第五十四話 火吹き人VS比婆&志度④ 人として
「やった……すか?」
『爆炎火球』で餓鬼洞の入り口をふさいだ志度が、恐る恐る土や岩によって塞がれた餓鬼洞の入り口を凝視する。
「大丈夫みたいっすね?」
しっかりと餓鬼洞の入り口が土や岩によって、塞がれたのを確認した志度がふ~と安どの吐息を吐きながらも、明らかに落胆した顔をして、誰にも聞こえないぐらいのか細い声で文句を言った。
「比婆さん……まさかいくらお役目といっても、捨て身であの悪鬼を餓鬼洞に押し込めるなんて。俺、そんな話。聞いてないっすよ……」
志度はまるで両目からあふれ出る涙をこぼさないように、夜空に浮かぶ月を見上げながら、寂しそうにつぶやいたのだった。
まさか自分の体ごとぶつかってきて、餓鬼洞に俺を落として入り口を塞ぐとは思ってもみなかった。
あの爆発の瞬間、とっさに体当たりしてきた比婆を無意識に抱えながら、後方に飛びのいた俺は、『爆炎火球』の爆発によって破壊され、降り注いだ土や岩をかわすことに成功していた。
だが、その代償として、俺は完全に餓鬼洞の中に閉じ込められてしまったのだった。
完全に比婆と志度の二人にしてやられた俺は、頭を掻きながらため息をついていた。
この筋肉禿ダルマとヒョロヒョロリーゼントやってくれたぜ。
未だ俺に抱えられている比婆は、呪力を使い果たしたのか、先ほどの爆発で意識を失ったのかはわからないが、気を失っているようだった。
とりあえず俺は、比婆を地面に下ろそうとしたが、少し考えてからやめることにした。
ここが人間界か地獄かはまだわからないが、少なくともこの洞窟は地獄とつながっている。
理由としては、地獄にいた俺がこの洞窟にいるからだ。
そして、そんなところに気絶した人間を放っておきでもしたら、その末路は火を見るよりも明らかだからだ。
多分放置して地獄から這い出して来た餓鬼どもに見つかったが最後。意識を取り戻していればいくら俺との戦闘でそれなりのダメージを負っているとはいってもこいつのステータスからして、餓鬼程度なら問題なく撃退できるだろうが、意識を失っていれば話は別だ。
いくらステータスが高かろうが、意識を失ったまま餓鬼どもに群がられたが最後。
何の抵抗もできずに、骨のひとかけらすら残さずに、生きたまま血肉を餓鬼どもに貪り食われてしまうはずだ。
そのため俺は、比婆を洞窟内に放置することをやめた。
自分でも甘いとは思うが、これが自分の性分だと思うし、何よりこいつはここが人間界か地獄かわかる生き証人でもあるのだから、見捨てるわけにもいかないと思ったからだ。
まぁそんなものは建前で、実際のところは、ただこのままここで人を無慈悲に見捨てることをしたら、俺は姿かたちにとどまらず、心まで自分が本物の化け物になってしまうと思ったからだ。
さてと、とりあえず出口を空けるか。
比婆を肩に担ぎあげながら次の行動を決めた俺は、餓鬼洞の入り口を塞ぐ土と岩の瓦礫の山に向かって右手を触れさせて呟いた。
「か……せ、ん」