第百二十六話 川の上の戦い④ 弱点
石の柱を地亀たちに噛み砕かれて、水面へと落下していきながらも俺は、何とか水中に落下するのを防ごうと、自分の落下する先に向かって『集石』を発動させるために、とっさに真下に向かって右手をかざす。
だが、俺がスキルを発動させようとしていることを、あらかじめ見抜いていたかのように、水面にいる地亀たちが一斉に俺の方に鎌首を向けると共に、口腔からかなりの速度で大人の拳大の何かを吐き出してくる。
俺は『集石』を発動させようとしている手とは逆の左腕を体の前によせて、地亀たちが吐き出してきたものをとっさにガードするが、地亀たちが吐き出してきた何かを俺が左腕で受け止めると、俺の左腕からジュッという音共に、白煙が上がった。
どうやらこの様子からして、地亀たちが俺に向かって口から吐き出してきたのは、ソフトボールほどの大きさの『水弾』のようだった。
つまり、火吹き人である俺の岩肌の所々にある割れ目から吹いている火と、その火によって熱せられている俺の岩肌との温度差に反応して、地亀たちの吐き出して来た『水弾』の水が蒸発し、白煙を上げたのだ。
とはいっても、いくら俺と相性の悪そうな『水弾』が、幾つか俺の体に着弾したからと言って、それだけで俺の行動を阻止できるようなものではなかった。
そのため俺は、地亀たちの吐き出して来た水弾を防ぎつつ、水面に向かって『集石』を発動させる。
俺が発動させた『集石』は、俺の意図したとおりに水中から石の柱を築き上げる。
うしっこれで何とか水中落下だけは防げたと思った俺は、安堵の吐息を吐き出していた。
どうして俺がこんなにも安堵しているのかというと、原因は先ほど地亀たちが吐き出して来た『水弾』にあった。
あの『水弾』を受けた時、俺の体から水を蒸発させるジュッという音共に、白煙が立ち上った。
俺はそれを見て、『水』というものが、主に『火』を主体とした火吹き人である俺にとって、致命的な弱点なのではないだろうか? と思ったからだ。
これがただの思い過ごしならばいいのだが、もしこの考えが当たっていて、このまま俺が水中に落下してしまった場合。俺は致命的なダメージを受けてしまうことになる。
しかもその後、致命的なダメージが永続コンボで訪れる水中の中で、地亀や鰐亀とやり合わなくてはならないことになるからだ。
もしそうなれば、かなり厳しい戦いになるだろう。
俺は地亀の『水弾』を受けてから、脳裏を一瞬よぎったその考えに従って、水中には極力落下しないように心掛けて、行動していたのだった。
そうして俺の努力は実を結び、俺は落下しながら複数の地亀の『水弾』を体に受けて、ジュウッという水の蒸発する音を立てる幾つもの白煙を上げながらも、何とか自分の落下地点に作り上げた石の柱の上に着地を決めたと思った瞬間。
横手から叩き付けて来た水流によって、弾き飛ばされて今度こそ本当になすすべなく川の中へと落下していったのだった。