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不幸な勇者様  作者: 夜猫
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第五話『ダイセン』


「わぁお」


「ママ、おっきいねぇ」


ダイセンの町を目の当たりにしたミュトスは、思わず感嘆の声を上げた。

王都以外で、こんな大きい町に来たのは初めてだった。

ニーナも吃驚したようで、町を指差して、興奮しながらミュトスの服の裾を引っ張っていた。

ダイセンは、西の塔を攻略する冒険者を相手に商売する行商人達が集まって出来た町である。

今では、西の塔を目当ての観光客が増えていて、町は賑やかだった。


「まずは安めの宿屋見つけて、拠点にしましょ」


「折角だし、贅沢したい」


こういう時、節約したいブラッドと贅沢したいサラが、よく激突する。

大体はミュトスが間に入り、仲裁するのだが、今はニーナと楽しそうに話をしていて、二人の様子には気付いていない。


「取りあえず、宿屋を見て回ろうぜ」


ゴードンが、安くて良い宿屋が見つかるかもしれんぞ、と一触即発の二人の間に割って入る。

サラとブラッドは、取りあえず口論を止めて、歩き出した。


「二人共、行くぞ」


「はーい」


あちらこちらを、キャッキャ言いながら見ていたニーナとミュトスに、ゴードンが声を掛けた。

二人は声を揃えて、小走りに駆け寄ってきた。

全員揃ったところで、ミュトス達は宿屋を片っ端から見て回る。

冒険者だけでなく、観光客が沢山来るだけあって、宿屋の数はかなりの数がある。

その一つ一つの宿屋を見て回ったのは骨が折れた。

そして……。


「何で、こんなに高いの……」


地面に手を付いて、ガックリとうなだれるサラとブラッド。

観光地だからか、それとも冒険者が集まるせいか、ダイセンの宿屋は、何処も高額だったのだ。

一番安い部屋で、納屋のようなボロボロな二人部屋で、ウォーマの町の高級な宿屋並の値段だった。


「さすがに、あの部屋であの値段はないわねん」


「あんな部屋に泊まるぐらいなら外で酒飲む」


珍しく、サラとブラッドの意見が合う。

それ程までに、納得がいかなかった。

こんなに高級では、駆け出しの冒険者は腰を据えて、西の塔で冒険なんて出来ないだろう。


「まあまあ。さっき、おばさんに聞いたけど、野宿用の場所があるらしいよ」


ブラッド達が宿屋で話を聞いている時に、通り掛かった恰幅の良いおばさんが、ミュトスの格好から冒険者だと気付いて、教えてくれたのだ。

町の端に、お金のない冒険者達が野宿をする場所が設けられているらしい。

上級な冒険者や観光客以外は、皆そちらを利用するという話だった。


「行ってみるか」


泊まれない以上、野宿するしかない。

だったら、専用の場所で野宿するのを悪くない。

メンバー誰しも、そう考えた。

おばさんが教えてくれた方向に、暫く歩いていくと、開けた場所に出る。

そこには、新米から中堅ぐらいの冒険者達が十五組程が集まっていた。


「結構いるね?」


「そうね。あっ、あそこのスペースにしましょ」


広場のようになっている場所は区分けされていて、所々スペースが空いている。

そのうちの一つに目を付けたブラッドが場所を確保する。

同じ野宿するとしても、ここなら塀に囲まれているので、見張りを立てる必要がない。

全員、ゆっくりと休めるのだ。


「こんにちは。こちらは初めてですか?」


腰を下ろして、一息吐いていると、隣のスペースで留守番していた魔術師らしき女性が声を掛けてきた。


「あっ、はい」


「やっぱり、西の塔の攻略ですか?」


「いえ、攻略って程じゃなくて……修行?」


一人で寂しかったのだろうか、女性はニコニコと笑いながら、グイグイと話し掛けてくる。

ミュトスは戸惑いながら、女性の問いに答えていく。


「あっ、すみません。自己紹介もしないで。私、イナバと言います」


「これはご丁寧に。私はミュトス。よろしくね」


矢継ぎ早に話す女性はイナバと名乗る。

ミュトスも名を名乗ると、座ったまま姿勢を正して、頭を下げた。

すると、イナバの表情が、見る見る間に変わっていく。


「えっ!ミュトスさんって、もしかして勇者の……?」


「えっと、その、あの……はい」


「わぁ!会えて、とっても光栄です」


