1章 いざ迷宮へ
再びやってきた平和な日常。つい、この間までは、カミノ狩りで3日間帰ってこれなかったあげく、左腕を負傷してしまった。
そして帰ってきたときかけられた言葉。
「なにをドジってるんですか。馬鹿ですか?」
いつものように、アジトの広いキッチンで、僕ら、グレートチルドレンの世話係、大宮紗衣は、言った。僕は、その言葉にイラっと来て、こう言い返した。
「なんだよ。だったら、お前も戦えばいいじゃないか。」
「無理ですよ。私が戦ったら、面白くないじゃないですか。」
「面白いって・・・・楽しんでんのかよ。」
「楽しんでますよ。あなたたちに、多くの命がかかっているんですから。」
でも、その通りかもしれない。僕たちは、多くの人を救わなきゃいけないんだ。でも、そんなこと分かりきっていることだ。だから、辞めたりは、絶対しない。そう決めたんだ。
「あ。。食材切れてますね。買い物行きますか?」
「え?うん。行く。」
僕たちは、東軍専属のプロドライバー・国井誠に連絡をした。10分くらいで、国井さんは来てくれて、車に乗り込んだ。今日は小さめの車だった。
隣町のスーパーにつくと、国井さんは、
「そこら辺回ってきますんで、終わったら連絡ください。」
そう言って、どこかへ行ってしまった。僕と紗衣は、スーパーに入った。
「久しぶりに来たな〜ここ。」
僕がつぶやくと、
「3ヶ月ぶりですかね。」
あたりを見回しながら、カートを動かした。少し食材がたまってきたと思うと、黒髪の美人な人が、こっちへ向かってきた。
「美鈴・・・?」
僕にカートを渡し、女性の人の元へ駆け寄っていった。遠くへ行ってしまったものだから、何を話しているのか聞き取れなくて、でも「ここで待っててください」と言われ、行こうとも行けなかった。長々と話しているので、僕は、雑誌コーナーへ向かった。暇つぶしにと読んでいると、
「あ・・!智先輩!帰ってきてたんですか?!」
そこに顔を出したのは、髪が短く、ふわりとしていて、見た目はかわいい女の子だった。
「なにしてるんですか?お買い物ですか?」
「うん。紗衣と来たんだけど、なんか美人な人とはなしてて。。。暇つぶしにと思って。」
「そうなんですか・・・・先輩も大変ですね。」
「キミもチルドレンだろう?少しは依頼、キミも持ってくれ。」
僕が呆れ顔で言うと、
「はーい!雨宮 柚愛、先輩のお手伝いしますね。それでいいですよね?」
ウル目をこちらに近づけてくる。断れ切れなくなったぼくは、
「分かったよ!分かったから泣かなくていいよ。」
ごたごた話していたとき、紗衣は、帰ってきた。
「お待たせしました。早く済ませましょう。あれ?柚愛・・・いたんですか?」
「はい。先輩のお手伝いを契約しました。」
「はい?」
「契約とか物騒なこと言うな!!」
あれこれと話している間はすごく新鮮で、楽しかった。こんな気持ち、久しぶりだと僕は感じられた。
「それでは、先輩、紗衣さん、またです!」
明るく去っていった、柚愛を笑顔で見送ると、カートを再び動かし、買い物を再開した。そして帰り際、紗衣に聞いた。
「あの人、彼女?」
なんとなく、気になって、つい口に出してしまった。
「さぁ、どうでしょう。」
「なんだよ。教えてくれたっていいじゃんか。」
助手席に乗っている紗衣に、後ろの席から顔を覗かし、聞き込んだ。
「じゃあ、解決してください。この事件。私が、事件の元となったことを、5つ話しますから、そのヒントで、事件の幕を降ろしてください。あなたの力で。」
にっこりしながら言う紗衣に、
「いいよ。幕、降ろしてみせる!」
「そうですか。では、ヒトツ目。『シャーロットの家族写真。』」
「シャーロットの家族写真?なんだそれ。。」
「がんばってください。」
にっこり笑う紗衣と、必死に考える僕を、国井さんは、どう、受け取っていたのだろうか。。。。。
アジトに帰ってかも、紗衣とは一言も話さず、自分の部屋にこもり、考え込んだ。
