第百十話 封じられた鬼
で、竜馬たちに止めを刺されなかったまではいーんだけどよ、体が動かねぇんだが? 一体このあと俺にどうしろってんだよ? まさか封じられたまま、竜馬や天馬が戻ってくるのを待ってるわけにも行かねぇし。と、俺は悩み始める。
にしても、あの瘴気の吹き上がりといい。竜馬と天馬の二人の慌てようと言い。ただごとじゃねぇみてぇだな?
俺は石柱に貫かれて身動きを封じられたまま。餓鬼洞から吹き上がる瘴気を見上げて呟いた。
ま、この状況から推測するに、多分。いや間違いなく餓鬼洞から吹き上がる瘴気の原因を作ったのは、餓鬼洞にある俺が通って来た地獄門に向かった道人の仕業だろうな。
ということは、今現在道人の奴は、餓鬼洞に空いた地獄門の傍にいる可能性が高いってわけだ。
にしても奴の目的はなんだ? 確か奴は餓鬼洞に空いた地獄門を閉じに行ったはずだ。
なのに地獄門から瘴気が噴出している。
ということは、道人の本当の目的は、餓鬼洞に空いた地獄門を閉じることではなく。地獄門を利用して何かをすることなのかもしれない。
そこまで考えた俺は、道人の奴が俺に止めを刺そうとした時言っていた。
「我が望み叶えるために死ね」という言葉を思い出していた。
我が望み叶えるために死ね。というということは、道人は俺の代わりに阿倍野家を継ぎたかったのか? いや多分奴はそんなことに興味はないだろう。もし興味があるのなら、俺を殺した後に六花を殺し、阿倍野家の跡継ぎになる可能性のあるものを片っ端から殺しているはずだ。
だが、六花は生きているということは、道人は少なくとも俺の代わりに阿倍野家を継ごうとしているわけじゃないということだ。
だとしたら、道人の奴はなぜ俺を殺した? なぜ殺して、俺を地獄門に突き落とした?
この道人の行動から導き出される答えは、奴は何らかの目的を叶えるために、俺を生贄にして、地獄門を活性化させようとしていたということになる。
そういえば道人に殺されそうになり、走馬灯を見た時に、おぼろげながら思い出した前世の記憶の中に、こんな話を小耳にはさんだ記憶があった。
道人の父は自分を陰陽頭にしなかった者たちへの復讐のために、自分の妻や道人おも生贄として、地獄門を成長させて、この世を地獄化しようとしたことがあったと。
もしそれが真実であるとしたら、道人は自らを生贄にしようとした自分の父親の目的を、引き継いでいるのかもしれない。
だがいくら父親といっても、自分を生贄にしようとした男の目的を引き継ぐものだろうか? いや普通ならば引き継がないだろう。
だが、道人は父親の件で被害者であるにもかかわらず、何者かによって父の罪を無理やり背負わされ、裁かれようとしていた過去があると誰かが言っていた。
もし道人がそのことを根深く恨みに思っているとしたら? その復讐のために常に動いているとしたら? そしてその復讐の方法がくしくも己を生贄にしようとした自らの父と同じ、地獄門を成長させてこの世を地獄に突き落とすというものだったとしたら? 色々とつじつまは合う。
前世で俺を殺して地獄門に突き落としたことも、奴が餓鬼洞に開いた地獄門を成長させるために、何か行動を起こしたために、地獄門から瘴気が吹き上がったことも。
ただもし道人がこれ以上のこの世を地獄に突き落とすほどの地獄門の成長を望むのならば、それなりの数の生贄が必要になる。
それこそ呪力のほとんど持っていない人を生贄にするならば、数万。いや数十万単位の生贄が必要だろう。
道人は餓鬼洞に開いた地獄門を成長させて、この世に大鬼や餓鬼どもを呼び込み。世の中を混乱させている間に、この世を地獄に突き落とすほどに巨大な地獄門の生贄を用意するつもりなのかもしれない。道人の復讐という目的に気が付いてしまった俺のとる行動は決まっていた。
ほっといてもいいんだけど、やっぱ知っちまった以上は、放置。ってわけにもいかねぇよなぁ。俺はそう思いながら道人の目的を阻止するために動くことに決めた。
ところまではいいんだけどよ。そうなると、どうにかしてこの石柱から抜け出ないといけないわけなんだが……。
俺がいくら力を込めて石柱から抜け出そうとしても、石柱を叩き壊そうと殴りつけようとも、俺の体を貫いて身動きを封じている石柱は、ヒビすら入らずビクともしなかったのである。
くそっやっぱこんな状態じゃ力が入らねぇ。しかも俺の今のステータスは未だに本調子じゃねぇし、一体この石柱から抜け出すにはどうしたらいいんだ?
そう俺が石柱と格闘しながら思い悩んでいると、長年親しんだ見知った気配が俺の気配感知に引っ掛かってくる。
ん? この気配は、あいつらか?
どうやら俺の感じたこの気配から察するに、瘴気が吹き上がった地獄門から現れたと思われる新たな餓鬼の群れが、俺のいる奥多摩村に雪崩れ込んで来ているようだった。