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不幸な勇者様  作者: 夜猫
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第十二話『良いモノ』


「うにゃーーっ!」


闇の女王とミュトス達の戦いは、割とあっさりと決着がついた。

結論から言えば、ミュトス達の圧勝だった。

吹き飛ばされて目を回した闇の女王に、ミュトスは困惑してしまう。

まさか、こんな簡単に倒せるとは思わなかったのだ。

実は、闇の女王に圧勝したのには理由がある。

人類は闇の女王に世界を征服されてから、ずっと彼女に勝つ為に研究して、魔法や戦闘技術を洗練してきた。

それに比べて、闇の女王は誰も来る事のないこの塔の上で暇していたのだ。

結果、ミュトス達と闇の女王では差が出来てしまった。


「サラ、闇の女王を回復してあげて」


「了解」


流石にこのまま放置する訳にもいかないと感じたミュトスはサラに声を掛けた。

まあ、今更復活したところで、闇の女王が暴れたりはしないだろう。

それはサラもわかっているようで、素直に回復魔法を闇の女王にかけていた。


「う、うーん」


「大丈夫?」


少し呻いた後、ゆっくりと目を覚ました闇の女王に、ミュトスが声を掛ける。

何が起こったのかわからない様子で、何度か目をパチクリさせた闇の女王は、次第に自分の状況を理解し始めたのか、表情が変わる。


「我は負けたんじゃな……?」


「どうしようもなく、あっさりと」


「ぐはっ!」


落ち込む闇の女王に追い討ちを掛けるように、サラがバッサリと斬り伏せた。

流石にショックを受けたのか、ガックリとうなだれる。


「まさか、こんなに勇者が強くなっていたとは……」


「ちょっと強い冒険者ぐらいだったぁ」


「うぐ……」


緊張した面持ちで汗を拭う闇の女王に、ニーナがあっさりと言い放つ。

ニーナに悪気はない。

思った事を口にしただけだっただろう。

それは闇の女王も感じ取っていた。

だからこそ、二の句を続ける事が出来ずに絶句してしまったのだ。


「えっと……ごめんね」


「ふーんだ。どうせ我は弱いですよー、だ」


完全に拗ねてしまった。

こうなると闇の女王の威厳もへったくれもありゃしない。

ミュトス達に背を向けて、膝を抱えて鼻をスンスンと鳴らす闇の女王に、ミュトス達は掛ける言葉が見つからなかった。

これが世界を震え上がらせた闇の女王かと思うと、時間の流れと人の成長は恐ろしいと、ミュトスは思ってしまう。


「そ、そろそろ帰らないと……」


「そ、そうね。そろそろおいとましましょ」


ゴードンが、このままでは面倒臭いと話を切り出した。

その意図を感じ取ったのか、ミュトスも慌ててそれに合わせる。


「待て待て。まだいいじゃろ?」


「いやいや。それじゃ失礼します」


帰りそうな雰囲気を感じ取ったのか、慌てて止めに入る闇の女王に、ミュトス達はペコペコと頭を下げながら、ジリジリと後ろに下がる。


「そうじゃ!約束をまだ果たしてないじゃろう」


「約束……?」


そう言えば、闇の女王に勝ったら良いモノをくれると言っていた事をミュトス達は思い出した。


「お宝」


「サラってば、食いつくわね」


目をキラキラとさせてサラが前のめりになるのを見て、ブラッドが呆れたように嘆息する。

といっても、ブラッドも期待している表情を見せていた。

闇の女王が言う良いモノ……いやが上にも期待が高まるのは仕方がないだろう。


「お宝ぁ!お宝ぁ!」


「ふふっ!そうじゃろ!楽しみじゃろ」


「それで、良いモノって?」


嬉しそうに飛び跳ねるニーナに気を良くしたのか、闇の女王はもったいぶるように笑みを浮かべる。

ミュトスはちょっぴりイラっとするものを感じながらも、やはり良いモノに惹かれてしまう。


「それはな……我じゃ」


「……は?」


「我が仲間になってやるのじゃ」


「いやいやいや」


どや顔で胸を逸らす闇の女王に、ミュトス言ってる意味がわからなかった。

惚けた顔を見せていると、闇の女王が『どうだ』と言わんばかりの表情で説明してきた。


「どうかしたかのぅ?」


「どうかしたかの、じゃないよ。勇者のパーティに闇の女王が入るなんて、前代未聞だよ」


大体、あなたはこの塔から出れないでしょ、とミュトスは続けた。

そう、闇の女王は、この塔に封印されているのだ。

そう易々と出れるはずがない、とミュトスは思っていた。


「そうでもないのじゃ。『悪さをしない』と誓約をたてれば、ここから出れるのじゃ」


「誓約を?」


誓約とは、己の魂に誓いをたて、枷を付ける事で色々な事が出来る行為の事だ。

しかし、それを破れば、魂が引き裂かれてしまうという呪いにも似たものだ。


「闇の女王さん、もう悪い事しないの?」


「悪い事するのにも飽きたのじゃ」


だから連れて行くのじゃ、と闇の女王はエヘンと胸を張る。

ミュトスはどうしようと言わんばかりに他のメンバーに視線を送る。


「悪い事しないならいいんじゃないかしらん?」


「元々変わり者パーティだし、今更闇の女王一人入ってもかわらないだろ」


「そうだね」


ブラッドとゴードンの二人の言葉に、ミュトスは納得したように一つ頷いた。

そして、闇の女王の方へ向き直った。


「私はミュトス。これからよろしくね、闇の女王」


「我の名前はアン。よろしくの」


手を差し伸べたミュトスの手を取り、闇の女王アンはニヤリと不適に笑った。


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