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現実

 白龍神討伐を目指し王都を発ってから12日目。


「ふぅ。ようやく頂上が見えてきたわね」

 先頭集団を歩いていたアリアさんが頂上へ向けて、額の汗を拭う。


 現在俺達――ベオウルフは白龍神が居座るアスラン山の頂上まで後1時間と言う距離にある中腹部を少し超えた辺りで作戦会議も兼ねて休憩をする事にした。


「誇り高きベオウルフの勇士達よ! 我らはこれより一刻後に総攻撃を仕掛ける!」

 シュバルツの激が周囲にこだまする。


「アリア! 作戦説明を頼む!」


「はっ! 今回のターゲットは白龍神! 討伐推奨レベル150の強敵よ! 前例の無い強敵の為、今回は遠距離攻撃を中心に立ち回ります!」


「まずは……第20小隊から第60小隊の遠距離攻撃可能の部隊はシャマリーの合図に合わせて一斉に遠距離攻撃を発射!」


「「「はい!」」」


「白龍神の反撃が来たら……シュバルツ様。皆の守護をお願い致します」


「うむ。任せろ」


「第18小隊はシュバルツ様へのバフ管理! 第19小隊はシュバルツ様の生命力管理!」


「「「はい!」」」


「第1小隊から第17小隊の精鋭陣は各々の判断で攻撃!」


「「「はい!」」」


「最後に……シュバルツ様お願いします!」


「うむ。ベオウルフの勇士達よ! 今回の敵は前人未到の強敵也! されど、我らが力を合わせれば必ず勝てる!! 後世まで語り継がれるであろうミッドガルド大陸での最後の伝説を我らの手で作り上げるぞ!!」


「「「おぉー!」」」


 場の空気は最高潮を迎え作戦会議は終了した。




 ◆




 1時間後。


 俺達は山頂に寝そべる巨大な白龍――白龍神パイロンが見える位置へと辿り着いた。


(白龍神パイロンです。討伐推奨レベルは150。バーティー推奨レベルは120です)


 おぉ……初めて見たけど凄い迫力だな。流石はレベル三桁。


 白龍神は寝ているのだろうか? 周囲には暴風の様な寝息の音……そしてメンバーの固唾を飲む音のみが不気味に響いていた。


 前方ではシュバルツさんとアリアさんが目を合わせ互いに頷くと、アリアさんは端末を取り出して話し始める。


 シャマリーさんに連絡でもしているのかな? って事はそろそろ攻撃か……


 ――!?


『矮小なる存在よ。如何なる用事で此処に来た』

 尊大な声――白龍神の声に大地が揺らぐ。


「ふむ。この化物は会話が出来るのか。白き龍の神よ! 我らの用事は……」

「撃てぇぇぇぇえええ!」

 シュバルツさんの会話を遮る形で遠距離攻撃の部隊を指揮するシャマリーさんの怒号が響き渡る。


「……お前を討つ事だ!」


 後方から500名に迫る数のプレイヤーから一斉に放たれた数多の魔法と無数の弓矢が白龍神に降り注ぐ。


 ――っ!?


 数多の魔法の怒号が無数の風を切る弓矢の音が耳を劈き、周囲は立ち煙る土埃に視界が覆われる。


『不意打ちとは……矮小なる者に相応しい行為よ……この愚か者共が!!』

 土煙の奥から聞こえる白龍神の怒声に大地が激しく揺らぐ。


 ――な!?


 土煙の奥から白銀に輝く一縷(いちる)の光が見える。


 白銀の光は次第に光量を増し、白銀に輝く光の奔流――強烈なブレスと化して大気を呑み込まんとする。


「ふっ! 矮小なる者は……――ぐぁぁあああ!?」

 シュバルツさんが盾を構えて果敢にも白龍神のブレスに対抗しようとするも……激しく吹き飛ばされ、周囲のプレイヤーを無情にも呑み込む。


『ほぉ……耐えるのか。矮小なる者よ』


「シュバルツ様ぁぁぁぁ! 回復部隊何をしているの! 回復よ! 早く回復を!!」

 アリアさんの悲鳴に近い叫び声が周囲に響く。


『土足で我が領域に踏み込み……あまつさえ卑劣な攻撃を仕掛け……生き残れるとでも思うたのか!!』


 やばっ!? 


