第九十四話 俺の処分
「玲ねぇみんな車に乗せたよ。玲ねぇも早く車に乗りなよっ」
俺との戦いで傷ついた陰陽師たちを大きめの黒塗りの車に乗せた六花が、未だ車に乗り込まずに、一人たたずんでいる玲子に向かって声をかける。
「皆乗り込んだか。では六花、お前も早く乗り込めっ安国。六花が車に乗り次第すぐにこの場を離れろ」
自分は車に乗り込まずに、この場を離れろと言って来る玲子に対して、安国が運転席から身を乗り出しながら問いかける。
「玲子様は我らと共にこの場を離れぬのですか?」
「私にはまだやるべきことが残っている」
そう言うと玲子は俺をチラリと見てから、道人が屍鳥に乗って向かった餓鬼洞へと視線を向ける。
「玲ねぇもしかして」
「ああ、道人の奴が率先して動いたことなど、奴が晴人を見殺しにしたあの日以来、今までなかったからな。少しばかり嫌な予感がする。だから私は奴を追い奴の向かった先の餓鬼洞が、今どうなっているか見てこようと思っている。それに、この鬼の処分もまだ済んでいない」
それだけ言うと玲子は、今度はチラリとではなくしっかりと、屍喰を体中に食らったために、その場に立ち上がる力すら体に入れることができず、仰向けで無様に地面に倒れて身動きの取れなくなっている俺へと視線向ける。
もちろん玲子の視線につられた六花の視線も俺へと向けられていた。
「やっぱり、そうだよね?」
「ああ。いくら私たちを助けてくれたとはいえ、鬼は鬼だ。人の言葉が、人の理が通じぬ以上、この場に放置しておくわけにもいくまい」
玲子が言いながらも俺に近づき神刀を振り上げる。
「うん。そう、だよね」
この村に来て一番初めに対立することになり、一番多く助けることになった六花が俺を見て、何とも言えない悲しげな顔をする。
ま、当然そうなるよな。どのみち抵抗できる力は残ってねえし、走馬灯で見た道人が言っていた俺の前世での名が、晴人だってんなら、道人に向かって晴人の名前を叫んでいた玲子も、多分俺の前世での知り合い。少なくとも顔見知りか関係者なのだろう。
これも何かの因果って奴なのかもしれない。それに一戦交えたせいかどうかはわからないが。こいつにやられるなら、まあいいか。という気持ちもある。
覚悟を決めた俺は、玲子に向かって潔く首を差し出すことにした。
やるなら一思いにバッサリやってくれっと思いながら俺は神刀を振り上げながら、俺を見下ろす玲子の姿を視界に収めると、俺は命を手放す覚悟を決めて視界を閉じた。
そして、俺が覚悟を決めて視界を閉じた瞬間を見計らったかのようにして、玲子が俺に向かって神刀を振り下ろして来た。
というのに、俺の体には、神刀で斬られた痛みはおろか。何の苦痛も襲ってくることはなかった。
そればかりか、死喰い羽や屍喰を体に食らったせいで、力の入らなかった俺の体に、少しづつではあるが力が戻っていくのを感じていた。
そのため俺は恐る恐るといった感じに眼を開く。
俺の視界に映し出された光景は、俺の体に突き刺さり、俺の体から力を奪って弱体化させていた屍鳥の『死喰い羽』や道人が俺の体に突き刺した『屍喰』の白き骨が、玲子の神刀によって斬り飛ばされている光景だった。
俺の体に刺さっていた玲子の神刀により斬り落とされた屍喰は、あれほど引き抜くことが困難だったのが嘘のように、神刀に斬り落とされたとたん。俺の体に突き刺さっている白き骨もろとも、砂のように脆く崩れ去っていった。