第百十一話 自動レベリング
くそっ人が身動きとれねぇってのに、どうやって餓鬼の群れの相手をしろってんだよ! 俺におとなしく餓鬼のエサにでもなれってのかよ! てな感じに、普通なら慌てふためいてわめき散らすんだろうが、多分いくら今の俺のステータスが弱体化しているといっても、まず餓鬼程度にやられることはないはずだ。
ただ一つ問題なのは、俺が身動きを封じられているために、もし仮に奥多摩村に雪崩れ込んできた餓鬼たちが俺に群がって来た場合。
身動きの取れない俺には、襲い来る餓鬼を迎撃することができないことだ。
いや、待てよ? 俺の体が『石柱』で貫かれているといっても、ただ単に身動きが取れないだけだよな? もしかして、スキルとかって使えんじゃね? そう思った俺は、常日頃お世話になっている自動発動スキル『炎の壁』が、今も発動しているのか確かめるために、少しばかり『炎の壁』に送る呪力を増して、『炎の壁』の威力を高めてみる。
すると、俺自身ですら発動しているかわからないほどに薄い皮膜のように発動していた『炎の壁』が、俺の呪力に反応して、目に見えるほどに炎の勢いを増した。
おっ問題なく使える……けど、ちっとばっか威力が弱いな。
そう思った俺は、先ほど竜馬との戦いで竜馬を退かせた時と同じぐらいにまで、『炎の壁』に送る呪力を増大させてみるが、残念ながらあの時ほどの火力を、炎の壁は生み出すことができなかった。
多分だが、天馬とか言う女陰陽師が、封じとかなんか言ってたことから俺なりに推測するに、俺の『炎の壁』が、竜馬を退かせるほどの火力を上げれない原因は、この石柱にあるんじゃねぇかと思う。
多分天馬が生み出したこの石柱自体に、鬼や妖怪の力を弱める力があんのかもしれねぇ。けど、威力は弱いがこれだけの炎を生み出せれば餓鬼程度なら何ら問題ねぇはずだ。
それに多分天馬とかいう奴は俺の力を見誤ってる。
俺は道人との戦いの間に受けていた『屍喰』の影響で、竜馬と戦っている状態では、すでに力がかなり落ちていた。
しかも、玲子や六花たちとの共同戦線を張っていた時すら、悪い印象を与えないように、燃やした餓鬼や大鬼たちの炎を喰らっていなかったために、かなりのすきっ腹だった。
つまり天馬が俺を封じられると思っているこの『石柱』は、俺が本来の力さえ取り戻せれば、抜け出すことが可能な代物だということだ。
ただ問題はどうやって俺本来の力を取り戻すかだが、その問題もすでに解決積みだ。
そう俺は、奥多摩村に雪崩れ込み。俺が考え事をしている間に、いつの間にか身動きの取れない俺を喰らおうと、襲い掛かって来る数体の餓鬼が俺の体に触れる寸前に、俺は『炎の壁』の威力を増すために、常時発動スキル『炎の壁』に送る呪力を増大させる。
俺が『炎の壁』に送る呪力を増大させたために、火力を増した『炎の壁』が、俺を喰らおうと襲い掛かって来た数体の餓鬼たちを一気に火達磨にした。
『炎の壁』触れたために火達磨になった餓鬼たちは、苦しげなうめき声を上げながら、何とか体を燃やす炎を消そうとして、その場で転がりまわるが、その程度のことで今の俺の発する『炎の壁』の炎が消せるはずもなかった。
そして、数体の餓鬼たちが消せぬ炎を纏いながら地面を転げまわったために、俺を喰らおうといつの間にか大挙して押し寄せていた餓鬼たちにも炎が引火して、餓鬼の群れは瞬く間に燃え広がった。
だが、それでも身動きの取れない俺という呪力の高い極上の獲物は、餓鬼たちからしたら魅力的だったのか。体を燃え上がらせながら、何体もの根性のある餓鬼たちが、俺を喰らおうとして、岩肌のように固い。俺の皮膚に喰らいついて来る。
しかし当然ながら、餓鬼程度の歯や噛み砕く力では、俺の岩肌のように硬質な肌を嚙み千切ることはおろか。歯を突き立てることすらできず、俺の皮膚に喰らいつこうとしたまま時間切れとなり、俺の皮膚に牙を突き立てて来た餓鬼たちは、次々と燃え尽きていった。