 土煙の奥から再度白銀に輝く一縷の光が……


『滅せよ!』


 ――え?


 再度吹き荒れる白銀の光の奔流はシュバルツさんを呑み込み……シュバルツさんが光の粒子と化して消え去る。


 嘘だ!? 嘘だ!? 嘘だ!?


 シュバルツさんの防御力は3000オーバーだぞ!


 それがたったのニ撃で……。


 嘘だ!? だって……シュバルツさんは選ばれたプレイヤーで……俺だって……この世界の勇者じゃないのかよ!?


「うわぁぁぁあああ!?」

「シュバルツさんが殺られたぞ!?」

「嘘だろ!?」

「……シュバルツ様」

「転移だ! 転移をして逃げるぞ!」

「だ、ダメだ……転移が使えねぇ……」


 周囲が阿鼻叫喚に包まれる。


 ――!?


 気付けば目の前に迫った白い物体――白龍神の尻尾に吹き飛ばされた俺は意識を失ってしまった。


(1836のダメージを受けました。瀕死です)




 ◆




 ……


 ……


 ……


 ……うぅ……ここは……


 暗闇に閉ざされた酩酊とした意識から目を覚ます。


 目の前に見えるのは……岩?


 俺はどうやら岩の影に倒れていたらしい。


 体を起こそうとするが……まるで金縛りにあったかの様に体が動かない。


(マスターは現在瀕死です。早急な回復を推奨します)


 ……瀕死?


(はい。マスターの現在の生命力は4です)


 ……4? ……え? 4!?


 指先に力を込めて集中して端末を探り当て、必死の思いで端末を操作して回復アイテムを使用する。


 体中に生気が巡るのが感じ取れる。


 ふぅ……。何とか助かったのか?


 気怠さは残るが、何とか身体を起こして周囲を見渡す。


 目に映るのは圧倒的な破壊力に平伏した荒野。地面は何かに削られ、草木は一つ残らず焼け落ちている。


 そして……誰一人として存在していなかった。


 前後の記憶を必死に思い返す。


 ここは……アスラン山だよな?


(はい。ここはアスラン山の山頂付近です)


 確か……白龍神の尻尾の一振りで吹き飛ばされて……


 俺はどの位気を失っていたんだ?


(およそ12時間昏睡していました)


 12時間? そんなにも気を失っていたのか……


 そうだ!? みんなは! シュバルツさんはどうなった!? アリアさんは!?


 慌てて端末を操作してチームリストを表示させると……


 ……え?


 俺がチームリーダー?


 チームリストの一番上の欄――チームリーダーの名前が記される箇所には俺の名前が……そして今まで50ページ全て埋まっていた欄も今では18ページにまで減少している。


 ……え?


 そして……リアルタイムにチームリストに載っているメンバーの名前が消えて去っていっている……。


 な……何が……何が起きているだ!


(プレイヤーの脱退及び消滅にてリストから名前は消失します)


 現在のページ数は17ページ……1ページに記載してあるメンバーの名前は20名だから……600名以上のプレイヤーが消滅したとでも言うのか!?


(脱退でもリストから名前は消失します)


 脱退? ベオウルフは王都で最大規模のチームだぞ! 加入を希望するプレイヤーは星の数ほどいるが……脱退を希望するプレイヤーなんて存在するはずが無いだろ!


 何が……何が起きたんだよ!


 事態の収集も出来ぬまま、俺はアスラン山から駆け下り王都へと向かった。




 ◆




 6日後。


 何とか王都に帰還した俺は真っ先に我が家――ベオウルフのチームハウスへと向かった。


 ――え?


 ここって……うちのチームハウスの住所であってるよな?


(はい)


 目の前には栄華を誇ったベオウルフのチームハウスの残骸――瓦礫の山が積み重なっていた。


 かつての我が家の変わり様に……頭が追いつかず呆然と眺めてその場で立ち尽くす。


「おい……あのマント……まだ生き残りがいたのかよ……」

「チッ……朝から嫌なモノ見ちまったな……」


 通りかかった二人のプレイヤーの嫌悪感に包まれた声が耳に入る。


「あの……すいません。何があったんですか?」

 俺は状況を知りたくて、声を掛ける。


「はぁ? 何があっただと! ふざけんな! この疫病神!」


 一人のプレイヤーが声を掛けた俺を突き飛ばす。


「その(きたね)えマント……てめえもベオウルフじゃないのかよ!」

 もう一人のプレイヤーが俺の背中の白銀のマント――かつては王都のプレイヤーから憧れと畏怖の象徴とされていたベオウルフのチームアクセサリーを嫌悪感の表情で指差す。


「はい……そうですが……あ!? 申し遅れました。俺の名前はブリッツと言い――」

「は? ブリッツだと! てめえは災厄の元凶の幹部じゃねーか! ふざけんな! 死ね!」

 名前を名乗った瞬間……激しく罵られる。


 俺がお前に何をした?


