第百二十一話 河川敷の戦い③ 地蜘蛛の群れ
どうやらこの鑑定結果からして、俺が地中の中だと思っていたのは、地下に掘り進められた空洞に沿って、地蜘蛛が糸で作った円筒と呼ばれる地蜘蛛の巣の中のようだった。
捕らえられていた地蜘蛛の巣穴から空中に飛び上り、巣穴から飛び出して来た地蜘蛛の鑑定を終えた俺は、河川敷に向かって素早く半径五十メートルほどの気配探知をかけると、出るわ出るわ。地蜘蛛と思われる妖怪たちの反応。その数ざっと四十体ほど。
俺は河川敷に広がる地蜘蛛たちを時間をかけず一掃するために、地面に着地を決めると同時に、足先に呪力と意識を込めて蜘蛛が巣を張り巡らせるように、俺の着地点を中心にして、半径20メートルほどに『火線』を放射状に展開した。
もちろんいくら俺の『火線』がそれなりに強力だとしても、土の中に隠れ住む地蜘蛛を焼き殺すことはかなわないだろう。
だから俺は地蜘蛛たちを一瞬で一掃するための罠を張ることにした。
そして、その罠を俺はすでに『火線』を放つと同時に張り巡らせていた。
俺の足先から蜘蛛の巣のように放射状に展開した『火線』の気配を、巣穴の天井である蓋から感じ取った十四、五体の地蜘蛛たちが、獲物と勘違いをして、一斉に土煙を上げて巣穴から飛び出してきたからだ。
そう俺の張った罠とは、自分が隠れ住んでいる巣穴の天井(蓋)の上を通った獲物の振動を感じ取った地蜘蛛たちが、獲物を捕獲しに巣穴を飛び出してくるという地蜘蛛の習性を利用したものだった。
土煙を上げて、『火線』の気配を獲物の気配と勘違いして、巣穴から次々と飛び出してくる地蜘蛛たちに向かって、俺は『火線』を通じて一斉に火柱を立ち昇らせる。
俺の立ち昇らせた火柱は、ものの見事に巣穴から何の疑いもなく獲物を狙って飛び出して来た十四、五体ほどの地蜘蛛たちを一斉に炎に包み込み焼き殺したのだった。
これで俺の気配探知に引っかかった地蜘蛛の三分の一ちょっとは減らせたか? そう思いつつ気配探知を発動させて残りの地蜘蛛の数を確認する。
俺の発動した気配探知に引っかかった地蜘蛛の数は、残り二十六体ほど。内訳はこうだ。
俺の向かう川のある前方に六体ほどで、あとは俺の進行方向とは無関係な左右の河川敷に約半数づつだ。
とりあえず俺は、左右にいる地蜘蛛は無視して、俺の向かおうとしている川のある方角の進路上にいる地蜘蛛だけを排除しつつ進もうと思った。
のだが、ここで先ほど地蜘蛛の鑑定結果に、瘴気を撒き散らし地域を汚染するという気になる項目があったことを思い出した俺は、ここでこいつらを野放しにしておくと、この地域が汚染されて、後々面倒なことになるのではないか? という考えが脳裏をよぎった。
そのため俺は、後々の脅威を少しでも減らしておくことで、人的被害を最小限に抑えるためにも、少し手間だが、とりあえず気配探知で確認できただけの地蜘蛛を始末してから川向うに渡ることに決めた。