第百二十八話 双頭亀竜(そうとうきりゅう)
はぁ,はぁ。な、何とか脱出できた。今回はマジでやばかったと思いながら、何とか石の柱を使って水の中から抜け出してきた俺は、息を切らせながらも、水中から脱出する時に使った石の柱の上から、川の中でも消えぬ『憎悪の炎』を全身に浴びて、苦しみもだえ続ける地亀と鰐亀を見下ろしていた。
それにしても、『憎悪の炎』があって助かったぜ。あれがなければ多分今頃、地亀や鰐亀たちと俺の立場が逆転していたはずだ。
にしても『憎悪の炎』ってのは、俺の持つほかの炎系のスキルと違って、水の中でも普通に使えるのな。
細かい理由は俺にもわからないけれど、多分使っている火の根源が、ほかのスキルとは少しばかり違うのかもしれない。
まぁそんなことは今はどうでもいいか。とにかく今は、生き残れたことを素直に喜ぶことにしようと俺が思っていると、『憎悪の炎』に全身を包まれて川の中で何とか火を消そうと苦しみながらのたうち回っていた鰐亀が、いきなり同じように水の中でのたうち回る地亀に自分の体をぶち当てて、地亀の体制を崩すと共に、地亀の甲羅にガブリと喰らいついていた。
鰐亀に喰らいつかれた地亀は、手足をバタバタとバタつかせて必死の抵抗を試みるが、鰐亀はおかまいなしに顎に力を込めて、地亀の胴体を半ばから喰い千切った。
まるでそれが合図となったかのように、残った地亀と鰐亀たちは同族同士を襲い始めたのである。
は? なにしてんだこいつら? 追い詰められて頭がおかしくなっちまったのか? 地亀や鰐亀たちが一体何をしたかったのかわからなかった俺は、ただ事の成り行きを見つめていた。
そうして数分もしないうちに、血で血を洗う共食いのような地亀と鰐亀たちの争いは唐突に終わりを告げる。
もちろん血で血を洗う同族同士による共食い戦争に勝ったのは、『憎悪の炎』に全身を焼かれながらも、攻撃力防御力ともに頭一つ分抜け出した実力を有していた鰐亀であった。
鰐亀は最後の一体の地亀の胴体に噛みついて、体を真っ二つに喰いちぎって息の根を止めると、『憎悪の炎』を浴びせた俺に対する憎しみによるものか、はたまた同族同士の殺し合いをしたための悲しみによるものか、それとも同族同士の争いに勝利した喜びによるためかはわからないが、天に向かって狂ったような狂声を発する。
「ガアアァァアアッ!!!」
そして鰐亀が狂声を発すると共に、鰐亀の肉が体が肥大化し始める。
鰐亀の三メートルほどの巨体は、肉が膨張して数倍に膨れ上がると共に、首が枝分かれして二本となり、背中にあっと刺々した甲羅も、体の成長と共にゴツゴツとした岩のような姿をした肉厚なものへと変わり、より頑強性を増した。
そうして完全に二つ首のガメラのような姿へと進化した鰐亀は、天に向かって吠えた。
「グルガァアアァァアアアッッ!!!」
進化し、大気をビリビリと振るわせる鰐亀の咆哮を耳にしながらも、水の中から脱出し、本来の力を取り戻したために心にゆとりをもっていた俺は、石の柱の上から冷静に、鰐亀の進化体の状態を確認した。
どうやら鰐亀の様子からして、先ほどまで全身を包んでいた水でも消せぬ『憎悪の炎』は、原理はわからないが。進化すれば消せるらしいことが判明した。
それから俺は進化した鰐亀に向かって、相手の力量を推し量るために、鰐亀の姿を凝視して鑑定を発動させた。
名前 なし
種族 双頭亀竜 (亜竜) (鰐亀の進化体)
レベル 1/60
状態 普通
HP 450/450
MP 60/60
攻撃力70×2(首×攻撃回数増加)
防御力65
素早さ1+3=4 (水中移動時に限る)
呪力55
耐性
水耐性+25
炎耐性+30+20=50 (水中補正)
スキル
噛みつき レベル5 (強靭なあごの力を利用して、簡単に岩を砕くことができる。噛まれたが最後相手の息の根を止めるか、噛みついた部位を噛み千切るか引き千切るまで決してはなさない)
水の吐息 レベル2 (口から一トンほどの小さな川のような水の塊を吐き出す)
双頭水竜の吐息 レベル1(首の個数分の水ブレス攻撃をする)
常時発動スキル
水中遊泳 レベル3 (地上を移動するよりも、水中にいる時の方が動きに素早さ補正がかかる)
攻撃回数増加 レベル1 (首の個数分攻撃回数が増加する)
称号
獰猛(腹が減ったが最後たとえ仲間であろうと食らいつく)
貪欲(己の力を高めるためならば同族だろうと糧にする)
雑食 (草や木や肉など、ありとあらゆる食物を喰らうことができる)
川の主(川の中にいる者たちを喰いつくしたものに、与えられる称号)
特徴
地獄の川や池などに住み、大生な食欲でありとあらゆる生物を噛み千切り丸呑みにする。
二つの長い鰐顔の凶悪な首を持つ、亜竜種。陸上では動きが鈍いために大したことはないが、水中で機動力を得た瞬間竜種のような化け物と化す。
水神の眷属にも肩を並べられるほどの兵。
年齢によって、頭の数が増える場合がある。
備考
纏っているゴツゴツとした岩をほうふつとさせる甲羅は、ひどく頑丈で、生半可な攻撃ではほとんどのダメージを負わない。
そして頑丈な甲羅は、ただでさえ火に強いが、水中にいる間は、特に水の加護を受けているのではないかというほどに火に強くなる。
亀から亜竜に進化したため、少しばかり自分の力に慢心している。
そのため己の力に慢心して、陸地を悠然と歩いているところを時おり知能の高い武人死人の群れなどに、頑強な甲羅の隙間を狙い切りされて狩られることがある。
次のレベルまでの必要経験値253