 なぜ俺はそこまで怨嗟の籠もった眼差しを向けられねばならないのだ?


 そして……人はどうしたらあそこまで怨嗟の籠もった眼差しを宿すことが出来るのだ……。


 声を掛けた二人組のプレイヤーは俺に侮蔑の眼差しを向けたまま立ち去ってしまった。


 その後も道行くプレイヤーに声を掛けるが、誰もが同じ様な――侮蔑と怨嗟の入り混じった反応だった。


 何なんだよ! 俺が何をしたって言うんだよ!


 そうだ!


 俺は道行く他人に声を掛けるのは諦めて、端末を操作してフレンドリストを開いた。


 ――え?


 かつては100名以上登録されていたフレンドリストのプレイヤーの名前が……現在は8名しか記載されていない。


 俺は8名の名前の中にかつて野良で手助けをして、その後も懇意の関係にあったプレイヤーの名前を見つけたのでフレンド会話の申請をした。


 ピピピ ピピピ ピピピ


 ピピピ ピピピ ピピピ


 ピピピ ピピピ ピピピ


 出ないな? 冒険中なのか? と思った矢先……


『……はい』

 端末からフレンドの声が聞こえた。


「もしもし! ブリッツです! お久し――」

『迷惑なので今後連絡はしないで下さい!』


 フレンド会話は強制的に終了された。


 再度連絡を取ろうとフレンドリストを表示すると……今連絡を取ったフレンドの名前が消えていた……。


 フレンドリストから名前が消えるのは……相手が消滅した時か……相手がフレンドを解消した時だけだ。


 相手はついさっきまで俺と話していた。つまり……フレンドリストから名前が消えたのは消滅したのでは無く、相手が解消したのだ。


 何だよ……何なんだよ……この間までフレンドリストに俺の名前が入っている事を周囲に自慢してたじゃねーか!


 俺はお前の誇りじゃなかったのかよ!!


 その後もフレンドリストに残っていたプレイヤーへ順にフレンド会話を申請するが……応答拒否、もしくは罵詈雑言を言われてからの強制終了のみであった……。


 ははっ……何だよ?


 俺がお前達に何をしたって言うんだよ!


 何かしたならそれを教えてくれよ!


 一方的に遮断してんじゃねーよ!!


 その日は路地裏で捨て犬の様に身体を丸めて眠りについたのであった……。




 ◆




 翌朝。

 フレンドリストに残されたプレイヤーの名前は残り一人だけであった。


 そのプレイヤーは昨日唯一連絡を取らなかったプレイヤーだ。共に冒険をした事は無く……街中で偶然会った時に挨拶をする程度の仲だからだ。


 どうしようか……。


 俺は存在しているだけで周囲に嫌悪を与えてしまうのか……


 こんな街から出てしまおう……いや、一層の事……


 俺なんて消滅すればいいのかもな……


 俺はこの世界に招かれた時に……この世界――ジェネシスこそが俺の本来生きるべき世界だと思っていた。


 俺は選ばられた人間だと思っていた……。


 最強のプレイヤーとして……約束された未来を迎えると思っていた……。


 俺は……俺達は……選ばれた人間だから……死ぬ事は無いと思っていた……。


 オンラインゲームとオフラインゲームの違いは数多くある。その一つは勇者の存在だ。


 オンラインゲームには勇者は存在しない……。


 現実の世界にも勇者は存在しない……。


 分かっていたのに……どこで勘違いしたのだろう?


 勇者――主人公なんて存在するはずが無いのに……。


 消滅するしか……


 嫌だ……嫌だ……イヤダ……イヤダ!!


 消えるのはイヤダ! 怖いよ…… 誰か助けてくれよ……


 虚ろな意識の中……俺は端末を取り出し……最後の一人となったフレンドへと連絡を取った。



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