第四十四話 獄炎鬼⑰ 蹂躙
俺は意識を取り戻し、未だに巨大な縦穴に落下を続ける獄炎鬼の体に攻撃を加えていく。
まずは、右腕だ❗
俺は自分が四肢を引きちぎられた順番をなぞるようにして、手始めに獄炎鬼の巨大な右腕の上腕部の付け根の肩口に狙いを定めると、先ほど俺の頭を掴んでいた獄炎鬼の指を溶かし切った時と同じように、両腕で抱えるようにして力(呪力)を込めて締め上げる。
すると、俺の両手が再び熱を持ち始め、先ほど俺を掴んでいた獄炎鬼の指を、俺が力任せに握りしめて溶かし切った時のように、俺の手のひらに熱が集まり獄炎鬼の右腕を溶かし始めた。
獄炎鬼は何とか俺の攻撃から逃れようと、俺に抱え込まれている右腕に力を込めて、俺を振りほどこうとするが、残念ながら俺に抱え込まれている右腕はすでに解け始めていて、獄炎鬼の命令通りには動かなかった。
そのため獄炎鬼は残った左腕に力を込めて、俺を右腕から引き剥がそうと掴みかかるが、火吹き人に進化を果たした俺の体に触れるや否や、火耐性の上位互換である炎耐性を持っているにも関わらず、俺の右腕を掴んだ獄炎鬼の左手から、肉を焼き焦がすようなジュッという音と共に炎と煙が上がり、獄炎鬼の左手のひらの肉を焼いた。
「ガアッ⁉」
さすがに触れただけで煙が上がり、自分の腕が燃え上がるとは予想だにしていなかった獄炎鬼は、戸惑いと痛みのない交ぜになった顔をしながら声を上げて、俺の腕から左手を放した。
当然獄炎鬼がそうしている間にも、俺は獄炎鬼の右腕を抱えたままだったために、獄炎鬼の右腕は根元から、俺の両手から発せられる肉を焼き溶かすほどの高熱によって、溶かし切られていた。
もちろん溶かし切られた右腕は、巨大な縦穴に吸い込まれるように落ちていった。
巨大な右腕が根本から溶かし切られ、右腕を失った獄炎鬼は、痛みによるものか、はたまた俺に右腕を持っていかれた怒りによるものかはわからないが怒号を響かせる。
「グガアアアアアッッ!!」
獄炎鬼の怒号を聞き、進化前の俺なら逃げ腰になっていたか、すぐにこの場から戦略的撤退との理由をつけて逃げていただろう。
だが今の火吹き人に進化した俺には、獄炎鬼の怒号は、夜長に耳にする虫のさえずりぐらいにしか聞こえず、ただうるさい。としか思えずに、獄炎鬼の口を軽く殴り付けて怒号を閉じさせた。
そう、俺は軽く獄炎鬼の顎を殴り飛ばしただけだというのに、獄炎鬼は顎先の肉を溶かされて、顎骨の一部を露出させていた。
どうやらこの様子からして、進化を果たした俺と獄炎鬼の間には、天と地ほどとまではいかないが、逆立ちしようともひっくり返せないほどの実力差があることがわかった。
それからは、もはや作業だった。
俺は怒りの怒号を上げる獄炎鬼の残った四肢を、両手に力を込めて一本一本確実に溶かしきっていった。
そしてとうとう全ての四肢を俺に引きちぎられ、頭と巨大な胴体のみとなった獄炎鬼は、観念したかのように目をつぶった。
ここに来てようやく自分のステータスを確認する余裕ができた俺は、ステータスを開いた。