第四十三話 獄炎鬼⑯ 火吹き人(ひふきびと)
進化した俺が目を覚ますと、すでに最後に残っていた俺の左後足が、引きちぎられて貪り喰われ、俺の胴体も半ばまで喰われている状態だった。
この様子からして、獄炎鬼はまず俺が逃げられないように俺の四肢を引きちぎり、喰らった後に胴体を喰らい。最後に俺の頭を喰らうつもりのようだった。
この状況で幸いだったのは、俺が無機物であったために、有機物のように血や肉や臓器といった生物特有の弱点が存在していない点だった。
そのため俺は、例え四肢を失い。胴体と頭だけになろうとも、生をつなぐことができていた。
そして獄炎鬼が、残った俺の頭と体を一飲みにしようと、指先でつまみながら、野太い凶悪な牙の乱雑に生えている口に放り込んだ瞬間だった。
胴体と頭だけになっていた俺の体が、進化を始めたのは。
頭一つだけになっていた俺は、進化して新たな体と四肢を取り戻していく。
火吹き人の姿かたちは人のそれに近く。身長は二メートルほどの中肉で、溶岩石のようなものでできた硬質感のある皮膚は、火吹き人の名前の通りに所々皮膚が裂けていて、わずかばかりの火を吹いていた。
そして火吹き人の硬質感のある岩肌のような頭には、当然顔もあって、火をそのまま目玉にしたような二つの赤い炎色の瞳と、申し訳程度の岩肌の出っ張りで形作られた鼻や口が存在し、顔の表皮も全身の肌の皮膚と同じように所々裂けていて火を吹いていた。
進化を果たし、新たな体を手に入れた俺は、進化して新たに得たスキルや体の調子を確かめるより先に、目の前で大口を開けて、俺を丸呑みにしようとしている獄炎鬼の鼻っ面をまず思いっきり蹴りつけてやった。
「ガァッ❗?」
獄炎鬼は死に体となっていた俺が突然息を吹き返し反撃してきたので、戸惑ったような声をあげた。
獄炎鬼が戸惑っている間に、俺の頭を二本の巨大な指先でつまんで俺の体を拘束し、口に放り込もうとしていた獄炎鬼の指を俺は両手で掴んで力を込める。
すると俺に掴まれた獄炎鬼の指は、俺が掴んだ場所から簡単に二つに別れて先端部が巨大な縦穴の闇の中へと消えていった。
どうやら指を落とした感触から言って、俺の力で指を握り潰したというよりも、俺が力を込めたと同時に、俺の手のひらが熱くなり、獄炎鬼の指を溶かしきったといった感じだった。
そのせいで掴まるものを失った俺の体は、巨大な縦穴へと落下を始める。
まあずっと落下しながら戦っていたから、今さら落ちたところでなんとも思わないが。とはいっても、足元になにもないというのは、いささか心細い。
とはいえ、まあそんな些細なことはどうでもいい。今は今の今までいたぶってくれた奴にお礼をするという最優先の目的が今の俺にはあるからな。
人間型の有機物となったために、俺は怒りに顔を歪めると、獄炎鬼の巨大な体を足場に奴の顔までかけ登ったと同時に、今の今まで無機物で思い通りに大声を出せなかった鬱憤と共に、腹の底から怒りの咆哮を上げた。
「GAAAAAAAAAAAAAAAッッ!!!」
俺は腹の底からの湧き上がってくる怒りと共に怒号を上げながら、今までつもりに積もった恨みの念を込めて、獄炎鬼の頭をぶん殴る!
俺の拳をまともに喰らった獄炎鬼は、頭を後方にのけぞらせながらすでに見えなくなった天井をあおぐとガバッと呼気と少量の火を吐き出した。
俺は天井をあおぎみるように仰向けになっている獄炎鬼の頭部に跳躍すると、顎を両膝で固めて馬乗りになり、スキルなど使わずに積年の恨みを込めて、殴り始めた。
そうして数十発ほど俺の拳が炸裂した頃だろうか?
怒り浸透に達したのか? はたまたこのままではまずいと思ったかはわからないが、獄炎鬼が顎を両足で拘束し、顔にまたがりながら殴りつづける俺を何とかしようと野太い凶悪な牙の並んでいる口を開けた。
獄炎鬼の口の中には、見てわかるほどに濃密な炎が収束していて、その炎て俺を焼き殺そうとしているのは、明らかだった。
俺は有無を言わさず獄炎鬼の中に手を伸ばすと、一切ためらわずに濃密に凝縮されたはずの炎を握り潰し、口内で爆発させた。
「❗?ッ❗?ッ」
たまらないのは獄炎鬼である。まさか自分が吐き出そうと濃縮していた炎を口の中でいきなり握りつぶされ爆発させられたのだ。その衝撃や受けたダメージは計り知れなかった。
口内で巨大な爆発が起きた獄炎鬼は、口から黒い煙を吐き出しながら白目を向いて意識を飛ばそうとするが、俺はそうはさせじと喉仏を蹴りつける。
人体の急所である喉仏蹴りは、人間と同じような見た目や体の構造を持ってある鬼にも有効だったようで、獄炎鬼は、❗? といった感じに、声がでないような苦しげな呼気とわずかばかりの火を吐き出すと共に目を覚ました。
そうだ。気を失って楽に死ねると思うなよ?
お前が生きたまま俺の四肢を引きちぎり、俺の体を貪り喰った恨み。
俺が味わった痛みと苦しみ。
そっくりそのまま味合わせてやるんだからよ!
楽に死ねると思うなよっ獄炎鬼っっ❗❗
「GUGAAAAAAッッッ!!!!!!」
未だ言葉をうまく発せない俺は、心の中で叫び。怒りの怒号を上げたのだった。