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第百四話 地獄門

 そうして、道人が比婆や志度や屍兵の背後から飛ばした『屍喰』で大鬼たちを弱らせ、弱らせた大鬼たちや餓鬼たちを、比婆と志度や屍兵たちが殲滅しながら餓鬼洞を進んでいった。


 そしてようやく道人たちは、地獄門の出現した餓鬼洞の中にある直径十メートルほどの円形状の空間を見下ろせる。餓鬼洞の中の先端部が崖のようになっている場所へと辿り着き、眼下に広がる円形状の空間の中心部付近にある直径五メートルを軽く越える地獄門を見下ろしていた。


「自然に発生する地獄門にしては、ずいぶんとでかいな」


「それに比婆さんっひっきりなしに餓鬼どもが溢れ出てきやがるっすよっ」


 比婆と志度の二人が餓鬼洞の中にある円形状の空間に出現し、巨大化して大鬼や餓鬼たちを、次々と現世に排出し続ける中が真っ黒で見通せない巨大な空間の歪みのような地獄と現世を繋ぐ地獄門を見て感想を漏らしていた。


 道人は二人の感想とは裏腹な発言をする。


「ふむ。小さいな。これでは、人は通れまい」


「そりゃ当たり前っすよ。人間がこちら側から地獄門を通ろうと思ったら、この十倍は軽く必要っすから」


「ならば穴を広げればよい。」


「へ? なに言ってるっすか? これ以上穴を広げて地獄門が広がっちまったら、大鬼や餓鬼の群れどころか、酒呑童子級の鬼がそれこそわんさかと現世に現れ出ちまうっすよ?」


 道人の冗談に志度が笑い声を上げながら答える。


「ふむ確かに。地獄門が広がればより強い力を持った悪鬼羅刹の類いが門を潜れるようになるゆえな」



 そう地獄門が巨大なればなるほど、より強い力を持った悪鬼羅刹の類いが門を潜れるようになるのだ。


 そして、人間界から生きている人間が地獄に行くために地獄門を潜るには、潜る当人が死に体か。もしくは自分の力を通過させるほどの巨大な門を構築する必要がある。


 その大きさは、地獄側から人間界に来る場合のざっと十倍。


 なぜかはわからないが、人間の死に体でないものが、地獄門を通って地獄に向かおうとすると、地獄から人間界に来るための門の大きさの十倍ほどの大きさの門が必要になるのである。


 これは生者と死者の生命の差。命の重さの差とか、異界と現世の通行料の差だとか言われているが、実際のところどうなのかは、未だ解明されていない。


 つまり簡単にまとめると、現世の人間が地獄門を通り地獄に行くには、地獄から人間界を訪れる妖怪や悪鬼羅刹たちが通り抜ける約十倍程の巨大な入り口を作らねばならないのであった。



「だから俺たちの仕事は地獄門が広がらないように封を施して……」


 道人と言葉を交わし合っていた志度は、急に下腹部に違和感を覚えたために、自分の腹へと視線を向ける。


 志度の下腹部からの違和感の正体はすぐに判明した。


 違和感の正体は、餓鬼洞に入ってから大鬼たちを弱らせるために、道人がよく使っていて、志度もすでに何度も目にしているために見知っていた白い骨のようなもの。道人の『屍喰』。それが、志度の下腹部に突き刺さっていたのだ。


「へ? いったい……どういうつもり、すか?……ど、う、じん。様?」


 自分の体に起きた出来事がいまいち理解できていないのか、志度が自分の腹に突き立つ『屍喰』と道人とを目を白黒させながら交互に視線を向ける。


「いやなにここまで育った地獄門、封じるにはいささか忍びないと思ってな」


「道人殿何を!?」


 志度の異変に気付き、志度の腹から生えている『屍喰』を目にした比婆が、一体何が起こっているか理解できず、困惑と驚きのない交ぜになったような声をあげる。


「なにそう騒ぐな。比婆、貴様もすぐに志度のあとを追わせてやる」


 それだけ言うと道人は、トンっと何でもないことのように、志度の体を大鬼や餓鬼がひっきりなしに湧き出している地獄門に向かって崖から突き落とした。


「ひ……ば、さん……」


 志度は弱々しく比婆の名を口にして、口から血を流しながら数多の大鬼や餓鬼の蠢く。巨大な地獄門が待ち構えている崖下へと、力なく落下していった。


「しどおぉぉぉぉおおおおおっっ!!! 今行くぞぉおおおっ!!!」


 地獄門に向かって落下していく志度の腕を掴もうと、崖の先端に駆け寄った比婆が必死に手を伸ばすが、どう足掻いてもすでに志度の手は、比婆の手の届く位置にはなかった。


「門が呪力の高い陰陽師を喰らい。より、力を増そうぞ」


 志度を救おうとする比婆の手が届かず、地獄門に向かって落下していく志度を目で追いながら、道人が満足気な顔をして呟いた。


 そう、地獄門は、強力な力を持った鬼や呪術師の呪詛や呪術師自体を生贄に捧げることで、巨大化することがわかっているため、道人は志度を地獄門を広げるための生贄にしようとしたのだった。


 崖から突き落とされた志度の体が、重力に従って地獄門目指して落下していくのを目にした比婆が、あろうことか。志度の腕を掴むのが間に合わないと知るやいなや、躊躇なく巨大な地獄門が開き、数多の大鬼や餓鬼が蠢く円形状のホールに落下していく志度を助けようと、勢いよく崖に飛び込んでいったのだった。


「志度ぉっ今ッ行くぞぉぉぉおおおおおおっっ!!!」



「ふっ愚か者が、たかが人間一匹助けるために、自ら死地に飛び込みおったわ。しかも比婆を始末する手間も省け、地獄門への贄も増えおったわ」


 道人が地獄門に落下していく志度とそれを追って崖から飛び降りた比婆を楽し気に目にしながら、わははははははっ。と、餓鬼洞の中に高笑いを響かせる。


 そして悲しいかな。いくら比婆が命がけで志度を救おうとしたとしても、比婆の方が志度より比重が重くとも、先に落ちたのは志度であり、互いの体重差による落下速度の差はあれど、どう足掻いたところで比婆が志度のところにたどり着くよりも早く。志度は地獄門にその体を飲み込まれることは、誰の目から見ても明らかだった。


 だがほんの一瞬、ほんの一瞬。志度の体が地獄門に落ちる寸前に、餓鬼洞に裂ぱくの声が響き渡る。

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