第六十一話 奥多摩村② 火吹き人稲穂を食う
小さな高台を降りて砂利で舗装された村の歩道に足を踏み入れた俺は、とりあえずずっと孤独で、自分でも知らぬ間に他者とのコミュニケーションに飢えていた俺は、うまくコミュニケーションをとり、仲よくなれば食い物でも貰えるかもしれないという下心を持ちつつ。人のいそうなあの水車小屋に行ってみようと歩道を歩き始めたのだが、水車小屋に向かう途中にある田んぼに実る稲穂を見て足を止めた。
はら……減ったな……俺ってば今実態のある有機物だし、あれって食えるんだよな? い~加減空きっ腹が限界だった俺は、無機物では決して味わうことのできなかった有機物を、実際に食べてみようという欲求もあり、悪いとは思いつつも、村に人影が見当たらなかったので、つまみ食いをしようと歩道のわきにある田んぼに実った稲穂のついた稲に手を伸ばした。
ところまではよかったのだが、俺が稲穂に近づいて手を伸ばしたと同時に、俺が掴もうとしていた稲に火が付いて稲穂が燃え上がってしまう。
へ!?
さすがに予想していなかった展開に唖然とする俺。
だがすぐに俺は、稲に火が付き稲穂が燃え上がった原因に気が付いた。
ああそうかっ『炎の壁』か? つうかこれって、生き物以外にも発動すんのかよ? ああもう。便利なんだけど、不便だ。
俺は内心そう思いながらも、比婆の筋肉禿げダルマにやったときと同じように、「炎の壁』の火力を微調整して最小にすると、再び別の稲に近づき手を伸ばしたが、稲は燃えやすいのか。先ほどよりは弱いが、やはり稲が燃え上がり先端についている稲穂に引火して燃え上がってしまう。
ああもうこいつは仕方ないと思った俺は、燃え盛る稲から米粒の入っている稲穂をつかみ取るとそのまま口に放り込んだ。
う~んうまい!!
て、何かのグルメ番組見たく言えればいいんだが……。
あ~なんつ~か、いつも通り炎の味しかしねぇ。しかも、口に入れた米が固くてゴリゴリしてて焦げてるから口の中で味わう食感が最悪だった。
やっぱ米は土鍋か炊飯器で炊かないとだめだ。食えたものじゃない。そうは言っても、俺は多少は空腹感がまぎれていることに気が付いた。
これはたぶん餓鬼たちを燃やしてその炎を喰うのと同じ原理だと思う。
つまり、米自体を食って栄養として体が取り込んだというよりも、食べ物である米が燃えた炎を取り込んで、俺の体が栄養にしたといった感じだ。
ああくそっせっかく物に触れられる有機物になったんだから、まともな飯が食いたい! 俺は心の中で悲痛な叫びを上げた。