第十話
襲い来る触手を焼き払いながらローランはジョーに問う。
「命令がそんなに大事?」
「当たり前だ!」
苛立ったようにそう返すジョー。返答する間もその剣は襲い掛かる触手を的確にさばいていく。
「なら、何をいらだつことがある?」
「いらだってなど……」
手から光線を放ち触手を焼き払いつつも、ローランは決してジョーからその視線を外さなかった。
「私には解る。あなたは私の聖騎士。私たちは繋がっている……あなたはどんな騎士になりたかったの?」
戦いのさなか歌うように告げられたその問いに、ジョーはとっさに答えることができなかった。
「僕は……」
何を思い出したのか、数秒押し黙ったジョーだったが、次の瞬間には強い決意を目に宿してローランへと手を伸ばした。二人の手のひらが合わさり、そこに光が産まれた。
「「汝、堅き砕くもの、【デュランダル/不滅の刃】」」
空間を割り、雷光を伴って現れる純白の騎士。
「ジョー!」
「聖騎士ならここにもいます」
「お前もかよ、まったく問題児共が。怒られるの俺なんだぞ」
何処か嬉しそうにそう言うクラッドは、二人に作戦の説明をする。
「いいか、やることはさっきと一緒だ。地下の敵を俺が上空に転移させる、お前たちは全力でそこを叩け!」
「「はい!」」
「シャドウ・シフト」
影に飛び込んだダークは、薄く広がり地中を猛スピードで網羅していく。
(……見つけたよ、クラッド)
「よっしゃ!行くぞ、二人とも!」
(目標補足、空間軸固定、転移開始)
「【シャクティ・ダーク/影を渡る無貌の鳥】」
――その瞬間、上空に森の全てを飲み込むほどの影が現れた、それは無数の触手を垂らした巨大なクジラのようだった。
(あなたに、力を!)
「【ローラン・デュランダル/不滅の聖光】」
極太の光剣がその影を断ち切り、
(飲み込む、全てを!)
「【カーリー・ドゥルガー/遍く集う星光】」
漆黒の闇が全てを飲み込んだ。
それからは大混乱だった、学園に戻ると全生徒の身体検査が行われ、問題がないことが確認されるまで一部生徒が泣き出すほどだった。結局のところ、あの触手は源泉を吸い取る以外には害が確認できないとして、学園側は生徒への調査を打ち切った。
「お前も付き合うことないんだぞ?」
「任務だと言っただろう」
学園に帰った後、検査から解放されると、アランとジョーはランニングをしていた。校内を走る二人が校舎裏の花壇に差し掛かると、そこではサラが花に水をやっていた。
「あ、アラン君!」
「サラ、何してんだ?」
「私、園芸委員会に入ってるんだ」
「いや、そうじゃなくて、今日は大変だっただろ?代わってもらえなかったのか?」
「ううん、いいのこういうの好きなんだ」
花への水やりを切り上げると、サラはアランに近づきジョーに聞こえないぐらいの声で言った。
「(ありがとう、聖騎士様)」
その声に、アランはぎょっとした顔をするのだった。
※
森が確認できる荒野にその男はいた、容姿はどこにでもいそうな平凡なものだった、くすんだような金髪と少々生えた無精ひげ、新緑の瞳はふらふらとあたりをさまよっている。
「あれが簒奪魔法、奪い取る力……私が欲するもの」
精気のない声が、乾いた風に乗って荒野に消える。男の周囲には無数に小型怪獣の死体が散乱していた……。