第三十八話 獄炎鬼⑪ 火を喰う鬼
獄炎鬼の喜びに満ちた咆哮を耳にしながらも、獄炎鬼の手の中から何とか逃れようと、方向感覚を失いながらも俺は、必死に体中の力を振り絞り体をねじって獄炎鬼の手の中から抜け出そうとする。
だがそんな俺の行為が気に食わなかったのか、俺が体をよじって獄炎鬼の手の中から抜け出そうとしていることに気が付いた獄炎鬼が、俺の体を鷲掴みにしている手とは逆の手で、俺の右前足を掴むと一気に引きちぎった。
な!? マジかよ!?
最初に俺の脳裏に浮かび上がった言葉は、無機物である俺の四肢を掴み引きちぎられたことに対する驚きだった。
引きちぎられた俺が驚きに目を見開いていると、俺の前足を引きちぎった獄炎鬼は無造作に、引きちぎった俺の右前足を口に運びうまそうに咀嚼し始める。
そこに来て初めて俺は、自分の足が獄炎鬼によって引きちぎられ、喰われたことを認識し、無機物である体を引きちぎられるというあまりに予想外の展開に忘れていた肉体的による痛みというよりも、精神的な痛み。
つまり自分の体の一部を強引に引きちぎられ、喰われたという精神的な痛みが俺を襲ったのだった。
俺は顔を苦悶の表情に歪ませると、言葉を発せない俺は、心の奥底で悲痛な悲鳴を上げた。
アッアアアッァァアアァアアアアァアアァァァアアアアアアアアアアーーーーー
ッッ!!!
今まで悲鳴らしい悲鳴を上げていなかった俺の顔が苦痛に歪むのを見て、獄炎鬼は嬉しそうに口を吊り上げると、もっと俺の悲鳴を聞こうとでもいうのか、今度は残っていた俺の左前足を引きちぎった。
ぐあああああああああ痛い痛い痛い痛い痛いっ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬやめろやめろやめろやめろやめろ! 頼むから俺をちぎらないでくれ! 頼むから俺を食わないでくれ! という思念を込めて俺は獄炎鬼に視線で訴えかけ懇願した。
俺の心からの言葉を理解したのか、獄炎鬼はコクリと一つ頷くと、今度は俺の右後ろ脚を引きちぎり満足げな顔で咀嚼し始めた。
獄炎鬼の俺をいたぶって殺してやろうという行動を見た俺は、このまま何のリアクションも起こさなければ、ここでこいつにいたぶられながら、骨の髄まで食われることになると悟った。
くそくそくそくそっなにかなにかてはねぇのかよ!
俺はこのままなにもせずに、いたぶられながら殺されるわけにはいかないと思い。四肢の四分の三を奪われた体を必死に動かしながら、何とかここから抜け出す手はないのかと模索する。
しかしすべての四肢があった時ですら、獄炎鬼の手の中から抜け出すことができなかったのだ。
今更左足一本になった俺が獄炎鬼の拘束から抜け出せるはずもなかった。
だがそれでも俺は、何とかして抜け出せる方法はないかと、藁にも縋る思いで自分のステータスを鑑定してみた。
名前 なし
種族 炎獅子 火の玉族や大火の類縁(無機物)
状態 四肢欠損 流血(四肢欠損によるHPMP流血。時間毎にHPとMPが自然現象する)
レベル 34/35
HP 30/82
MP 6/64
攻撃力 0
防御力 0
素早さ 12
呪力 43
耐性
耐火 +55
耐水 -
スキル 火の粉 レベル5
浮遊 レベル5
火の玉特攻 レベル2
大火 レベル4
炎の爪 レベル3
炎の牙 レベル3
炎の渦 レベル4
火炎放射 レベル4
融合スキル 『火炎竜巻』レベル1
特殊スキル 物理無効
四肢歩行
特性スキル 燃え移り レベル5
寄生 レベル4
称号 集団殺し
残虐
無慈悲
狡猾
うかつ
大物殺し
虐殺
装備 なし
進化に必要なレベル1 残り経験値13
だがやはり、というべきか。俺のステータスの中にこの状況をひっくり返せるほどのスキルは見当たらなかった。