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第百五話 阿倍野道人対桧山玲子㊤

「させん!」


 地獄門に落ちる寸前待ち構える餓鬼を切り伏せて、餓鬼たちの間を縫いながら黒髪をなびかせて跳躍し、志度の体を刀の鞘で比婆に向かって弾き飛ばし、二人を地獄門から離れた安全圏まで弾き飛ばしたのは、道人の動向を不審に思い道人の後を追っていた桧山玲子だった。


「玲子殿!」


 危機一髪のところで地獄門に飲み込まれようとしていた志度を救われた比婆が喜びの歓声をあげる。


 玲子は比婆の声には答えずに、崖の先端にいる道人に向かって殺意のこもった眼差しを向ける。


「道人っ貴様っどういうつもりだっ!」


「どういうつもりとは?」


 道人は玲子に明確な殺気を向けれているにもかかわらず、眉一つ動かさずに崖下にいる玲子を見下ろしながら聞き返した。


「仲間である陰陽師を手にかけ、あまつさえ地獄門の生贄にしようとは、貴様っそれでも陰陽師のはしくれかっ!」


「こやつらを仲間? ですと。これは異なことを。この道人。ただの一度たりとて、陰陽連の陰陽師たちを、同士や仲間だと思ったことはありませぬ」


「道人貴様っ自分が何を言っているのかわかっているのかっ!」


「ふぅ。何を熱くなっているのかと思っていれば、そんなことか」


「仲間である陰陽師に牙を剝き、あまつさえ地獄門の生贄にすることがそんなこととは何だ!」


「先にも行ったが玲子。我は陰陽連の陰陽師を別段仲間と思ったことなど一度たりとてない」


「貴様っまだいうか!」


 道人と会話を交わしながらも、地獄門から次々と現れて、自分に近づき襲い掛かってきている大鬼や餓鬼たちを一刀のもとに切り伏せながら、玲子が声を上げる。


「だが玲子お前だけは別だ。お前は、家同士が決めた晴人の許嫁ではあったが、今はもうその晴人はこの世を去っている」


「晴人のことを見殺しにした貴様がそれを言うなぁっ!」


「それに」


「それになんだっ!」


「この道人、小さき頃より、お前を知り、その若さでそれだけの剣術の腕前を持っているお前のことだけは認めている。ゆえに玲子。もう一度だけ言おう。我が連れ合いとなり、我と共に歩み。我と共にこの世界を捨て去り。我と共に来ぬか?」


「貴様の連れ合いだと? 冗談も休み休み言えっしかもこの世界を捨てるだと? この世界を捨てて貴様はどこに行こうというのだ!」


「人のおらぬ世。全ての秩序なき世界。力こそすべての地獄に」 


「はっ何を言っている。人の身で、そんなところに行けるはずもあるまい。それに道人。私は貴様と連れ合いになる気もないし、仲間を平気で地獄門の贄にする貴様と共に、この世界を捨てる気も、まして地獄に行く気もない!」


「そうか、ならば致し方あるまい。この世に絶望し、新天地を求める我が心。玲子。やはり貴様にもわからぬか」


「道人。貴様の生い立ち、両親に起こったことは同情にあまりあるっだがっだからと言ってっ自らの新天地とやらの地獄に行くためにっ陰陽師たちを生贄にするその行為っ断じて認めるわけにはいかんっ!」


「玲子。お前には我の連れ合いとなり、我が子を生んでもらいたかったが、致し方あるまい。この場にて(われ)が地獄門を通るために、地獄門を育てるための贄となってもらおう」


「私を贄にするだと? ふっ道人。やれるものならやってみるがいい!」


「『屍兵(しかばねへい)』玲子を無力化しろ」


 道人の号令と共に、崖上にいた屍兵たちが、崖下にいる玲子目指して次々と飛び降りてくる。


 その数ざっと、十二体。


 まぁ十二体。と言っても、餓鬼洞の奥に進むために皆どこかしらを、大鬼や餓鬼たちに破壊されているために、数通りの戦力とはなってはいなかったが、それでも道人の『屍喰』によって弱体化した大鬼や餓鬼たちを屠って来た力量的には、一体一体が腐餓鬼ほどもある猛者たちである。


 そのために、並の陰陽師では、合計十二体もの屍兵たちの相手が務まるはずがないのだが、残念ながら、桧山玲子は並みの陰陽師ではなかった。


「桧山流二の太刀。『蓮華』」


 玲子の繰り出す硬い岩肌を簡単に切り裂く威力を持った剣げきが、地獄門から湧き出してくる大鬼や餓鬼たち。そして、崖の上から飛び降りて来た屍兵たちを、縦横斜めと縦横無尽に、次々と切り裂いて屠っていった。


「さすがだな玲子。だがこれならば貴様とてそう簡単にはかわせまい? 数多の小石(しょうせき)よ。連なりて巨石となり、その重量にて、悪しき物どもを押しつぶさん。岩国流陰陽術式四の型『岩雪崩』救急如律令!」


 呪を唱え終えた道人が、呪符を天井に向けて放った。


「道人っ貴様正気か!」


 道人のとった行動を目にした玲子が声を荒らげる。


 だが玲子の声に答えたのは、道人ではなく。餓鬼洞の天井が崩落し、天井の岩が落下してくる音だった。


「ちいぃっ比婆ッ志度を連れてすぐにこの場を離れろ!」

 

 玲子は天井より落下してくる岩をかわし、同時に周辺の大鬼や悪鬼の相手をしながらも、比婆に注意を促した。


「玲子殿っ我らのことはお気になさらずにっ我らとて陰陽師の端くれっこの程度の術っ防ぐ手段は持ち合わせておりまする! おりゃああああ!」


 比婆は玲子に言葉を返すと、持ち前の馬鹿力を発揮して天井から降ってくる岩を受け止めると、そのまま地獄門から湧き出してくる餓鬼たちに向かって投げ放った。


 当然餓鬼たちに比婆ほどの腕力があるはずもなく、比婆に投げつけられた岩によって、押しつぶされていた。


 この様子を見て、比婆たちの方は問題ないと判断した玲子が、天井から落ちてくる数多くの岩を切り裂くと共に、足場にして、崖上にいる道人目がけて、目にも止まらぬ動きで声を上げながら一足飛びに駆け上がっていった。

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