イナバはミュトスの手を取り、嬉しそうにブンブンと振る。

どうやら、イナバはミュトスの事を勇者と知っていたらしく、かなり興奮した様子だった。

勇者として、ここまで喜ばれたのは初めてで、どうしていいかわからなかった。


「それは、どうも」


「サイン頂けますか?」


「さ、サイン!?」


突然の申し出に、ミュトスは目を白黒させて、ゴードン達はその様子をニヤニヤしながら見ていた。

自分のマントに書いてくれと、魔法のペンを渡されたミュトスは、仕方なく自分の名前をマントに書く。


「ありがとうございます。一生の宝物にします」


ようやく、イナバとの話が一区切りついて、ミュトスはホッとした。

しかし、イナバはニコニコしながら、更に話し掛けてくる。


「そうそう。西の塔に入るには、領主の許可が要りますよ」


「そうなんだ」


「良かったら、私が領主がいる場所まで案内しますよ」


「良いんですか?」


イナバは自分のパーティーの荷物を預かる留守番のはずだ。

案内しても大丈夫なのだろうか、とミュトスは思ってしまう。

しかし、来たばかりで右も左もわからないのも事実。

案内してくれるなら非常に助かる。


「はい。全然、平気ですよ」


すぐ近くですから、と立ち上がる。

念の為にブラッドを留守番に残して、ミュトス達はイナバに付いていく。


「ここです」


イナバが、大きな建物の前で、ピタリと足を止める。

入り口には、二人の見張りらしき人物が立っていた。

ミュトス達が来ると、入り口を塞ぐように槍を交差させる。


「あの、領主様に会いたいのですが……」


「西の塔の攻略許可証は、今は発行していない」


立ち去れ、と言わんばかりの口調で、見張りは睨み付ける。

どういう事情かはわからないが、西の塔には入れないようだ。


「わかりま……」


「この方は勇者ミュトス様ですよ」


領主に取り次ぎなさい、と頭を下げて去ろうとするミュトスの後ろから声が聞こえてきた。

イナバだ。

見張りの態度に憤慨したように、目を釣り上げて、腰に手を当てていた。

その言葉に、見張り達は顔を見合わせる。

見張り達は、何やらコソコソと話をすると、一人が建物の中に入っていく。


「領主様に話を通す。しばし待て」


残った方の見張りが説明する。

ミュトスは、イナバの方へ視線を向ける。

イナバは「どう?」と言わんばかりに、自慢気な顔で胸を逸らす。


「今度から『勇者』って言葉を出す時は相談して?」


「わかりました」


イナバに対し、何かを口にしようとしていたミュトスだったが、その口から出てきたのは、深々としたため息だった。

その後、イナバを窘めると建物へ視線を戻した。

ミュトスは自分が勇者だと名乗りたがらない。

ましてや、勇者という言葉で有利な状況を作るなんてもってのほかだ。


「領主様がお会いになるそうだ。入れ」


「わかりました。ありがとうございます」


「それじゃあ、私は戻りますね」


「ありがとう」


手を振り去っていくイナバに、頭を下げて、ミュトスは見張りの後ろに付いて、建物の中に入っていく。

通されたのは、執務室のような場所だ。

中には、眼鏡を掛けた細身で初老の男性が座っていた。

彼が、ダイセンの町を治める領主であろう。

部屋のドアが閉められるとニコニコと笑いながら、領主は立ち上がる。


「それで、君達は何が目的だね?」


「え?」


「勇者の名前を語って、何が目的かと聞いているんだ」


ミュトス達は全員ポカンとしてしまう。

まさか、いきなり偽者扱いされるとは、誰も思っていなかったのだ。

訳が分からず、オロオロするミュトスに、領主がツカツカと詰め寄ってくる。


「あ、あの、私……本物です」


「悪いが、本物のミュトス様は昨日会いに来られた」


「ええっ!?」


必死に訴え掛けるミュトスに、領主がビシッと言い放つ。

まさか、自分の偽者が世の中にいるなんて思いもしなかった。

しかも、同じ町にいるなんて、信じられない。


「衛兵、この偽者達を投獄せよ」


「はっ!」


「ええーーーっ!」


呆然とするミュトス達を衛兵が取り囲む。

このぐらいの人数、突破する事は可能だ。

しかし、ここで暴れて、怪我人などが出ては元も子もない。

取りあえず、誤解が解ける事を信じて、捕まる事に決めた。


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