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第五十八話 阿倍野春明② 阿倍野道人(どうじん)

出し惜しみせずに、読み手の皆様へのお詫びも込めて、手直ししたものは一気に載せます。大幅加筆修正の本日二話目です。

「異議あり!」


 春明の方針に否を唱えたのは、陰陽師の戦闘服である黒装束を身に着け、百八十センチ余りの背丈と、長い黒髪を肩に流した春明と同じ阿倍野性を名乗る美丈夫、阿倍野道人である。


 いつの間にか春明のいる陰陽連総本山のはなれに立てられている茶室の軒下に現れたのだった。


 いつの間にかこの場に現れた道人に、春明の世話役は一瞬目を見開くが、異議を申し立てられた当の春明はというと、こちらの様子を絶えずうかがうために、道人が常日頃から自分の周りに式を放っていることを知っていたために、手柄を立てるタイミングでも見計らって、この場に姿を現したのだと思い特に気にした風もなく答えた。


「道人〔どうじん〕何か言いたいことでもあるのか?」


「はっ恐れ多くもこの阿倍野道人。春明様の提案にいささか意見したく思いまする」


 茶室の軒下にいつの間にか現れた道人は、その場で片膝をつくと、春明に対して(こうべ)を下げながら、進言する。


 いきなり現れて春明の方針に口を出して来た阿倍野道人に対して、春明の世話役がいさめるために声をかける。


「道人様。いきなり現れて春明様の方針に口を出されては困ります」


 だがそれを春明は手で制すると、道人に話の先を促した。


「まぁよい。道人には道人なりの考えがあってのことだろう。道人申してみよ」


「はっ春明様っ発言の許可を頂きありがたく思います」


「うむ」


「では、私の意見を述べさせていただきまする。まず、比婆殿と志度殿の二人が力を合わせても敵わぬような未知なる悪鬼を相手に、比婆殿や志度殿の上位互換のような能力しか持たぬ術者を向かわせたところで犬死するのが関の山だと思われまする」


「何ゆえそう思う?」


「はっ比婆殿と志度殿たちの力を退けたということは、未だ餓鬼洞にいると思われる未知なる悪鬼は、比婆殿の結界術を何らかの方法で打ち破り、志度殿の火術が通用しなかったということになります」


「うむ」


「そんな悪鬼に比婆殿や志度殿の力の上位互換と思われる比婆天馬殿や志々度竜馬殿御二人を向かわせたところで、返り討ちにあうのは明らかと思われまする」


「確かに道人。お主の言い分もわかる。わかるが……残念ながら今動ける陰陽連の陰陽師で、天馬と竜馬よりも知識経験共に豊富で、未知の悪鬼に対応できるものがおらぬ」


 春明の言葉に、世話役の男も神妙に頷いて、道人の次の言葉を待つ。

 

「春明様。恐れながら、今すぐ動け未知の悪鬼に対応できる力を持った術者は存在しておりまする」


「今動ける術者の中に比婆天馬や志々度竜馬以外に、そのような強き力を持つ術者おったか?」


 春明が世話役の男に問いただすも、世話役からの返答は春明の知りうる知識と同じものだった。


「いえ、比婆天馬様と志々度竜馬様以外には、おられません」


「ふむ。わしの知らぬ術者か。して道人、その術者とは?」


「それは(わたくし)にございます春明様」


「ふむ。道人。お主とな?」


「はっ私ならば、餓鬼洞に現れ比婆殿と志度殿両名を退けた未知の悪鬼。見事調伏してみせましょうぞっ」


「う~む」


 道人の言葉を聞いていた春明は、一言うなり声をあげると、右手親指であごをいじりながら、両眼を閉じて考え込んだ。

 

 確かに、わしに告ぐ実力をもつ道人の力ならば、餓鬼洞に現れた未知なる悪鬼も見事調伏できよう。


 だが、なぜかわからぬ。なぜかわからぬが、わしの勘が告げておる。こやつに餓鬼洞に現れた悪鬼の件を任せてはならぬと。

 

 考えがまとまったのか、春明は顎をいじるのをやめると、両眼を開きながら道人に視線を向けて言葉を発する。


「道人。お主ほどの実力があれば、餓鬼洞に現れた悪鬼も調伏できよう」


「ではさっそく準備を整え次第悪鬼討伐に向かいまする」


 道人は春明の言葉を、自分の提案を受け入れたものと思ったのか、春明に対して了解の言葉を返すと、その場で片膝をついていた腰を上げて立ち上がり、すぐさまこの場を去ろうと体を翻すが、次に発せられた春明の一言が道人の動きを止める。

 