もちろんその間にも、俺は遠慮なく燃え上がる餓鬼たちの体から発せられる炎を口から吸いこんだり、皮膚から吸いこんだりして吸収して、餓鬼を倒した時に得られるわずかばかりの経験値と共に、自分の腹を満たしていった。
相変わらずいい飯であり、楽なレベリング相手だなと思いながら、俺が餓鬼たちの炎を小一時間ほど貪り、ようやく俺の腹も八割ほど満たされたと思った時だった。
急に俺に襲い掛かって来る餓鬼たちの動きの流れが変わったのは。
ん? 餓鬼たちが俺に襲い掛かってこない? さすがに俺に触れようとすると俺の常時発動スキル『炎の壁』によって火達磨になることを学習したか? と思いもしたのだが、物凄く頭の悪い餓鬼たちが、そんな学習能力など持ち合わせているはずがないことを思い出した俺は、こちらによって来ない餓鬼たちの姿に訝しげな視線を向けていると、奥多摩村に雪崩れ込んで来ている餓鬼たちの進行方向が、まるで何かに誘導されているかのように、俺からほかの方角へと移っていることに気が付いたのだった。
餓鬼の向かう先が俺から別方向に変わってる? どういうことだ? 餓鬼とは本来常に腹を空かせているために、よほどのことがない限り、目の前のご馳走を残して他に進行方向を変えることがないはずだ。
なのに、餓鬼たちは目の前にある俺というご馳走を無視して、まるで何者かに誘導されているかのように別方向へと進んでいる。
食欲最優先の餓鬼たちからしたら、これは異常だ。かなり異常な光景だ。そう思いながら俺は餓鬼の向かう進行方向へと視線を向ける。
俺が視線を向けた餓鬼の群れの行く先には、ここからまだかなりの距離があるために小さく見えるが、幾つもの高いビルや人間の街に電力を供給するための高電圧線が敷かれた鉄塔の姿があった。
この様子からして、餓鬼洞に出現し、巨大化した地獄門から新たに現れた餓鬼の群れは、人間のたくさん住まう人間の街に向かっているようだった。
まずいな。あの数の餓鬼の群れが人間の街に雪崩れ込んだが最後、街の中にいる人間たちは、肉片ひとつ残さず餓鬼たちに喰いつくされるぞ!?
そこまで考えて、俺はようやく道人の狙いに気が付く。
はっまさかこれがっ餓鬼洞に出来た地獄門を成長させた道人の狙いか!?
道人は地獄門を成長させて、その中から現れた大鬼や餓鬼たちを使って、陰陽師たちの注意を引き付けている間に地獄門に捧げる生贄を用意するのではなく。地獄門から這い出て来た数多の悪鬼羅刹や妖怪たちに人間の街を襲わせて、地獄門をより強大にするための生贄にするつもりなのか!?
さすがに、このような手段をとるものが現実にいると思っていなかった俺は、道人の行おうとしている鬼のようなあまりに非人道的な所業に、怒りを隠せなかった。
道人! てめぇは前世で俺を殺しただけでは飽き足らず、この世で平穏に暮らす人々をも、地獄門を成長させ。この世を地獄に突き落とすという、自分の目的だけのために、地獄門の生贄にするつもりか! そんな非道っ俺がやらせねぇ! 絶対にやらせねぇぞっ道人!
「ガアアァァァアアアアアアアアッッッ!!!」
身の内から沸き上がって来る怒りに身を任せ、怒号を上げた俺は、餓鬼との自動レベリングによって、完全回復した呪力を怒号と共に思いっきり爆発させた。
俺の体に突き刺さり身動きを封じている天馬の『石柱』は、俺の爆発させた呪力の影響をもろに受けたのか。ただ俺から溢れ出した呪力の影響を受けただけだというのに、内側からヒビが入る。
そして、俺が爆発させた呪力の影響を受けた俺の『炎の壁』が、俺の周囲数メートルほどの範囲に猛火を放ち、俺の体を縛る天馬の『石柱』を完全に溶かし尽くした。
道人! 待っていろってめぇの好きにはさせねぇ。必ず俺が道人。てめぇをぶち殺して、てめぇの野望を食い止めてやっからよっ!
久方ぶりに完全回復し、完全に体の自由を取り戻した俺は、餓鬼の群れの向かう先に、必ずいると思われる復讐を果たすべき相手である道人を虚空に睨み付け、再び怒りの怒号を上げたのだった。
「ガアァァアアアッッッ!!!」