第百十九話 河川敷の戦い① 餓鬼の向かう先
そうしてスキルチェックをしながら、舗装された道なりに進む餓鬼の群れを追跡していると、いつの間にか高さ三メートルほどの土手に到達していた。
土手か。ってことはこの土手を超えた先は川か? と俺が思っていると、餓鬼の群れは、舗装された道が土手によって遮られてT字路になったために、右に曲がり進んでいった。
俺のいる位置からは餓鬼たちが曲がっていった方向に、雑木林などがあるせいで、餓鬼の群れの向かう先に何があるのかが分からなかったので、俺は餓鬼の群れの向かう先に何があるのかを確かめるために、土気色をした土手を駆けあがることにした。
土手に上がった俺の視界に入ってきたのは、群れからはぐれたと思われる餓鬼たちが徘徊するだだっ広い河川敷と、川幅が二十メートルはある少しよどんだ色の水を流し続ける大きな川と、その川を渡った先。土手を超えたずっと遠くに、人間たちが建築したと思われる幾つもの高層ビルやマンションなどの姿だった。
この様子から推察すると、この大きな川を越えた先には、多数の人間が住まう街があるようだった。
俺は自分の視界に入って来る大きな川や河川敷、高層ビルや高層マンションなどから視線をずらし、土手によって遮られた餓鬼の群れが曲がっていった方角へと視線を向けた。
俺が視界に収めた餓鬼の群れの向かう五百メートルほど先の方には、人間が作ったと思われる横幅二十メートルほどもある川と、川の左右に広がる幅五十メートルほどの河川敷を同時に渡るための大きな鉄橋がかかっていた。
どうやら道なりに進んでいる餓鬼たちは、川を超えることのできるあの鉄橋を目指しているようだった。
しかもすでに、餓鬼の群れの先頭集団は鉄橋を渡り切っているらしく、川を越えた先にある土手の向こう側から、火の手が上がっている光景が見て取れた。
どうやら向こう側の土手にさえぎられてあまりよく見えないが、川向うには高層ビルや高層マンションだけでなく、都市の中心部にある高層建築物を取り巻くようにして、人間たちの住まう幾つもの住宅街が広がっているようだった。
そして、火の手が上がっていることから見て、十中八九。鉄橋を渡った餓鬼の群れが、住宅街にいる人間たちを襲っているのだろう。
もし俺がこのまま餓鬼の群れと同じように、悠長に舗装された道を道なりに進んで鉄橋を渡り、餓鬼の群れを追っていったとしたら、その間にも川向うにあると思われる住宅街を襲っている餓鬼の群れによって、住宅街に住んでいる人間たちに多大な犠牲が出てしまうはずだ。
それに気が付いてしまった俺は、玲子や六花たちとの良好な関係を維持するためというのもあったが、この状況に気が付いてしまった以上。人間たちを蹂躙している餓鬼の群れを放置しておくのも目覚めが悪いと思い。ここまで追跡してきた餓鬼の群れの追跡を一時中断し、今頃川向うの住宅街を蹂躙しているであろう餓鬼たちの元へ向かうために、川幅が二十メートルはあると思われる川を迂回して鉄橋を使わずに直進することに決めたのだった。
そうしてこれから自分のなすべき方向性を決めた俺は、川を渡るために、すぐさま川のある河川敷に向かって土手を下っていった。