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災厄の少女とド底辺聖騎士  作者: eXs
極光の聖騎士
19/23

第十九話

 日が中天へ至ろうとする冬空のもと、四機の巨人が向かい合っていた。純白黄金のブラフマー、装甲を赤熱させるアグニ、巨大な両刃剣を持った騎士デュランダル、漆黒のコートを纏ったダーク。問答はすでに終わり、決戦が始まる。最初に動いたのはやはりブラフマーだった。


(対象を捕捉、人工衛星ブラフマーストラを起動)

「【ブラフマーストラ/原初の火】」


 空から降り注ぐ極太の光柱が三機を包み込む。その時だ。


「いくよ!ジョー!」

「はい!」

(炎熱変換、熱対流発生)

「ヒートレンズ!」

(光学変換、屈折点生成)

「レーザーレンズ!」


 上空へ飛びあがたアグニとデュランダルが魔法によって二重の、光を屈折させるレンズを作り出したのは。レンズに激突した光柱は、一枚目のレンズを突き破るも、かろうじて二枚目のレンズで屈折し、進行方向を少し変え大地へと激突する。光柱が突き刺さった地面は、莫大な熱量によって膨張し爆発する。大量の土砂が巻き上げられ、一瞬だけブラフマーの視界がそれにさえぎられる。


「クラッドおおおおおおおお!」

「応!!」

(目標補足、空間軸固定、転移開始)

「【シャルティ・ダーク/影を渡る無貌の鳥】」


 光が晴れた時、そこに三機の影はなくなっていた。レーダーからも反応が消え、若干困惑し当たりを見回すブラフマー。その時、背後で急激に高まる源泉反応。


「ミハエエエエエル!!」

「っ先生!!」


 ブラフマーの背後で影が盛り上がり、中からアグニが飛び出してきた。その腕は収束された源泉によって赤熱し、いかにブラフマーとはいえそのまま受ければただでは済まない。


「堕ちな!ミハエル!!」

「そちらこそ!」


 ブラフマーは左腕第一腕の柄杓を水で包むと、その腕と交差するようにアグニへと攻撃を打ち込む。しかし、その攻撃はアグニの影から飛び出してきたデュランダルによって防がれてしまった。


「攻撃は僕が防ぎます!」

「応!任せた!」


 そこから始まったのは一方的な攻防だった。アグニが攻撃し熱量による致死の一撃をブラフマーに入れようとすれば、ブラフマーはカウンターで返そうとし、そのカウンターをデュランダルが受け止める。ブラフマーが不利を悟り、ブラフマーストラを撃てば影の中に撤退する二機の機人。学園長たちの戦法は完全に役割分担をしたうえでの、ゲリラ戦ともいうべきヒット・アンド・アウェイだった。如何に超常的な戦力を持つブラフマーといえど、操作しているのは人間、絶え間なく死角から襲い来る攻撃に、確実にミハエルの精神は削り取られていった。


「く、リンデン!」

(対象を捕捉、人工衛星ブラフマーストラを起動)

「【ブラフマーストラ/原初の火】」


 その光柱はアグニとデュランダルを無視し、ブラフマーへと突き刺さった。たまらずブラフマーから距離をとるアグニとデュランダル。そのすきに、ブラフマーは賭けに出る。


(人工衛星ブラフマーストラからエネルギーをチャージ)

「【リンデン・ブラフマー/蓮華座・輪廻する光】」


 瞬間、ブラフマーから周囲一帯を飲み込む光の奔流が放たれた。光は周囲を染め上げ、渦を巻いて球状に破壊の痕を刻んでいく。その時、周囲にできる影はブラフマーの物ただ一つだけ。スラスターを全開にしたブラフマーは影に右腕第二腕を突き入れると全力で数珠<ヒラニヤガルバ>を起動する。


(粒子加速、雷電放射)

「【ヒラニヤガルバ/雷神】!」


 裂帛の気合のもとに放たれた雷撃は、影のゲート内に滞空していたダークを貫き、現実世界へと弾き飛ばす。


「ぐわあああああぁ!!」

「クラッド!」

「先生!」


 ダークが撃墜されたことで、連携が崩れる三機。そこへブラフマーが畳みかけるように攻撃をする。左腕第二腕の水瓶<スヴァヤンプー>がデュランダルへ向けて唸りを上げる。


(源泉徴収、風力最大)

