第一話
10年前 2200年NY
砂塵が吹き荒れ、廃墟と化したNY郊外、ビルはなぎ倒され、所々で黒煙と炎が立ち上っている。突如として押し寄せた【怪獣】の大軍によって、壊滅したそこは、いまや地獄と呼ぶにふさわしい様相を示していた。怪獣と呼ばれる巨大生物、それが海から現れるようになっておおよそ百年が過ぎ。大気の急激な寒冷化によって、一年を通じて冬に閉ざされた世界で、人類はそれでもなお生きていた。
「ハァ!!」
怪獣の襲来により、千々に乱れ逃げ惑う人々の中、一人の少年が暗闇の宙を見上げて白い息を吐く。艶やかな黒髪とスカイブルーの瞳には激闘の果てに怪獣を倒した【機人】、巨大な人型兵器の姿が映り込んでいた。
「あれが、【聖騎士】!」
関節部から立ち上る白いオーブ、片手片足を失いながらも、背部スラスターから爆炎を立ち上らせ、怪獣に突貫する機人。四本あった怪獣の腕は、三本がその中ほどから断ち切られ、逃げ惑う住民の多くを踏みつぶしたその両足はことごとくが腱を断ち切られている。推定身長弐拾メートルの巨体は体のいたるところから、強酸性の鮮血を垂れ流し少年の居る高台まで異臭を届かせていた。
「あれが、怪獣!」
一方、今まさに怪獣にとどめを刺した機人の姿も惨憺たるものだ、四肢のうち片手片足は中ほどの関節から欠落し、端正だったその装甲も今や怪獣の血液によって溶け出してしまっている。鋼鉄の騎士は残った腕に壱拾メートルの身長の倍以上もあるブレードを持ち、それを怪獣の胸部に根元まで突き入れていた。
「聖騎士ってかっけぇええええええええ!!」
少年はその姿に強くあこがれ、目を瞬かせる。焼け出され、家族とも引きはがされた。逃げ惑い、幾多の屍を、助けを求める人の声を踏み越えた。少年はその果てに、逃げ遅れた市民を救うために単騎で強大な怪獣に立ち向かう、その聖騎士の姿を目撃する。彼は心の底から震えあがった、心臓が激しく脈を打ち頬が紅潮するほどに。物語に出てくる英雄を眼前で見るその感覚に浮かされて。機人の関節部から上がるのは白く輝くライトエフェクト、その光は温かく少年には希望の光に感じられた。
「なる、俺もあんな聖騎士になるぞおおおおおおおおぉ!」
これが、全ての始まり。アラン=フリーマンという少年の原風景。地獄の大地で少年は声を上げる。今度こそ、全てを救ってみせると。
※
科学が発展した先に生み出された新たな力。地中を流れる源泉と呼ばれるエネルギーラインから、無尽蔵に力を生み出す夢の発明【源泉炉心】。冬の時代が到来した人類の生活に欠かせないそれが、突如海から現れるようになった怪獣と呼ばれる巨大生物に狙われるようになっておおよそ百年がすぎたころ。高濃度の源泉によって保護された怪獣を倒せるのは、同じく源泉によって攻撃ができる機人と呼ばれる新機軸の兵器だけだった。
人類守護の要たる機人とその騎乗者たる聖騎士は今日も襲い来る怪獣と戦っている。その果てに何が待っているのかも知らずに……。