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第百二十七話 川の上の戦い⑤ 水中戦① 猛攻

 川の中に落下した俺の火で熱せられたような温度を持つ岩肌が水に触れた部分から、ジュッと水を蒸発させる音が上がり白煙を上げる。


 やっぱ俺の体と水の温度差のせいで、俺の体に触れた川の水が、蒸発してやがるのか? だとしたら俺には常時発動スキルの『炎の壁』などもあるのだから、もしかしたら水中の中でも、俺の周りの水だけ、川の水が蒸発してくれるかもしれない。といった淡い期待を俺が一瞬抱くも、現実はそんなに甘くなかった。


 そうやはり、というべきか。水中に落下した俺の体に触れる水の量の面積が徐々に増えると共に、火吹き人の皮膚の隙間から吹き上げる火の熱によって、常に熱せられていた俺の岩肌の熱や『炎の壁』では、次々と押し寄せる川の水を蒸発することができなくなっていったからだ。


 そして、川の水が俺の焼けるように熱い岩肌に触れるたびに、俺の岩肌から白煙が上がり、それにともない俺の体の熱も奪われていく。


 それだけならばよかったのだが、問題は俺の体の熱が奪われていくと共に、俺の体の動きそのものが鈍くなっていったことだ。


 くっどうなっていやがる!? 水に触れて岩肌が冷やされていくたびに、体の動きが鈍くなってやがる!? 今までに経験したことのない自分の体に起きている異変を感じ取り、本能的にやばいと感じた俺は、『炎の壁』の呪力を高めて、川の水を俺の岩肌に到達する前に蒸発させようとするが、いくら『炎の壁』の呪力を上げたところで、無尽蔵ともいえる質量で押し寄せてくる川の水を、すべて蒸発することなどできるはずもなかった。


 まずいまずいまずいまずいまずいっ俺の最大の防御力を誇る『炎の壁』が通じない今、俺にこの川の水に対抗する術がねぇ! しかも今までの経緯から推測すると、多分俺の体の熱は俺の体そのものを動かす原動力となっている。


 ということは、このまま何もせずに体の熱を奪われ続けた場合、俺は体を満足に動かすことすらできなくなるはずだ! もしそうなれば、ただでさえ俺の得意な火スキルが弱体化する水の中で、俺に地亀や鰐亀たちに抗う術はないだろう。


 どうするどうするどうする!? 何かないか何かないか何かないか!? と俺は若干焦りながらも、押し寄せる水を無力化する。もしくは遮断する方法を、必死になって考え始める。

 

 現状こちらの呪力は有限であり、川の水はほぼ無尽蔵に流れてくる。川の流れを変えない限り、川の水を蒸発させたりして無力化することは無理だろう。


 だとしたら俺の体に無尽蔵に流れ続ける川の水が触れないように遮断するしかない。


 けど遮断って言ったってどうすりゃいい? 


 遮断遮断遮断。という単語を繰り返すうちに、俺の脳裏に餓鬼洞で一戦交えた結界術と土壁を使っていた筋肉禿ダルマのことが浮かび上がってくる。


 そうだ土壁だ。筋肉禿げ達磨がよく俺に向かって使ってきやがった土壁で、水を遮断してやればいい。多分水を防ぐ場合においては『炎の壁』よりも、土壁の方が有効だ。だが俺に土壁を作り出せるスキルはない。ならあるスキルで代用すればいい。


 と考えた俺は、川の水を遮断するために、動きの鈍くなった手を押し寄せる川の水に向かって向けると、自分を囲うように巨大なÙ字型の石壁を、川底からせりあがら様に作り出した。


 俺の作り出した巨大なÙ字型の石壁は、俺の思惑通りに押し寄せる川の水を遮断して、俺の体を川の水流から護ることに成功した。


 ふぅこれで一息つけると俺が安堵の吐息を吐き出した瞬間、体格のいい何物かが川の流れに乗って、俺の作り出した石壁に体当たりでもぶちかましたのか。轟音と共に俺の作り出した石壁にひびを入れると、そこから川の水が入り込み、数秒後には、入り込んだ水は濁流となり、あっさりと石壁を崩壊させると同時に再び俺の体を水中に突き落としたのだった。


 が、ここで先ほどと違うのは、すでに水に対しての対抗策を俺が実行している点だった。


 そう俺は、石壁を作り出すと共に、常時発動スキル『炎の壁』と、筋肉禿ダルマのステータスに乗っていた結界壁を参考にして、自分の岩肌の表面に呪力の幕を張り巡らせていたのだ。


 チロンッ


『『呪力結界』レベル一を取得しました』


  進化の時耳にしたような音声が俺の頭の中に流れる。


 どうやら俺が『炎の壁』と結界壁を参考にして、体表面を薄い呪力の被膜で覆ったために、『呪力結界』という名のスキルを取得したようだった。


 そうして俺は新たに手に入れたスキル『呪力結界』のおかげで、川の水に触れることによって起きる体温低下現象を、多少なりとも抑えることに成功したのだった。


 完全には防げてないが、少なくともこれで今すぐどうなるということはないだろう。


 と、俺が思ったのもつかの間。水中に落ち体の動きを鈍らせた俺の四肢に何物かが牙を突き立てて喰らいつく! 


