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音使いは死と踊る  作者: 弁当箱
八章
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輝く夢

「そういえば、君の掛け布団がないのか」


 荷物がひとしきり片付いた所で、弦気は愛花に向けて言った。

 開いたふすまの向こうから淡々と作業する弦気を見つめていた愛花は「はい」と頷いた。

 

「じゃあ買いに行こうか。見たところまともな服もないんだろ? その検査衣以外」


「はい。ですが私が外出する場合、弦気さんは監視課に許可を取る義務が……」


「分かってるよ」


 愛花の言葉を遮って弦気は言う。

 外出するのには一々許可をとって、その度に書類を提出しなければならない。弦気にとってはこんな煩わしいこともなかったが、これが愛花にとっての普通だった。


「弦気さん、布団を買いに行くという理由では外出の許可は降りないと思います」


「なぜ……?」


「これまでがそうだったからです。私が外出を許されるのは、基本的に月に一度の屋外活動と、施設へ移動する時のみです」


「じゃあ布団はどうするんだ」


「施設に報告すれば用意してくれます。ネット等で取り寄せることもできますが、その場合物品検査が行われるのでここに届くのには少し時間がかかります」


「そんなの馬鹿みたいだ」


 弦気は胸ポケットに入れていた自身の端末を取り出し、登録しておいた監視課に電話をかける。


『はい、こちらセントセリア中央監視課』


「御堂弦気です。夢咲愛花の外出の許可をお願いします」


『外出の目的をお答えください』


「衣服と布団の購入です」


『分かりました。少々お待ちください』


「はい」


『……お待たせしました。すいませんが、外出の許可は出せません。衣服と布団はこちらで用意させていただきますので、ご了承願います』


「そうですか。分かりました」 


 言って、無造作に通話を切ると、弦気は端末を再び胸ポケットにしまった。

 そしてハンガーに掛けてあった上着を羽織ると、彼は片付けた自分の衣服の中からコートを取り出し、愛花に投げ渡した。


「そんな服で外に出るわけにはいかないから、上からそれを着て」

 

「許可は降りたのですか?」


「君の言うとおり許可は降りなかったよ」


 弦気は降りたと嘘をつきかけたが、意味がないと思ってやめた。


「では、外出はできませんね」


「いや、行こう。許可なんて必要ない。一々そんなことしてたら俺はなんのための護衛か分からない」


「しかし、決まりを破るのは」


「うるさいな」


 弦気は苛立っていた。外出の許可を得られなかったこともそうだが、やはり夢咲愛花という存在が気に入らなかった。


「セントセリアは石を投げれば自衛軍に当たるような街だぞ。少し外に出たからといって危険はない」


 彼も規律は守るタイプだったが、感情的にタガが外れている現在は、些細なことを気にする神経を維持できていないのだ。

 そして彼は発散を求めている。故に、決まりを破るくらいのことは今の弦気にとって簡単だった。


「ですが」


「ですがって、君は何なんだ? 辛くないのか? ずっと部屋にこもって毎日検査ばかりで。おまけに変な護衛までつけられて、俺なら耐えられないよ」


「辛くはありません」


「どうして?」


「小さい頃からずっとこうだったからです」


「自分がなんでこんなことしてるのか、疑問には思わないのか? 他の君くらいの歳の女の子はみんな学校に行ったり外で自由に遊んだりしてるんだぞ」


「私は他の人とは違いますから」


「なんでそれで納得できるんだよ」


「それも、私が他の人とは違うからだと思います」


 弦気は愛花に向けて一歩踏み出し、そこで動きを止めた。

 彼は夢咲愛花がどういう存在なのかについては、詳しい説明をまだ受けていなかった。

 だから、この少女の能力、重要性、出生、何もかもを彼は知らない。

 しかし、彼女が他と違って特別であることは理解していた。それを踏まえた上で彼は嫌悪感を彼女に抱いている。

 弦気は少し迷って口を開く。


「正直、君……気持ち悪いぞ」


 その時、愛花がほんの少しだけ目を逸したので、弦気は言った後すぐに後悔した。

 年下の女の子になんてことを言ってしまったのだと。


「……ああ、いや。今のは……。ごめん、今のは失言だった」


「いえ、構いませんよ」


「……布団は大人しく取り寄せようか」


 冷静になった弦気はベッドに腰かけて言う。


「はい」


 その後しばらく沈黙が続いた。時刻は九時。弦気には片付けなければならない書類がいくつかあったが、彼は明日に後回しする。眠気が来ていた。


「……お腹、減らない?」


 弦気は愛花にそう投げかける。彼を襲うのは眠気だけではなかったのだ。


「空いていますが、私は決められた食事しか取ることはできないので」


 その返事で、弦気の食欲は削がれた。


「……そうだったな。じゃあ今日はもう寝ようか。君は俺の掛け布団を使っていいよ」


「分かりました。ですが弦気さんは」


「一日くらい平気だって。俺はバスタオルでもかぶって寝るから」


「風邪を引くかもしれません」


「大丈夫だから。ほら」


 弦気は自分の布団を掴むと、それを愛花の元まで運び、彼女にバサッと投げ被せた。

 布団を被せられた愛花は、その重さに耐えきれずとてんとベッドに体を倒した。


 弦気は部屋の電気を消すと、自分の部屋に戻ってふすまを閉める。

 そして自分のベッドに倒れ込んだ。

 彼が目をつむると、ぐるぐると世界が回る様な感じがした。色んな事が彼の頭の中を圧迫する。


「ああ……俺は……」



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