第百一話 迦具土神(かぐつち)
うしっ予定通り、これで逃げ場は封じた。
あとは、竜馬をいかにして岩山に閉じ込めるかだが、まぁそれ自体は簡単だ。
なぜならすぐそばまで『炎の結界壁』が迫っているにもかかわらず、竜馬が『炎の結界壁』からまったく出ようとしないからだ。
ということはだ。竜馬の奴の耐炎能力では、この結界壁を乗り越えられないということだ。
だとしたら、あとは俺が『炎の結界壁』を徐々に狭めていけば、おのずと竜馬の逃げ場がなくなって、俺の使う『集石』によって作り出された岩山に封じられるのは時間の問題となるはずだ。
俺は竜馬が徐々に迫りくる『炎の結界壁』に追い詰められて、いずれ行き場を失い。俺の『集石』によって作り出された岩山に封じられ、詰む姿を想像してほくそ笑んでいた。
すると竜馬は、俺が内心ほくそ笑んでいるのを、まるでわかっているかのように告げてくる。
「てめえその面からして、俺が炎の壁に囲まれて、詰んだ。と思ったろ?」
竜馬の言い方から察するに、まるでわざと炎の壁に囲まれて、追い詰められたと言っているように感じられた俺の心に、言い知れぬ不安がよぎった。
俺の不安を見透かすようにして、竜馬が告げる。
「てめえよ。回りをよーく見てみろよ?」
炎の壁が狭まってきてる? 俺と竜馬に向かって。
これに何の問題がある? 俺は竜馬の言っていることの意味が分からずに頭に疑問符を浮かべた。
竜馬は俺の頭に浮かんだ疑問符に答えるかのように、俺を指さし告げる。
「迦具土神」
竜馬が言葉を発するとほぼ同時、俺と竜馬に迫っていた『炎の結界壁』が狭まる速度を上げた。
そして押し寄せる巨大な炎の壁は、一瞬で竜馬を飲み込むと同時に俺を囲い込んでしまう。
炎の壁に囲い込まれた俺が、透過する炎の隙間から見たのは、いつのまにか俺に向けて左手を開いていた竜馬が、その左手で俺を握り締めるようにして、手の平を閉じる光景だった。
すると俺を囲んだ『炎の結界壁』は、竜馬の動きに連動して、まるでカーテンのように俺の体に巻きついてきた。
「ガッ!?」
さすがに自分の生み出した『炎の結界壁』が、自分に巻きついて来るとは想像できなかった俺は、驚きの声を上げる。
「どうやら炎鬼ってめえも、さすがに驚いたみてえだな? しかも自分の生み出した炎の壁が、自分を拘束してること自体が意味不明だろう?」
俺が驚いていることを察した竜馬が心底楽し気な口調で言う。
「このまま何も知らずに殺してもいいんだが、冥途の土産だ。教えてやるよ。最初にてめえをこの場に足止めした炎の壁と、今てめえを縛り上げてる炎の壁は、同じ。なんだよ」
同じだと? 一体どういうことだ?
「その面は、俺の言ってる意味が分からねぇって面だな。良いぜ答えを教えてやるよ、その体にな」
竜馬がほくそ笑むと共に、炎のカーテンのように俺の体に巻きつき、俺の体を拘束していた炎の壁の締め付ける力が増した。
次回から、不定期更新にします。m(__)m