第百話 火竜(かりゅう)
「なるほどな。こうやって俺の動きを制限しようってのか? さすが鑑定持ち。頭が回りやがるなっけどよう、いくら俺の動きを制限しようが、俺を倒せなきゃ意味ねぇんだぜ! てめえが俺に仕掛けてくる前にこっちから行かせてもらうぜ!」
それだけ言うと竜馬は、一瞬目を瞑り左手の平に呪力を込めると、カッと目を見開き声を張り上げる。
「オンバサラタンカンッアビラウンケンソワカッ志々度流火竜術式一の型『火竜』!」
竜馬が声を張り上げながら、俺に向かって左手を突き出すと、竜馬の突き出した左手から、火の呪力で形作られた日本の昔話などでよく出てくる胴の長い火竜が姿を現した。
「行け火竜っ炎鬼を喰い殺せ!」
竜馬の呪力によって出現したその身が炎で形作られた火竜は、竜馬の指示に従い。まるで本物の竜のように、牙をむき出しにしながら俺に向かって空を飛び、まっすぐに向かって来る。
これがただの火で形作られた火竜であるならば、火を喰うことのできる俺にとって竜の形をしたちょっとしたご馳走となるのだが、この『火竜』を作り出したのは、紛れもなく俺を調伏しようとしているあの意地の悪そうな竜馬である。
そのため、これがただの『火竜』であるはずがないと瞬時に判断した俺は、両の拳を握り締めると、呪力を込める。
まだ全力ってわけにはいかねぇが十分だろう。
俺は両拳に『炎熱拳』を発動させると、牙をむき出しにして俺に喰らいつこうと、空を飛んで襲い来る火竜の眉間に向かって右拳を突き出した。
俺の突き出した右拳は、俺に向かて真っすぐに飛んでくる火竜の眉間に突き刺さったかに見えたが、意思なきはずの呪力の炎で形作られたはずの火竜は、俺の『炎熱拳』が自分の眉間に突き刺さる寸前に、まるで意志ある生き物のように身をひねって進行方向を変えると、飛び込んでくる『火竜』の眉間を狙って突き出した俺の『炎熱拳』をかわしていた。
『火竜』が予想外の動きをしたせいで、俺の右拳の『炎熱拳』は空を切るが、俺にはまだ左の『炎熱拳』が残っていたために、俺は身をひねって交わした『火竜』のどてっぱらに、思いっきり左の『炎熱拳』をお見舞いしてやったのだった。
俺に『炎熱拳』をお見舞いされた『火竜』は、『炎熱拳』を喰らったどてっぱらに拳大の風穴を開けると、火の呪力で形作られた竜の形をした体を、いびつな形に歪ませる。
どうやらこの様子からして、いくら呪力で作られているといっても、攻撃を受ければそれなりにダメージが入るようだった。
しかもダメージが入った分体の形を保ちにくいのか、『火竜』は顔色こそ変えないが、炎の呪力で作られた己の造形を歪ませ続けていた。
そんな『火竜』の様子を見て、今が好機と思った俺は、腹に風穴を開けて停滞する『火竜』の胴体にこれでもかと左右の拳に発動させた『炎熱拳』をお見舞いしてやった。
そうして俺の『炎熱拳』をしこたま喰らった火竜は、とうとう形を保てなくなったのか、打ち上げ花火の散り際のように、その場で火花を弾けさせると、この世から消滅した。
「くそがっ俺の火竜があんな野郎に叩き壊されやがった!」
竜馬が火竜を破壊した俺を睨み付けながら、悔しげに声を上げる。
「しかもいつの間にか炎の壁が狭まって来てやがる! くそがっこれじゃ逃げられねぇじゃねぇか!」
そういつの間にか、竜馬のすぐそばまで炎の壁が迫ってきていたのだ。
その理由は簡単だ。
俺が『火線』を迸らせて、『炎の結界壁』を作ると同時に、少しづつ少しづつ。竜馬に気付かれぬように、『炎の結界壁』を狭めていたからだった。