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第五十話 比婆と志度。二人の覚悟

「今の嫌な感じは、見られたな」


「見られたってなんっすか?」


「鑑定だ」


「えっでも確か鑑定って、確か……」


「ああ、高位の呪術師や巫女が使える相手の技量を見抜く反則技だ。この鑑定を使うことによって、相手の技量や弱点なんかを見抜き、手探りで相手の技量や弱点属性を見抜かなくてすむようになったおかげで被害を減らし、俺たち陰陽連は、より高位の悪鬼なんかを最小限の被害で討伐することができるようになった」


「それを逆にやられたってことは……」


「ああ、俺たちの技量に、属性。弱点何かが全て見極められたと思っていい」


「それって、ひっじょーにやばくないっすか?」


「ああ非常にやばい。というか、まずいな」

 

 比婆と志度は顔を見合わせたのち、どちらからともなく、ゴクリと、生唾を飲み込んでいた。


「とりあえず悪鬼の鑑定持ちなんか今まで数えるほどしか報告例がない。しかも例にあげられるのが、『白面金毛九尾の狐の玉藻の前』に『平将門の怨霊』。そして『大天狗の鞍馬天狗』に、『羅生門の酒呑童子』それと、『龍が人となった龍人』だ」


「全部伝説級の悪鬼や妖怪の類いばっかりなんすけど⁉」


「ああ、だから不味いと言っている」


 比婆が冷や汗をかきながら、呟く姿を見て、志度も今自分たちの対峙しているやからが非常にやばい類いのものだとあらためて認識し、冷や汗をかきながら再びゴクリと生唾を飲み込んだ。


「て、ことはっ俺らかなりやばい状況なんじゃないっすか❗?」


「ああ、九尾の狐クラスの化け物に、俺らの手の内かくし球まで多分、全部みやぶられちまってるからな」


「それってまずくないっすか?」


「非常にまずい」


「しかも鑑定持ちってことは、それなりに鑑定をいかせる知能持ちってことだ。これが非常に厄介だ。俺の言いたいことはわかるな?」


「うっす。つまり自分たちの対峙してる相手は、自分たちよりも基礎能力も呪力もはるかに上で、さらにそこに頭の出来も自分たちと同じかそれ以上。さらに言うなら、相手の鑑定によって自分たちの手札はすべて見えてるってのに、あちらさんの手札は一切見えず、相手がどんな隠し玉。つまりジョーカーになりうる切り札を持っているかもわからない。ってことっすね?」


 どうあがいても自分たちに勝ちの目がないことを悟った志度が、自暴自棄気味に、比婆の言おうとしていることを口にした。


「ああ、だから志度。こうなったら最後の手段だ」


「最後の手段?」


「全力。いや、死ぬ気で逃げるぞ!!」


「はいっす❗」


 比婆の掛け声を聞いた志度が、元気のいい声を上げながらその場を離れようとしたが、黒装束の襟元を比婆につままれて、身動きを封じられる。


「比婆さん……?」


 逃げろと言っていたはずの比婆が自分の服の襟をつかんで動きを封じたために、志度は困惑の眼差しを比婆に向けていた。


 だが比婆は、志度の方など見向きもせずに、土壁の向こうにいる俺へと視線を向け、俺の一挙手一投足を見逃すまいと意識を集中させていた。


「て、いいてえとこだが、あんな化け物を外に出すわけにもいかねえ。ここでやるぞ志度」


「まじっすかっ!? あんな化け物とやり合ったら、殺されに行くようなもんじゃないっすか!?」


「その通りかもな」


「ならなんであんな化け物の相手なんかしなくちゃならならないんすっか!」


「志度。ここはどこだ?」


「ここって何言ってんすか比婆さんっもしかしてボケたんすか?」 


「いいから答えろ」

 

 有無を言わせぬ比婆の言い方に渋々と志度が答える。


「そんなん餓鬼洞に決まってんじゃないっすかっ」


「違う。俺の言ってるのは、そこじゃねぇ」


「ならなんなんすか!?」


 いまいち要領を得ない比婆の言葉に、自分がバカにされたと思った志度が、少しばかり声をとがらせて切れ始める、


「志度。俺はこの餓鬼洞がどこにあるかって聞いてるんだ」


「んなん山ん中に決まって……あっ」

 

 比婆に言われ、ようやく志度はこの餓鬼どもの湧き出てくる餓鬼洞が、人の住む町の近くに位置していることを思い出していた。


「やっと気づいたか? そうだ。俺たちがここで尻尾巻いて逃げたら、ふもとの町に、無防備にあの化けもんを放つことになる」


 比婆が何を言いたいのかを悟った志度は、さすがにもう何も言い返せなくなり、先ほどまで声に棘のある口調は鳴りを潜め、無言になっていた。


「いいか志度。俺たちは陰陽師だ。そして陰陽師の役割はわかるな?」


「悪しき悪鬼や妖怪の類から、人間を護ることっす」


「ああ、だからたとえ敵わないと分かっていても、俺たち陰陽師は万に一つの望みにかけて、強大な敵にも立ち向かわなければならない」


「ああもうわかったっすよっそこまで言われて逃げだしたんじゃこの志度竜二の名前がなくっす! いいっすよっやってやるっすよ! 見事な死に花咲かせて見せるっス!」


 覚悟を決めた志度が、両の拳を握り締めて気合の声を上げた。


「うしっそれだけの覚悟があればいいだろう」


「うっす! で、比婆さんっ俺はまず何をすればいいんすか! また大火術の火炎柱で奴を焼けばいいんすか!」


「いやあれはいい。でだ志度。てめえ火術の爆炎術はつかえるか?」


「比婆さん俺を誰だと思ってるんすか? 今や落ちぶれたりといえど、泣く子も燃える志々度家の男っすよ、爆炎術ぐらい使えて当然っすよ!」


「なら志度っ俺がなんとしてでも奴を餓鬼洞に押し込むってめえはその隙に餓鬼洞の入り口を破壊して塞げ」


「でもそれじゃ比婆さんが生き埋めになっちまうっすよ!?」


「その点は問題ない。いいから志度ってめえは俺の言うこと通りにしてりゃいい。あとは俺が何とかする!」


「わかったっス信じてるっスよ比婆さん!」


「おうよ!」

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