『シャーロットの家族写真』
「シャーロットって人の名前って意味だろうか。」
僕は、イスに座り、クルクルと回りながら、紗衣から渡された、一枚の紙きれを何度も読み返した。
読み返しても、読み返しても、答えは出なかった。
そのうち、イライラしてきて、部屋を出た。
「あ、先輩!こんばんは〜」
「あ?柚愛?!なんでここに?!」
僕は目の前にいる、柚愛を指差していた。
「やだな〜元からここに来る予定だったんですよ。あそこによったのは、なんか差し入れしようかな〜って思ったからです。」
にっこりと笑って、白い袋を僕に差し出した。
僕は、それを受け取ると、ハッとして、柚愛を部屋に連れ込んだ。
「どうしたんですか?智先輩!!」
「キミ、手伝ってくれるって言ったよね?ちょっと本当に困ってるんだ!」
僕は、柚愛の手を握り、思いっきり部屋のドアを開け、入り込んだ。
「な・・ん・・ですか?考えてほしい・・こと・・って・・」
息を切らしながら、言う柚愛に紗衣から渡された紙を柚愛の目の前に差し出した。
しばらく柚愛は紙を見つめ、こう言った。
「シャーロットですか?」
「人の名前かな・・・」
「さぁ・・・」
首をかしげながら、柚愛はつぶやいた。
僕も、必死にどういう意味なのか、紗衣は何をたくらんでいるのか、そして、どう、カミノに関係してくるのかを考えた。
「・・・・開運―!!」
そういって黒い影は、消えていった。
僕はその影に気づきもせず、ただ答えを見つけることだけが、頭の中で回っていた。
「うわ〜ん・・・全然分かりません!」
「そう言わないで。悔やむなら自分を悔やんでね。手伝うって自分で言ったんだから。」
机に、死にそうな顔をしてぐったりしている柚愛を横に僕は言った。
そのうちに、国井さんがご飯を届けてくれた。
「あまり考え込まないほうがいいですよ。体に悪いですから。」
「あ、、ありがとうございます。」
お礼を言い、ご飯を受け取ると、国井さんは、ペコリとお辞儀をして出て行った。
だが、そのまま僕は立ちすくんでいた。
「国井さんが作ったんだね。きっと。」
「うわ〜なにか黒いものがもやもやで・・・コゲ臭いです・・・」
柚愛は鼻をつまみ、裏声で言った。僕も食べる気がしなく、そのまま机にご飯を置いておいた。国井さんが、料理がど下手なのを忘れていた。でも、なぜ紗衣が作らなかったのだろうか。居るはずなのに。
「ねぇ、紗衣どこいったんだろう。」
「柚愛もそう思います。お買い物で会ったばかりなのに。」
「そのうち帰ってくるよ。にしても、シャーロットって誰だろう。」
「私、シャーロック・ホームズなら聞いたことがあります。」
「あぁ、あの有名な名探偵か。だとしても、シャーロック・ホームズじゃないよ。」
「そっか・・・」
息がつまる。でも本当にシャーロック・ホームズのことなのだろうか。シャーロックなんてカミノにどう関係してくるんだ?
「あっ・・・」
僕はある言葉を思い出した。
―――シャーロット!逃げるのよ!私がついているわ・・・!!―――
「これ・・・紗衣が貸してくれた本の、台詞・・・・」
「本?」
「あぁ、僕が面白い本ないかって聞いたら、この本を読んでみてください。っていって貸してくれたんだ。物語の主人公・シャーロットは、探偵のように、どんどん事件を解決していくんだ。でも、シャーロットの家は火事になった。そのとき、お姉ちゃんが、シャーロットを助けた台詞だよこれ。」
僕が、本棚から、その本を探していると、
「じゃあシャーロットは、妹ということになるわけだよね?」
「そうか。」
僕は本を探し続け、ようやく見つけると、物語をペラペラとめくり、問題の台詞を見つけた。
「これだよ。やっぱり、妹って意味なのかな。。。」
前のページや次のページをところどころ読みながら、僕はつぶやいた。もし、このシャーロットのことだったら紗衣とも繋がる。でも、なぜシャーロットなんだ?シャーロットの家族写真ってなんなんだ?
