第三十六話 獄炎鬼⑨ 獄連火球
獄炎鬼の攻撃をかわした俺は、『大火』と『獄炎火球』がぶつかったときに生まれた衝撃波をうまく体でとらえると、時折赤い光の点が瞬くだけの暗闇が広がる巨大な竪穴の壁へと飛んだ。
スキル衝突による衝撃波で、俺の体がじょじょに壁に向かって近づいていくと、はっきりとこの巨大な竪穴の壁面が見えてくる。
遠くから見た感じでははっきりとはわからなかったのだが、どうやらこの壁には、らせん階段のような土壁で作られた五十センチから一メートルほどのでっぱりの道が作られていることが判明した。
そしてそのでっぱりを使って、時折瞳を赤く光らせながら、上へ上へと進む餓鬼たちの姿が見受けられた。
どうやら先ほどこの闇の中で見た赤い光は、餓鬼たちの瞳が時折赤く光ったりしたもののようだった。
よしっ運がいい!
竪穴の壁面にあるらせん階段にいる餓鬼たちの姿を見た俺は、脳内で喜びの声をあげる。
なぜなら、この竪穴に落ちた瞬間、もう餓鬼によるレベル上げを諦めかけていたからだ。
理由は簡単だ。こんな真っ暗闇の巨大竪穴の中に、餓鬼が存在できるはずないと思っていたからだ。
まぁ当然の認識だと思う。
だって、横幅が直径二十メートルの竪穴だ。誰だってこの地獄世界においての底辺に位置している餓鬼が存在していると思うはずがない。
だが、竪穴にはらせん階段のような土の道があって、そこに餓鬼たちがいた。
これを幸運として何を幸運といえようか
俺は、自分の着地点付近にいる餓鬼たちを『炎の爪』で切り裂きながららせん階段に着地すると、獄炎鬼へと視線を向ける。
もちろん先ほどのスキル衝突による『獄炎火球』の誤爆によって獄炎鬼がこの縦穴の底に向かって落下していく姿を見るためだ。
だが俺の振り返った先に獄炎鬼の姿は見受けられなかった。
どういうことだ? と思い俺が頭に? マークを浮かべていると、突然震度5強クラスの地震が俺の足元を襲った。
なんだ!?
俺は地震によってらせん階段から振り落とされまいと足に力を込めて、その場に踏みとどまる。
そうしているとやがて地震が収まっていった。
ふぅ収まったか? にしてもこの地獄のような世界にも地震なんてのがあるんだな。俺が感想を漏らしていると、また激しい揺れが俺の足元を襲う。
またかよ!? ここは地震大国日本か!? そう俺が冗談めかして突っ込んでいると、不意に真下からいやな感じの悪寒がせりあがってきた。
なんだ? なんだ? なんだ? とにかくこの場にいたらまずい! と俺の勘が働きかけてくる! 俺は四肢に力を籠めると、その場から一足飛びに駆け抜けて、螺旋階段の上層へと移動し、悪寒から遠ざかった。
それから俺は、先ほどの悪寒の原因を確認しようと、駆けながら後ろを振り向くと、俺のいた足元に螺旋階段の下から巨大な火の玉がぶち当たって、らせん階段ごと壁面を粉々に吹き飛ばした。
へ!? と、脳内で間抜けな声を上げながら、その場に足を停止させた俺は、巨大な火の玉が飛来してきたと思われる真っ暗闇の竪穴の底を見つめると、案の定そこに見慣れた姿を見つけていた。
そう、スキル衝突と誤爆による衝撃で真っ逆さまに竪穴に落下していったはずの獄炎鬼が、いつのまにか竪穴の壁面にとりついてらせん階段を破壊しながら力任せに這い上がってきている姿があったのだった。
マジか!?
どうやらさっきの地震は、一度目が獄炎鬼が巨大な竪穴の壁面にへばりついた衝撃で、二度目が壁面をよじ登ろうと土壁に指をめり込ませながら、這い上がってくる衝撃から来たもののようだった。
くそっ獄炎鬼の野郎ってっきりこの竪穴に落下したと思ってたのに、しぶてぇ。
俺は吐き捨てながらも、巨大な縦穴の壁面にある餓鬼の徘徊する土の螺旋階段を上り始めた。
俺は土の螺旋階段を上層を目指して徘徊する餓鬼たちを燃え移りで焼き尽くしつつ、獄炎鬼から少しでも離れようと走り続けていたのだが、獄炎鬼は俺の姿を見つけると、先ほどのスキル衝突による誤爆によって、怒りが、憤怒に昇華したように、自らの正面付近に、数百の火炎玉を作りだしていた。
そして、俺、否。俺を含む俺の今後の向かう先である土の螺旋階段を含む広範囲に向かって、五十センチほどの数百の『獄炎火球』の縮小版、『獄連火球』を叩きつけてきた。
ちょっそれっ反則だろ!?
いきなり下方より降り注いだ『獄連火球』によって、俺のいた場所はおろか俺の進むべき道であら螺旋階段や土壁までもが破壊されてしまう。
もちろん。足場を完全に失った俺は、獄炎鬼の思惑通りに巨大な竪穴へと落下していった。