「【スヴァヤンプー/風神】」


 巻き上げられ源泉が混じった風がデュランダルを拘束する。その瞬間を逃すブラフマ―ではなかった。竜巻の中心をスラスターを全開にして爆進したブラフマーは、左腕第一腕に握った長大な柄杓<ブラジャーパティ>を振り下ろす。


(固有振動、解析終了)

「【ブラジャーパティ/水天】」


振り下ろされた柄杓は超振動する濁流を纏い、デュランダルの鈍色に輝く白い装甲を粉砕すると、その巨体を大地へと叩きつけた。


「ジョー!ミハエル、てめー!!」

「戦いはいかに相手の不意を衝くか、あなたが教えてくれたことですよ。先生」

「ハッ、まったくその通りだから笑えねぇぜ!強くなったな、ミハエル」

「……はい、色々ありましたから」


 そういうミハエルの顔は沈み、その心の内に何を考えているのかは、ステラをもってしてもわからなかった。


「もうすぐなんだ!もうすぐ、量子コンピューターが完成する。それまで待ってくれないか?」

「いつですか?」

「二年……いや、一年で完成までもっていく。だから!」


 とてもではないが、待つことなどできなかった。今目の前に最大の好機が迫っているのだ。これを逃せばもう二度と彼女には会えないかもしれない。


「すみません」

「そうか……ならあとは力ずくだな」


 その言葉を聞くと、ミハエルは何かを思い出したように吹き出し、笑い出した。彼が学生の時からそうだった、何かにつけて最後には必ず拳を持ち出してくるのだこの人は。


「くっははは!本当に昔から変わらないですね先生は!」

「ああ、それがあたしのいい所だからな!」

「まったくです。なんでみんな、貴女みたいじゃないんでしょうね」

「そりゃぁ、みんながみんなあたしみたいだったら、毎日喧嘩ばっかりだからさ」

「違いない」


 そう言って笑いあったミハエルとステラ。しかし、二人の機人は互いに構えたままピクリとも動かない。お互いにわかっているのだ、これが最後になることが。


「さようなら、先生」

「馬鹿野郎!刑務所にぶち込んで何度でも会いに行ってやるよ!」


 空中で二機が激突する。最後の決め手は双方とも炎を使ったものだった。


(炎熱変換、熱量上昇いけるぜ!)

「【ロータス・アグニ/炎天神・七条連星】」


 獄炎が七方向に華が開くように咲き乱れ、一斉にブラフマーへと殺到する。


(炎熱変換、熱量吸収いけます!)

「【ヴェーダ/炎天】」


 ブラフマーの右腕第一腕、聖典から放たれた熱量の槍が、アグニへと突き進む。ヴェーダの一撃、炎天はアグニの放った大魔法を巻き込み吸収して巨大化する。自身の攻撃と相手の攻撃、両方の炎を受けての大爆発。ブラフマーが勝利を確信したその時だ。


「あめええええんだよおおおおお!!」

「な、むちゃくちゃな!」


 片腕を失ったアグニが爆炎を突き破って飛翔した。アグニはあらかじめ、自身の攻撃が防がれるか、返されることを予想し、攻撃に回す源泉を最小限に絞っていたのだ。片腕を犠牲に攻撃をしのぎ切り、大魔法一発分の源泉を残った片腕に凝縮する。最後の一撃が届こうというところだった。その時、天から降ってきた光柱がアグニの体を貫いた。


「ちっくしょおおおおおお!」

(余計な事だったでしょうか?主上)

「いや、ありがとうリンデン」


 地上に落下したステラが叫ぶ。その声は悲痛に似て、まるで許しを乞うているようだった。


「ミハエル!ギルバートが喜ぶと本気で思っているのか!」

「今度こそ、さようならです先生」


それだけ言うと、今度こそブラフマーはその場を飛び去り。源泉炉心中核、超大型機人へと向かうのだった。


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