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第百十二話 地獄門封印①

 何とか道人の左腕を対価にして、成長した地獄門から、強大な力を持った鬼どもが現世に現れる前に、餓鬼洞の入り口まで撤退することに成功していた玲子たちは、今道人の壊した餓鬼洞の天井を突き破りながら、地獄門から吹き上がる瘴気を、餓鬼洞の入り口から少し離れた開けた空き地で見上げていた。


「ふぅなんとか地獄門から強大な力を持った悪鬼羅刹が現れる前に、地獄門を内包する餓鬼洞から離れることができたな」


「これも玲子殿のおかげでございますな」


 軽々と志度を肩に担ぎ上げながら、ここまで玲子と共に逃げ延びて来た比婆が、玲子に向けてお礼の言葉を返す。


「私は別段何をしたわけでもない」


 比婆に礼を言われた玲子は、比婆や志度たちを助けたことなど、別に大したことをしたわけではないといった感じに答える。


「いえ、もしも玲子殿が我らが道人に不意を突かれたあの現場におられなければ、自分も志度も生きてはおりますまい。感謝いたします玲子殿」


 石畳の上に志度を横たえた後、比婆が禿げ上がった頭を下げてくる。


「そんなことは別にいい。それよりも問題は、道人の『屍喰』を喰らった志度だな。早急に奴の手当てをしなければならないが、残念ながら私は、簡単な怪我の処置ぐらいしかできん」


 玲子が比婆の肩から降ろされて、石畳の上に横たえられた下腹部に『屍喰』の突き刺さった志度の体を見下ろしながら端的に語った。


「確かに。とりあえず志度の応急手当をせねばなりませぬな」


 それだけ言うと比婆は、ビリビリビリと、自分の衣服を破り捨てて、志度の下腹部に突き刺さっている『屍喰』の周りを固定するように巻き固める。


「とりあえず、これでしばらくはもつでしょう」


「そうだな。治療術の得意でない今の私たちにできる処置は『屍喰』を固定し、志度の体にこれ以上のダメージを与えないことだからな。それに、今この場で下手に『屍喰』を抜き大量出血でもしたら、志度の命も危うい」


「ですな。志度の方の応急手当はこの辺りが限界でしょう。それはそうと玲子殿。餓鬼洞の方に開いた巨大化した地獄門に対して、地獄門を封じるまではいかずとも、門の力を弱める結界を張ったり、門から這い出して来た鬼どもを始末するなどの何かしらの手段を打たずとも好いのですか?」


「なに、かまわんさ。六花が春明に連絡を取っているはずだからな」


「なるほど春明様に」


 比婆は玲子から春明の名が出たことで、餓鬼洞の中の巨大化した地獄門に対して、玲子が何の手段も打たなかったことに納得したのか、頷いて答える。


「それに、たとえ六花が春明に連絡を取れずにいたとしても、春明ならば餓鬼洞に現れた地獄門の異変に自ら気が付きここに駆け付けてくるだろう?」


「確かに。春明様ほどのお方なら、そうなりますな」


「というか、比婆。いい加減その妙な敬語はやめたらどうだ? こそばゆくてかなわん」


「いえいえ、家柄が格上の玲子殿相手に、いくら何でも無礼すぎてため口は叩けませぬ」


 比婆の返答に玲子はハァと、疲れたようなため息をつきながら答える。


「私は別段気にしないのだがな」


「そう言うわけにも行きませぬ」


「ふぅ。皆固いな」


 志度の応急手当てを終えて、玲子がやれやれと言った感じに比婆と雑談をかわし合っていると、何かが近づいてくる気配を感じた玲子が、上空に視線を向けながら呟いた。


「来たか?」


 玲子の見上げる上空から、白梟(はくろう)の背に乗った春明が、白梟と共にゆっくりと玲子たちの元へと舞い降りてくる。


「待たせた」


 言うと共に春明が、すでに(よわい)七、八十を超えているとは思えぬほどの身軽さで、乗っていた白梟の背から地面に飛び降りてくる。


「遅いぞ春明」


「春明様」


「して玲子。餓鬼洞内部に出現した地獄門の状況はどうなっておる?」


 白梟から飛び降りた春明が玲子に問いかける。


「道人の奴が地獄門を成長させるために、自らの左腕を生贄に捧げ、そのままこの地より飛び去って行ったところだ」


「道人の奴め、やはりか」


 玲子の的確な状況説明を聞いた春明が、疲れたようなため息をつきながら呟いた。


「やはりとはどういうことだ?」


 自分が危惧していたことが起こったために春明は沈痛な表情を浮かべながらも玲子の問いかけに答えると共に、これからの方針を伝える。


「何でもない。それよりも、すでにかなりの悪鬼どもが地獄門から現世に這い出でてきてしまったが、幸いなことに強力な力を持った悪鬼羅刹の類は未だ地獄門を潜っておらぬ。奴らが地獄門から這い出てくる前に、すぐに始末をつけよう。玲子、比婆。主等(ぬしら)はそこで待っておれ」


 それだけ呟くと春明は、白梟(はくろう)に再び飛び乗り、道人が餓鬼洞に開けた穴から吹き上がる瘴気目指して飛び去って行った。

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