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第百十三話 地獄門封印②

「ここか? かなりの瘴気が吹き上がっておるな」


 白梟の背に乗った春明が、餓鬼洞に空いた穴から吹き上がる瘴気を見つめながら言葉を漏らす。


「とりあえず、今のところ大鬼を超える力を持つ輩は現れてはおらぬようじゃが、いつ地獄門より大鬼を超える力を持つ悪鬼羅刹が現れるかわからぬ以上。早々に餓鬼洞に出来た地獄門を閉じねばなるまい」


 広域気配探知を発動させて、そう誰にともなく呟くと、白梟の背に乗った春明は、ゆっくりと未だ瘴気を噴き上げて、中から大鬼や数えきれないほどの餓鬼たちを輩出する地獄門のある餓鬼洞内部へと舞い降りながら、両手の指先に一枚づつの白符を挟み。印を切り、呪を口づさむ。


「其の体は小さくとも、鋭き二振りの刃にて、悪鬼羅刹を切り裂くものよ。


 人と言葉はかわせぬが、人と情をかわし、寄り添い共に道を歩みしものよ。


 我がもとに来たりて。獄門より現れし、悪鬼羅刹どもを滅っさん! 出でよ、十二支が、二支。四番目の(うさぎ)白卯(はくう)! 十一番目の(いぬ)白狛(はくこま)! 救急如律令!」


 白梟(はくろう)の背に乗った春明が呪を唱え終わり、白符を放つと同時に、十二支の内の二支が宙に姿を現した。


 そして地獄門から姿を現し、我先にと人里に向かって移動しようとしている大鬼や餓鬼の群れに向かって、春明によって呼び出された二、三十センチほどの雪ウサギのように真っ白な羽毛に、つぶらな赤い瞳をした白卯(はくう)! は、直径一メートルほどの二振りの長いうさぎ耳の刃を用いて、切り刻み。


 全身が真っ白な雪犬のように、モコモコとした冬毛でおおわれた中型犬ほどの大きさの白狛(はくこま)は、大鬼や餓鬼から見ても体格で劣っているというのに、小柄な体のどこにそんな力があるのかというほどの膂力と、両前足に生えている鋭い爪や犬歯を使って飛び掛かり、肉を引き裂き骨を噛み砕いて、大鬼や餓鬼たちを瞬く間に仕留めていった。


 そうして二支を使って、地獄門の周りの大鬼や餓鬼の群れを調伏した春明は、白梟と共に大鬼や餓鬼たちが調伏されて、ある程度安全になった地獄門の正面へと

回ると、白梟の背に乗りながら、次々と新たに地獄門から這い出して来る大鬼や餓鬼たちの相手を白卯(はくう)白狛(はくこま)に任せて自分は、四枚の白符を指に挟み。地獄門を閉じるための印を切り結び、呪を口づさんだ。


「姿かたちは矮小なれど、何ものよりも賢く、知恵多きものよ。


 威風堂々なる獣の王よ、何ものよりも誇り高く、王の威厳をもちしものよ。


 姿かたちは忌み嫌われど、何ものよりも思慮深く、妖艶なる魅力を持ちしものよ。


 人と共に酒を酌み交わし、妖とはとても思えぬ、陽気なる気の持ち主よ。


 我がもとに来たり、その力持て。地獄門を封じん! 出でよ、十二支が、四支。一番目の(ねずみ)白鼠(はくね)! 三番目の(とら)白虎(はくこ)! 六番目の(へび)白蛇(はくび)! 九番目の(さる)白猿(はくえい)! 救急如律令!」


 春明が指に挟んでいた白符を、地獄門を囲む四隅へと解き放った。


 解き放たれた白符は、地獄門を囲むと共に、その姿を一番目の(ねずみ)である全身を初雪のように一切のよどみのない美しい白毛(はくもう)で覆われた体長十センチにも満たない二十日鼠(はつかねずみ)白鼠(はくね)

 

 三番目の(とら)である体長三メートルを優に超え、ただ黙っているだけで王の風格を漂わせる大虎である白虎(びゃっこ)白虎(はくこ)


 六番目の(へび)である人々に神の使いと崇め奉られることもある全長百二十センチほどの小柄な白蛇の白蛇(はくび)


 九番目の(さる)であるゴリラのような巨躯を持ち、針金のように鋭い白毛を生やし、長い年月を生き抜いてきたと思わせる風格と、人懐っこい愛嬌のある皺くちゃ顔をした白猿(しろざる)白猿(はくえい)へと姿を変える。


「一二支が四支の力を持ちてっここにこの世ならざる世界とを結ぶ地獄門を封印せん! 阿倍野流封印術っ『四支封滅陣』っ救急如律令!」


 四支が姿をとったのとほぼ同時に春明が声を張り上げると、四支を中心にして、白い支柱が立ち上った。


 四支によって、生み出された四柱は道人の左腕という生贄によって、一段階成長し巨大化した地獄門を取り囲むと共に、瘴気を浄化する白光(びゃっこう)を解き放つと、陰陽師たちが地獄門と呼んでいる現世と地獄とを結ぶ空間の亀裂を押し縮め始める。


 そうなると当然。現在進行形で地獄門から這い出そうとしている大鬼や餓鬼たちも、春明の四支たちの放つ白光にさらされることとなり、火で燃やされるというよりは、太陽の光を浴びて滅びると言われる吸血鬼のように身を焼かれ、次々と消滅していった。


 もちろん大鬼や餓鬼たちが命を失う過程は、押縮められた空間の亀裂による圧死などもあった。


 そうして、春明が呼び出した一二支である子・寅・巳・申の四支によって生み出された支柱によって、空間の亀裂である地獄門は順調に押し縮められて行き、このままいけば、あと少しで空間の亀裂を完全に封じられるところまで来た時だった。


 空間の亀裂のわずかな隙間から、筋骨隆々の緑色をした毛深く野太い腕が差し込まれ、今まさに完全に春明が四支の力を使って、閉じようとしていた空間の亀裂たる地獄門を押し広げたのは。

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