「道人、待たぬか。そう急くでない」


 これから準備を整えて、悪鬼を調伏するために、この場を立ち去ろうとしたところを春明に止められた道人が、いぶかしげな表情を浮かべながら春明の方を向く。


「?」


「くだんの悪鬼調伏の件、悪いがやはり比婆天馬と志々度竜馬の二人に任せようと思う」


「しかし春明様。件の二人は、餓鬼洞に現れた未知の悪鬼とは相性が悪うございます。やはり私に悪鬼調伏の件任せていただきたく存じまする」


「う~む。しかしの~」


 春明が悩み始めると、道人が春明の迷いを断ち切らざるを得ない要求を吹っかけてくる。


「そこまで春明様が申されるのならば、悪鬼討伐に桧山桜花殿をお呼びいただくか、同等の実力者をお呼びいただきたく思いまする。もし悪鬼討伐に桧山桜花殿か、同等の実力を有している者が出向かれると言われるのであればこの道人、この件に関して、一切口を挟まぬと誓いましょう」


「桧山か……確かに桜花ならば倒せぬ悪鬼はおるまいて。しかし桜花は外せぬ要件で京におる。餓鬼洞の悪鬼の調伏に向かわせるのには無理があるぞ道人?」


「ですから、私めが悪鬼を調伏して……」


 道人が、春明を説得しようと試みるも、春明は何かを思い出したのか、ポンッと手を打つと、妙案を思いついたとばかりに口元を緩める。


「うむ。道人。お主の言う通り、桧山に任せようと思う」


「桧山桜花殿にですか? しかし春明様。確か先ほどの春明様の話では、桜花殿は外せぬ要件で京におられるというお話だったとはず、餓鬼洞の悪鬼を調伏する件には、間に合わぬと存じますが?」


「うむ。桧山桜花はな」


「と、申しますと?」


「うむ。今回の餓鬼洞に現れし悪鬼の件。桧山家時期当主、後継者候補と名高い桧山桜花の嫡子に、任せたいと思っておる」


「嫡子に? 確か桧山の嫡子殿は未だ齢い十七の若者かと存じ上げておりますが?」 


「うむ。しかし桧山の嫡子の陰陽術の才覚は、父桧山桜花に勝るとも劣らぬと聞く」


「しかし、才覚はともかくとして、齢い十七の若輩……コホン。若干十七歳の陰陽師殿には、いささか荷が勝ちすぎる相手と思いまするが?」


「確かにの。しかし桧山桜花が言うには、自分の後継者候補たる嫡子は、若干十七歳にして自分と同等になりうる逸材と言わせるほどの実力を有していると聞く」


「確かに桧山殿の嫡子殿は、悪鬼を目の敵にし、日々修練に励み。メキメキと実力をつけていると聞き及びまするが、しかし、いくらなんでも齢十七の嫡子殿に、餓鬼の調伏ならいざ知らず、悪鬼の調伏など無理があるのではありませぬか?」


「うむ。じゃから陰陽連から腕に覚えのある術者を何名かサポートをつける」


「いくらサポートをつけるといっても、あのような悪鬼を狩ることしか頭にないような嫡子殿に、悪鬼調伏が務まるとはとても思えませぬ」


「経験を」


「?」


「今後の陰陽連の未来を担うと思われる若輩者たちに、悪鬼と戦う経験を積ませようと思っておる。それに桧山桜花と同等の実力者が悪鬼の調伏に向かえば、一切口を挟まぬと、道人。先ほど主は誓ったはずじゃ」


「ふぅかしこまりました。そこまで強く申されるのでしたら、餓鬼洞に現れし悪鬼の件。春明様に一任いたしまする」


「うむ。わかってくれたか道人」


「しかしもし、もし仮に手に負えなくなった場合は、この阿倍野道人に悪鬼の調伏を申し付けますようお願いいたしまする」


「うむ。そのときは頼んだぞ道人」


「かしこまりました」


 それだけ答えると道人は、春明のもとを去って行った。



 それを見届けた後、世話役が春明の真意を問うてくる。


「春明様。本当に桧山桜花様の嫡子様に、悪鬼の件を任せるおつもりなのですか?」


「うむ。そのつもりじゃが」


「しかしいくら桧山家の次期当主の後継者候補様といえど、比婆様や志度様の手にあまるほどの悪鬼の相手は、さすがに荷が勝ちすぎる相手かと思われますが?」


「なに、それなりのサポートはつける。それに桧山桜花が太鼓判を押すほどの才覚の持ち主じゃ。地獄門から這い出てくる程度の悪鬼ならば問題あるまいて」


 そう言って春明は、今後の方針を決めると、世話役に指示を出したのち、いつものように何事もなかったかのように茶室にて、茶をたしなんだのだった。

何とか修正出来たので上げます。


お手数をお掛けして申し訳ありませんでした。m(__)m


次は本編の予定です。

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