「紗衣さん・・・なにか伝えようとしているんじゃないですか?」
「伝え?」
柚愛が眉を下げ、小声でつぶやく。
「ほら、美人さんと話してたって先輩言ってたじゃないですか?もしかして、妹さんなんじゃ・・・」
「妹?!紗衣に妹なんて・・・」
僕は、頭の中の記憶を辿った。でも、そこに紗衣の妹のことなんてなかった気がする。
「とにかくあっているか聞いてこよう!」
僕と柚愛は、自室を飛び出し、紗衣の部屋に向かった。
そこには、書類をまとめている厳しい顔の紗衣が居た。
僕たちに気づくと、パッと書類を隠し、ケロッと笑顔になった。
「なんですか?それとも、わかりましたか?一つ目。」
「うん。妹って意味かな・・・シャーロットって・・・」
僕は、持ってきた本を紗衣に差し出しながら言った。
紗衣は本を受け取り、にっこりして言った。
「そうですよ。でも、中間発表ですよね?まだ家族写真という謎が残っていますよ。」
「あぁ・・・忘れててた。でも、家族写真って意味不明だよ。」
「それは、見つけてください?ヒントとなるものを。それと、久しぶりかな、智は。」
そういってドアのほうをのぞいた。笑っている紗衣につられて、僕もドアのほうを見た。
「紬・・・・?」
「久しぶり。智・・・」
体をドアに立てかけて、腕を組んだ、一人の美男が立っていた。
そう、紬は、僕のパートナーで、学校を休めない僕の分まで依頼を受け、海外へ出回っていたのだ。
なぜか紬は、僕にだけ優しい。紗衣は、智にだけ心を開いたんですね。といっていた。
「紬さん、おかえりなさい!」
手を大きく振る、柚愛を冷たい目線で見つめ、話し続けた。
「紗衣、オレ、先風呂行って来るから。」
「はい。じゃあ食事の支度をしておきますから。それと、お帰りなさい、紬。」
「・・・・・・うん。」
ウル目になる柚愛の頭をなでながら、僕も、紬にお帰りなさい、と告げた。
「え〜!!5カ国も回ったのかよ!!」
食事をしている紬に、イスを反対に座りながら訪ねた。
「あんまり大きな声をだすなよ。うるさいから。」
おかずに手を伸ばしながら、死んだ魚のような目をしていった。
「はい。ご飯、食べてないんでしょう?」
そういって、紗衣は、オムライスを作ってくれた。
「分かってたの・・・?」
「はい。国井さんは料理がど下手で、あんな黒いかたまり、食べるわけがないでしょう・・・?」
「・・・・」
僕は、紗衣を改めて尊敬した。こんなにも僕たちを分かってくれているんだ・・・と。
だが、相変わらず、紬は無表情だ。
「紬、なんでそんな固いのさ。」
「その質問には前にも答えたって・・・」
紬は、呆れ顔になった。
「え〜・・・・依頼者と親しくなっちゃって、それが、自分の不注意で、依頼者をカミノに殺されてしまったからもう誰にも心を閉ざしたままなんだよね。」
「そうだよ。でも智は、特別。」
スープをすすりながら、紬はつぶやいた。
「意味わかんない〜・・・」
スプーンを口にくわえたまま、イスを揺らしていた。
その様子を紗衣は、ニコニコしながら聞いていたのだった。
ああ・・・三崎奏さま・・・・・・。僕は本当に反省しています。
あのとき僕が、あなたから離れずにいたら、あなたは生きていたのでしょうか。
あなたに惚れてさえいなければ・・・・
それが悔しいのです。
でも、大丈夫ですよ。あのあと、カミノ・松川雄一は僕が、永遠の眠りにつかせました。それでは、お元気で。
美作 紬
「ごめん、紬。宛先が天国だったからもどってきちゃったよ。本部に。そして僕は、読んでしまった・・・!!」
わたわたしながら、紬が来ないことを祈る。
だが、そのあと紗衣に聞くと、5件ちかく帰ってきているといっていた。
これは、以前、僕と組む前、一人で依頼を持っていたときの依頼者・三崎奏さんあてだろうか。奏さんは、有名なピアニストで、その自分の曲に、うたを取り込んでいて、とてもの工夫だと、プロピアニストは言っていた。
「紬ってなんで、依頼者を殺してしまったことを後悔してんの?」
僕は、その夜、紬の部屋に押しかけて、聞き込んだ。
「後悔か・・・・そうだな。オレも前に進まなきゃな。」
「そーゆーことじゃないよ・・・」
「なんだよ。」
「なんで、奏さんを殺しちゃったことを後悔してるの?」
イスに座って本を読んでいる紬の上に上ると、キョトンとした顔でこっちを見ている。
「智は知らなくていいことだよ。早く寝ないと明日遅刻するよ。」
僕の頭の上に手を乗せ、やわらかな日差しのような笑顔で資料に目を落とした。
「うん。おやすみ。」
そういって静かにドアを閉めた。
―ねぇ、紬さん。私、狙われてるんでしょ?だったら、死ぬ前に、あなたに一度だけ、歌わせて?お願い。
―はい。お願いします。
〜生きた夢力が尽きてしまったとしても愛すると誓うから 一緒に瞬間を過ごしたいの
歌が聞こえてくる・・・?
