第百十六話 初心に帰ってスキルチェック① 『火線』
かといってあまり時間もかけていられそうにない。
人の街に向かう餓鬼の群れに視線を向けながらそう思った俺は、餓鬼を追跡しながら、スキルチェックすることにした。
幸いなことに、実験台は目の前に腐るほど居る。
俺は久方ぶりに全快した自分の体を動かし、体の動きや間接の曲がり具合などを確かめながら、早速街に向かう数多の餓鬼の群れを追跡しながら、スキルチェックを開始することにした。
とりあえず今俺が手にしているスキルは、火吹き人に進化してからかなり頻繁に使うスキル『火線』に『集石』。常時発動スキルの『炎の壁』に、接近戦で大鬼相手に時たま使う『炎熱拳』。それに六花を腐餓鬼たちから助けるときに使った『炎呪縛の鎖』。そして、最近得た呪力を燃やす黒い炎『憎悪の炎』に、現時点で獄炎鬼を葬った俺の最強融合スキル『溶岩石』だ。
その中からまず俺が最初のスキルチェックに選んだのは、常日頃かなりお世話になっているスキル『火線』だ。
俺は『火線』の特徴をより詳しく知るために、手が地面に触れていない状態でも発動するのかどうか、餓鬼の群れのいる方向に向かって右手の平を向けて、人語を話す練習がてら、口をもごもごと動かし、片言ながらスキル名を口にする。
「『ひ・・せん・・・』」
スキル名を呟いた俺の右手から『火線』が飛び出して空中を迸ると、餓鬼の群れに肉薄し、餓鬼の群れに到達すると共に、『火線』から火柱が吹き上がって、餓鬼の群れに火をつけて、次々と餓鬼どもを火達磨にしていった。
となればよかったのだが、実際には餓鬼の群れに向けた右手の平からは『火線』が飛び出すことも、空中を迸ることもなかった。
どうやら俺がよくお世話になっている『火線』は、俺が地面というか『火線』を迸らせる対象物に手を触れていないと発動できないようだった。
なるほど『火線』は、俺が対象物に手を触れていないと発動できないか。
ん? まてよ。対象物に手を触れていなければ発動できない? ということは、俺の手以外が対象物に触れていた場合はどうなるのだろうか?
ふと疑問に思った俺は、自分の発想を確認するために、足が地面についた状態で意識と呪力を足先に込めてスキル『火線』を餓鬼の群れに向かって発動させてみる。
「『ひ・せ・・ん』」
すると、手を『火線』を迸らせる対象である地面に触れさせていないにもかかわらず、俺の足先から『火線』が迸って餓鬼の群れへと向かうと、『火線』から吹き上がった火柱によって、数体の餓鬼どもを焼き尽くした。
おおっ『火線』って手で『火線』を迸らせる対象物に触れていなくても発動できるのかよ!? ダメもとで試した『火線』の新たな発動方法に、俺自身が驚きに目を見開いていた。
これは新たな発見をしてしまった。やっぱスキルチェックって必須だわ。と俺が改めてスキルチェックの大切さを認識した瞬間だった。
しかもこのやり方で、もし俺が戦闘中に『火線』を自由自在に発動できれば、相手と斬り合ったり組み合って身動きがとれない状態でも、俺から一方的に攻撃を仕掛けることができるわけだし、これは『火線』の威力的に言って、切り札とまではいかないまでも、かなり戦闘を有利に進められるようになることは間違いなさそうだ。
そう思いながらも俺は、さらなる『火線』の可能性を探るためと、今より少しでも自由自在に『火線』を発動できるようになるために、ありとあらゆる状態で餓鬼の群れに向かって、『火線』を発動させてみることにした。
結果から言えば『火線』においては、俺の体の一部が対象物。つまり『火線』を迸らせる地面などに触れていて、地面に触れている部分に向かって俺がある程度の意識を集中し、呪力を込めれば発動することが判明した。
それと餓鬼でしか実験できなかったのだが、生きている物に対して『火線』は、原因はよくわからないが、今のところうまく機能しないことが判明した。
多分火に対する耐性がほんの少しでもあると、『火線』の発動対象にならないとか、『火線』は生命のない無機物にしか発動できないというスキル的な制約でもあるのかもしれない。
で、肝心の『火線』の威力に関しては、『炎の壁』同様に、込めた呪力やMPによって、威力が異なることも再確認することができた。