第三十五話 獄炎鬼⑧ 餓鬼洞の穴
って、ちょっとまてっ底がねぇなんてきいてねぇええええぇえええええええっっ!!??
俺が脳内絶叫を響かせながら落ちていった餓鬼洞の穴の中は、時折、小さな赤い光が瞬くほどのひどく暗い闇に満ちているところだった。
心の中で叫び声を上げながらも、俺は徐々に落ち着きを取り戻し、落下しながらも自分の体勢を整えつつ、落ちている空間を観察する。
どうやら俺の落ちている穴の中は、直径が約二十メートルほどで、縦のトンネルのようにまっすぐに落ちていくつくりのようだった。
で、巨大な縦穴の壁は俺が見たところ土気色でできていて、多分だが、先ほどまでいた階層の地面や壁と同じ素材。つまり、土系統の素材でできているようだった。
ちなみに俺が竪穴の中を観察できたのは、この地獄のような世界に転生して、この妖怪のような体に生まれ変わったおかげで、多分人間? でいた時よりも、目がよく闇の中でもかなりの範囲まで見渡すことができたからだ。
そして、なにより俺の体自体が燃え続けている炎のようなものでできているために、俺の体自体がろうそくの灯りのように発光して、周囲を照らしているせいもあって、暗闇の中でも周りや遠くが見渡せるというのもあるのだろう。
問題はこれからどうするか? ということだ。
さすがにこの竪穴に落下している俺を獄炎鬼が追ってくるとは思えない。だとすると……とりあえず、登るしかないんだけど……
俺は俺が落下し続けていて、俺の炎で照らされているにもかかわらず、未だ底の見えない穴の底を覗き込みつつ、今度は俺の落ちてきた餓鬼洞を見上げる。
壁を伝っていけば……行けるか?
思い試してみようと壁に近づいていこうとすた瞬間、俺の頭上から燃え盛る火球が降ってきた。
マジか!? あの獄炎鬼の野郎この穴に蓋をしているような俺のいた階層から、『獄炎火球』を吐き出してきてんのかよ!? ああもうこうなると、奴の『獄炎火球』をかわしながらこの竪穴の壁を足場に上らなくちゃいけないのかよ!? 冗談。
俺がまいったといった感じに悪態をついていると、さらなる問題。否、問題児が空から降ってきた。
そう、獄炎鬼が俺を追って俺のいる穴の中に飛び込んできたのだ。
馬鹿かあいつはっ! こんな底なし沼みたいな竪穴に飛び込みやがって、地面に激突した瞬間に、飛び降り自殺したみたいになって死ぬぞっ!
俺は俺を追ってこの巨大な縦穴に飛び込んできた獄炎鬼の愚かな行為をバカにしながらも考える。
待てよ。もし俺が頭上から降ってくる獄炎鬼の攻撃をかわし、奴をこの竪穴の底に叩きつけることができれば、奴を倒すことができるんじゃないか?。
俺はそのことを思いつくと、体重差で加速して俺よりも落下速度が速くすぐにでも俺に追いつこうとしている獄炎鬼の巨大な体をかわそうと動き始めた。
頭上から降ってきた獄炎鬼は、暗闇の中の紅一点で光を放ち、目立ちまくる俺に向かって俺の頭上から広範囲殺戮スキル『獄炎放射』を浴びせかけてくる。
あ~もうっあんな広範囲攻撃スキルどうやってかわせってんだよ! しかも上から下へと落下するときの重力加速がわずかばかりかかって速度もましてるみたいだし、あ~くそっ俺も節約しながらやってたとはいっても、レベリングでかなりの呪力とMPを使ってるってのに、けどしかたねぇ。あんなもんまともに喰らったら、ただじゃすまないのは目に見えてる。
俺は頭上から降ってくる獄炎鬼の攻撃スキル『獄炎放射』をかわすためにタイミングを見計らって頭上に顔を向け息を吸い込むと攻撃スキル『火炎放射』を発動した。
俺の発動した『火炎放射』は俺の頭上で、炎の盾のような役割をはたし、何とか俺は獄炎鬼の『獄炎放射』をやり過ごした。
獄炎鬼の『獄炎放射』をやり過ごした俺がほっと一息吐くと、俺の野性の勘が脳内に鳴り響いた。
まだ、まだだ。まだ終わってない! 俺はとっさに『火炎放射』を横に向けて、吐き出して体を横に逃がした。
数舜後。俺のいた空間に赤道色の巨大な拳が風切りの轟音を響かせて、行き過ぎていった。
ふぅどうやら獄炎鬼が、俺に向かって頭上から『獄炎放射』を吐き出しながら、自分も『獄炎放射』の中に飛び込んで俺を殴りつけようとしてきていたようだった。
そこを野生の勘で察知した俺が、何とか『火炎放射』でからだの向きを変えて、獄炎鬼の攻撃をかわしたのだった。
そして俺が攻撃をかわしたのを見ていた獄炎鬼が今度は口を開き俺に向かって『獄炎火球』を吐き出そうとしてきた。
させるかよっ
俺はとっさに炎を口元に集めて『獄炎火球』を吐き出そうとしている獄炎鬼の口内に向かって、呪力を凝縮した『大火』を解き放つ。
俺が解き放った『大火』は、獄炎鬼の口内で作られ始めている『獄炎火球』にぶち当たると、『獄炎火球』を爆発させた。
ぞくにいう誘爆というやつだ。
つまり俺は獄炎鬼が『獄炎火球』を作りだした直後。口から吐き出す前に獄炎鬼の口の中に大火を放ち。獄炎鬼の作りだそうとした『獄炎火球』を誤爆させてやったのだった。
口の中で大爆発が巻き起こった獄炎鬼はさすがに体をのけぞらせて、
「ガハッ!?」
と黒煙を吐き出してのけぞった。
どうやら少しはきいているようだ。
そのまま気を失って真っ逆さまに落ちやがれ!
俺が願っていると、図体に見合った頑強さがあったのか、獄炎鬼は口をガフガフと開閉するだけで、大したダメージを負っていなかったのか、すぐさま俺に視線を向けると憎しみと怒りに満ち満ちた咆哮を上げた。
「ガアアアアアアアアアッッ!!!」
はっ今更んな咆哮を上げたってもう怖くねぇっての。
獄炎鬼っお前はそのまま落下して地面に叩きつけられてくたばりやがれっ!
もう何度も獄炎鬼の憎しみと怒りに満ちた咆哮を耳にしていた俺は、奴の咆哮を鼻で笑い飛ばして悪態をついてやった。