聴覚?
なんなんだ!!この声は!!!
ベッドの中で頭を抱えた。
一人の女性の歌を、一人の男性が聞いていた。
紬と、奏・・・・さん?
なぞに包まれたまま、夜を過ごした。
「おはよ〜・・・」
キッチンに入ると、フライパンと向かい合っている紗衣と、先に朝食を食べている紬がいた。僕は、紬のとなりに座り、じっと見つめた。
「なに?惚れた?」
「んなわけねーだろーが!!!」
怒りと、もやもや感に包まれていた。なんだか、似た二人の女性の顔が頭の中で流れ出る。
「!!」
ちゃわんが手から滑り落ち、周りは唖然としている。ただ、紗衣だけは、かすかにほほえんでいるようだ。
「まさか。。。まさか・・・・!!」
「おい!どうした智!!!」
隣に座っている紬の心配そうな眼差しが僕を突き刺す。
大宮美鈴・三崎奏。
この二人は、、、松川雄一のターゲット・・・?!
「紬・・・一緒に、イギリスへ来てくれないか?」
「え?」
―思いついたことを行動に移せ。
シャーロットの言葉だ。
きっと、大宮美鈴は、本当の紗衣の妹ではない。
「10年前。松川秀世。マフィア界の偉大な奴だ。松川は、ある一人の女性と結婚していた。それは、大宮ミノリさん。ミノリさんは、松川馨・秀世の父親のライバル・大宮皐の娘だった。」
「ならなんでミノリさんと松川は結婚などしたんだ?」
空港に向かいながら、僕は推理を話した。
「僕は、この前、イギリスへ立っていたんだ。そして紗衣の家に言った。」
「・・・・・」
紬は黙って話しに耳を向ける。
「そのときちょうど、昔のお手伝いさんが居たんだ。旦那様と奥様が別の豪邸に移転すると言っていた。僕は、まだミノリさんと夫婦でいるのかと思ったんだ。なぜなら、
ミノリさんをターゲットとする、カミノだったからな。」
紬の顔が険しくなる。
「カミノだって・・・?!」
「あぁ、間違いなく、カミノ出現ってやつだな。」
「なんでそうなる・・・!!」
飛行機に乗り終わると、席に着き、リラックスしながら話した。
「シャーロットの家族写真。紗衣の一つ目のヒントだ。あのときスーパーで会ったのは、大宮美鈴さんだ。そして、話の内容は、『彼氏が出来た。そして、プロポーズを受けた』と。」
「幸せじゃないか。」
「その逆だ。松川雄一のターゲットだったんだよ!でも、奏さんのときとは違う“感情“を持っていた。」
「は?奏の復讐者と同じ・・・奴だってことか?!」
「そうだよ。奏さんを殺害したときは、ただ、うれしい。という思いしかなかった。」
「で?続きは?」
「これから調べに行く。」
これから先のことは、闇の中に突っ込んでいくようなものだ。なぜ、奏さんのときとは違う感情だとわかったのか。話したこともないのに、感情を読めたのか。僕にもそれは、謎のままなのだ