第九十九話 炎の結界壁
「腐っても鑑定持ちってわけかよ。それなりに頭が回りやがる」
俺に一矢報いられた竜馬は、イラついたように顔を歪めて、俺を睨み付ける。
ふぅ~なんとかなったぜ。あのまま強引に来られてたら、竜馬にもダメージは与えられただろうが、多分こっちも無事にはすまなかった。
で、問題はこれからどうするかだ。
できれば俺は玲子や六花たちと仲たがいしたくないから、人間を手にかけたいとは思わないが、この竜馬とか言うガキ。見た目に反してかなりの手練れだ。
多分無傷でこいつを撤退させようと思ったら、俺の方がやられる可能性が高い。
それに、こいつを倒すつもりで仕掛けたとしても、弱体化の影響でステータスが軒並み下がっている今の俺では、勝てるかどうか五分五分。いや、玲子のときみたく相手に守るものがない以上三、七で、より俺のほうが分が悪いだろう。
それでも何とかして、この場から竜馬を撤退させるか、殺さずに無力化させなければならない。
まぁそれが無理な場合は、俺が逃げるか。最悪竜馬の命を取るしかないが、多分今の俺、いや『屍喰』を受けて弱体化していなかったとしても、玲子を上回る竜馬の速度の前では、俺はどうあがいても逃げ切れないと思う。
とすると、もし竜馬を撤退させるか無力化できなかった場合。
かなり厳しい戦いになるだろうが、俺は竜馬の命を奪わねばならない。
これはまぁ最後の手段だから今は考えない。今俺が考えるべきは、いかにして竜馬をこの場から撤退させるかと、殺さずに無力化するかについてだ。
で、具体的に竜馬をどうするかだが。
竜馬をこの場から撤退させようと、いくら俺が凄んでみても、これまで戦った竜馬の実力と性格からして、尻尾を巻いてこの場を逃げ出すとは到底思えない。
だとすると、残る手段は一つだけだ。
餓鬼洞にいた比婆や志度。六花についていた陰陽師たちみたいに集石を使って、岩山の中に封じ込める。
ってのが一番いい手段なんだろうが、あのガキがおとなしく集石に捕まって岩山に閉じ込められてくれるとは思えねぇ。だとしたら、まず最初にやるべきは竜馬の足を止めることだ。
で、竜馬の足を止めた後、集石であのチビガキを内側からでは決して逃げ出せない頑強な岩山に封じ込めてやる。
今後の方針を決めた俺は、すぐさま行動に移すことにした。
それなりにMPを喰うが、まずは、竜馬の奴の足を止める。
俺は両手に呪力を込めると、竜馬のことを警戒しつつ、地に両手を着けて火線を迸らせる。
俺が迸らせた火線は、竜馬だけを狙った小さい円だと、竜馬に警戒されて逃げられる恐れがあるので、あえて大きな円を描いて俺と竜馬。双方を円の中に囲い込んだ。
「あ? いったいどういうつもりだてめえ?」
俺のする行為の意味が理解できなかった竜馬が警戒しながら、いぶかしげな顔をして俺を睨み付ける。
が、俺は当然無視。誰が敵対している相手に、自分の手の内を教えるというのだ。
俺は竜馬の疑問の答えには答えずに、地に着いた両手からさらに幾重もの『火線』を迸らせて俺と竜馬を囲むと、俺と竜馬を囲んだ『火線』から一斉に火柱を、立ち上らせる。
俺が立ち上らせた火柱は、俺のもくろみ通り分厚く巨大な『炎の壁』否、『炎の結界壁』となって、俺と竜馬を外界と隔離した。
そう俺は、炎耐性の高そうな竜馬の実力からして、『炎の壁』が一層だけでは、苦も無く抜かれると思い。さらに連続で火線を迸らせて、炎の壁を何重にも展開させて、生半可な耐炎耐性では突破が困難な強固な『炎の結界壁』を作り上げたのだった。