 もちろん俺の四肢に食らいついたのは、川の中に俺を落下させる下人を作った張本人である地亀たちだ。


 くそがっ放しやがれ! 俺は四肢に噛みつく地亀たちに向かって心の中で声を荒らげ怒気を向ける。


 しかし当然その程度のことで地亀たちが俺から離れてくれるはずもなかった。


 そのため俺は、体が触れていれば対象物に向かって発動できる『火線』を地亀たちに向かって発動させるが……


 『火線』が出ねぇ! やっぱ直接生きている地亀。しかも炎耐性の高い妖怪には発動しねぇか! ならっこれでどうだ! 俺は呪力を高めて『炎の壁』の火力を底上げするが、道呪力を高めたところで、水中で炎耐性のある地亀を振り払うほどの火力は発揮できそうになかった。


 くそっやっぱ水中じゃ『炎の壁』は、本来の力を発揮しねぇか! なら『集石』だ! 俺は川の底に向かって『集石』を発動させて、地亀に向かって針山を立ち上がらせるが、水中下での発動で動きを鈍くさせた針山は、完全に針山へと育ち切る前に、俺の四肢に噛みついているのとは別の地亀たちによって、尖った先端があっさりと噛み砕かれてしまう。


 そして、尖った先端部を噛み砕かれた針山は、俺の四肢に噛みついている地亀の甲羅に当たると共に、簡単に弾かれて折れてしまった。


 くそっこうなったら、獄炎鬼を葬った俺の最強融合スキル『溶岩石』を使って地亀たちを一網打尽にしてぇとこだが、『溶岩石』は、『集石』で集めた巨大な岩に『火線』で作り出した熱を集めて放つ融合スキルだ。


 今の俺の状態で、仮に水中で岩を作り出せたとしても、『火線』が使えない今『溶岩石』は作り出せない。


 まずった。まさか水中に引きずり込まれただけで、ここまで戦況が悪化することになるとは、さすがに予想してなかった。


 どうする? どうすればいい? と俺が頭をフル回転させて、考えを巡らせている間にも、ゴリッと、噛み砕かれる何とも言えない音が俺の体を通して、俺の聴覚に響き渡ってくる。


 くっまじぃっこのままだと、俺の岩肌が地亀たちによって噛み砕かれる!? 俺は全身に最大限の力を込めて、地亀を振り払おうとなりふり構わずに四肢を振り回し、拳を足を振るう。


 しかし俺の抵抗など最初から予期していたかのように、地亀たちは俺の振るう手足にがっちりと噛み付き一行に離れようとしなかった。


 しかも俺が四肢を振り回せば振り回すほどに、地亀たちの牙が俺の岩肌に食い込み始める。


 そして、たまらず俺が何とか逃げるために、右足に噛みついている地亀に向かって左腕に噛み付いている地亀ごと左腕を大きく振り上げて、振り下ろそうとした時だった。


 俺の空いた左わき腹に、巨大な鰐亀の顎が力任せに噛み付きバキボキガキといった音を鳴り響かせたのは。


 地亀に噛みつかれて、ジワジワと岩肌に牙を喰い込まされ、鰐亀に左腕を振り上げた瞬間を狙われて、左わき腹に豪快に噛みつかれた俺の体からは、骨というべきか、岩肌、というべきかが軋むような噛み砕かれるような音が、俺の体表を通して、頭に届けられる。


 くそっなんつ~やな音だよっひび割れる手足、噛み砕かれて悲鳴を上げる胴体。

俺は自分の体の上げる悲鳴を耳にして、自分の死を直感する。


 このまま水の中で岩肌を砕かれれば、多分俺は死ぬ。何となくだが、それだけは直感で感じ取った俺の奥底から、強い強い感情が湧き上がってくる。


 死ねない。


 こんなところで死んでたまるかっ


 せっかく転生前の世界に来て、嫌な記憶だが思い出して、玲子や六花っていう俺のことを認めてくれる。信じてくれる奴らに会ったんだ! 


 それになによりっ道人の野郎に、俺を殺した前世の宿敵ともいえる道人の野郎に復讐を果たすまでは死んでったまるかよぉっっ!! 


「ガアアアアアアアッッ!!!」


 俺が雄たけびを上げた瞬間。俺の体から滲み出るようにして、黒い炎が漏れ始めた。


『憎悪の炎』だ。


 俺の体から漏れ出した『憎悪の炎』は、すでに死に体であった俺が反撃してくるなど、全く予期せず完全に油断して、俺の四肢に噛みついていた地亀と、左わき腹に喰らいついていた鰐亀の全身を包み込んで、水の中でのたうち回らせる。


 俺は『憎悪の炎』に巻かれて、地亀や鰐亀が自分の体から離れた瞬間を狙って、『集石』を発動させると、石の柱を体の下から隆起させて、何とか水面下から逃れたのだった。

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