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第九十話 『漆喰(しっくい)』

 仰向けで地面に縫い付けられた俺は、その場で何とか起き上がろうとするが、まったくと言っていいほどに体に力が入らずに、起き上がることはおろか四肢を満足に動かすことすらできなくなっていた。


 体に力が入らねぇっくそっ一体どうなっていやがる!?


 俺が自分の体に起きた異常に対して、心の中で悪態をついていると、俺の姿を見てあざ笑うような楽しげな声がこの場に響き渡った。


「その顔は自分の体に何が起こっているかわからぬという顔だな? 餓鬼洞から這い出してきたか弱き鬼よ。自分が何の術に敗れたのかもわからぬままこの地で朽ち果てるがいいわ」


 道人が力が抜けてうまく身動きの取れない俺に止めを刺そうと、先ほど出したのと同じような新たな白き骨を、左手に生み出し射出しようとするが、道人の動きを遮るようにして、十代半ばほどの思春期の少女の声が道人の術の正体を指摘した。


「『屍喰(しっくい)』。その術は『屍喰』と言って、屍鳥の使った死喰い羽と同じように、悪鬼などの力を弱めるためのものだよ。まあ威力は段違いなんだけどね」

 

「六花」


 道人の術の名を呼び、道人の行使した術の正体を説明する六花の声を耳にした玲子が六花の名を呼んだ。


「調伏すべき悪鬼に術の名を教えるばかりか、(わたくし)の術の効果までをお教えになるとは、いささか御戯れが過ぎるというもの。どういうおつもりですかな六花殿?」


 六花は阿倍野春明の血縁に当たるために、道人(どうじん)は自然と丁寧な口調になりながらも、目だけは笑わずに六花に問いかける。


「聞いての通りだよ。あたしはただ自分の知識の中から、道人(どうじん)。あなたの使った術の名を呟いただけ」


「ほう、しかし六花殿。貴殿は(わたくし)の術の名を知らしめただけでなく、我ら陰陽師の仇敵とも呼べる悪鬼に対し、私の行使する術がどのような効果をもたらす術か説明しておりまするな? それはさすがにいささか口が過ぎるというものではござりませぬかな? これでは六花殿。貴殿があの悪鬼に肩入れしていると思われても、致し方ありませぬぞ?」


「別に悪鬼に肩入れもしてもいないし、他意もないよ。ただあたしは、道人。あなたがあの悪鬼だけにとどまらず、あたしや玲ねぇのこともバカにしてるみたいだったから、説明してあげただけだよ」


「ぬぅ」


 そう、ここで六花や玲子のことをいささかも小馬鹿にしていなかったのであれば道人とて、二の句を告げたのだろうが、残念ながら道人にも少なからず、自分の術の正体が掴めていないであろう。六花や玲子をも馬鹿にしていたために、まったく予想していなかった六花に内心を指摘されたことによって、唸り声を上げただけで、二の句を告げられなかったのだった。

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