それは面白い噂だね」
ミュトスはブラッドの話に、ニヤリと笑った。