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音使いは死と踊る  作者: 弁当箱
七章
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決別の子守唄

 上空およそ300mには、四つ星(ジェネラル)の二人を囲むように中将が7人、そして少将が10人出現していた。

 自衛軍七大将。御堂龍帥の席が空いたとはいえ、その威光は依然健在だ。彼らの出現により、場の空気が一気に変わっていた。


「あれが噂のファフニールですか。まだ子どもとはいえ、神話級の名に恥じない暴れっぷりですね」


 自衛軍七大将が一人、一ノ瀬空刃(いちのせそらは)は少しズレたメガネを中指でくいっと上げて地上の戦線を見下ろす。そこには地上へ向けて業火を放つ神話級の魔獣の姿があった。

 一ノ瀬は三年前、齢29にして、史上最年少で大将の地位を獲得した男である。

 すらっとした痩身に自衛軍の白い軍服がよく映えていた。


「AnonymousとNursery Rhymes。両組織を一網打尽にできるこれ以上ないチャンスだ」


 もう一人の大将。胸に四つ星を輝かせる杖郷の男、天上峰空元(てんじょうみねくうげん)はそう言って一ノ瀬に視線を移した。

 天上峰空元。一ノ瀬と同じく自衛軍の総本山セントセリア配属される彼は、現在六人存在している大将の中では一番の古株である。

 隣の一ノ瀬と比べて体格は二倍近くあり、ほとんど白髪の頭髪と、整えられた髭、そして彫りが深く老いた顔立ちが歴戦を思わせた。


「一ノ瀬、あの神話級は任せたぞ」


「ええ。では天上峰さん、地上の指揮よろしくお願いします」


「ああ」


「弦気君も、無理しないように」


 一ノ瀬は斜め後ろで抑えきれない殺気を放つ御堂弦気に対してそう言ってから、街で暴れまわるファフニールの元へと飛び立った。

 それに合わせ、上空に滞在していた総勢18人の白い影は、天上峰を筆頭に地上へと降下していった。



ーーー



 戦況が次々と移りゆく。俺は吐き気に似た何かを喉の奥に溜め込んでいた。

 上空に現れた自衛軍の援軍は、しばらくその場に留まっていたが、一人がレンガの方に向かって飛んでいったと思えば、他の奴らも一気に地上へと降りてきた。


 レンガの元へと飛んだ大将の一人はそのままレンガに攻撃を仕掛け、レンガの標的は俺と千薬さんからそちらへ移る。そして上空での激しい戦闘が始まった。

 地上に降りた自衛軍は散開し、避難に遅れた市民の救助を開始する。


 とりあえずレンガの標的になってくれたことは好都合だと思い、俺は戦線を立て直すべくネオスレイシイドビルディングに戻ろうとしていた。


 しかしそんな時、俺と千薬さんは厄介な敵と遭遇してしまう。


 俺達の進行方向から現れたのは、天上峰空元(てんじょうみねくうげん)

 自衛軍七大将のうちの一人。別名、天道とも呼ばれる男。

 このエンカウントだけは避けようと思っていたのだが、地上に降りた後散開されては避けようがなかった。音は把握していても、誰が誰かなんてわかりやしない。

 ハズレを引いたのだ。

 

「久しいじゃないか、千地谷。Anonymousについていたとはな」


 天上峰はゆっくりとこちらまで歩いてくる。自然と千薬さんも前に出ていた。

 元は自衛軍で医師をやっていた千薬さんだ。天上峰とも顔見知りらしい。


「ふむ、死音くんは指揮に戻った方がいいだろう。先に進め」


 千薬さんは言う。その通りだ。

 現状、自衛軍大将である天上峰を抑えられるのは千薬さんか百零さんのみ。

 状況的に天上峰は千薬さんに対応してもらうしかない。


 俺はコクリとうなずき、数歩下がった。

 天上峰の隣は通れないので、遠回りする。

 しばらく後ずさると、俺は後方の道を駆けだした。


「空元、老いたな」


「千地谷、お前は恐ろしい程変わらない」


 そんな会話の後に、バシュンと弾けるような音が響いた。

 走りながら振り返ってみると、そこには大量の血が浮びかび上がっていた。赤い液体は千薬さんにまとわりつくように渦巻いてる。どうやら千薬さんはサーバーの中身の血を全部ぶちまけたらしい。本気だ。


 早く離れないと巻き込まれかねないので、俺はさらに速度を上げて走る。

 そして俺はネクタイのマイクを掴み、俺は執行さんを呼んだ。今の戦況がどうなっているか確認するためだ。


「執行さん!」


 呼んだが、インカムから返事は聞こえてこなかった。おかしい、先程から執行さんの返事がない。

 不思議に思ったが、いないなら仕方ない。執行さんの方も手が離せないのだろう。


 俺は遠回りして方向を修正するとネオスレイシイドビルディングまで一直線に走る。


 ――しかし、そこで俺はある人物と鉢合わせた。動かしていた足を止め、息を整える。

 最悪に最悪が重なった気分だ。


 自衛軍中将、御堂弦気。

 彼もまた、俺に鋭い眼光を突き刺していた。


「死音……」


 まさか昨日の今日でこうしてまた戦うことになるとは。


 弦気。

 親友……とはもう呼べないか。

 今は……、ただの障害。断ち切るべき絆、過去だ。


「死音……!」


 ザ、と。弦気は一歩を強く踏み出す。

 俺は瞳を閉じ、集音を切る。

 どうせ戦況の把握は半端だ。今更なくても関係ない。

 それよりは今目の前にいる敵を屠ることが優先される。

 本来なら構っている暇はない……だがすんなりと通してくれそうな雰囲気ではない。


「シィィィオォォォォォォン!!!!」


 怒鳴り声。同時に弦気は爆ぜていた。気付けば一瞬で距離を詰められている。

 音撃……は例のごとく通用しないだろう。そう思った俺は一度後退するべく体を捻ったが、腕を捕まれぐんと引き寄せられた。

 そしてそのまま腹に拳を叩き込まれる。


「ぐはっ……!」

 

 反応できなかった。明らかにただ走っただけのスピードではない。


 弦気は俺の腹に拳を何度も叩き込んだ後、ハイキックを放って手を離した。

 ギリギリのところでガードしたが、俺はよろめく。

 そして弦気の追撃が視えていた。


 回し蹴り。


「チィッ!」


 その場にしゃがんで躱すのと共に音撃を放ったがやはり効果はない。そのまま俺はナイフを投擲して後ろに飛んだ。投擲したナイフは弦気に当たる寸前で軌道が逸れ、後ろに飛んでいく。


 距離を取ろうとする俺に対して弦気は構わず突っ込んでくる。


 弦気にはやはり能力やその他もろもろ攻撃がすべて効かない。

 奴に大した攻撃手段がないのが救いか。

 だが、俺の方にも攻撃手段はないわけだ。


「ッらァ!!」


 攻撃を躱しながら後退していくうちに、俺は壁に追い詰められていた。

 能力を使いすぎているせいか、自分の動きが鈍い。


 俺はギリと歯を鳴らし、仮面の下から弦気を睨む。弦気は血走った目で攻撃の手を緩めない。


 壁に追い詰められた俺は、リングのコーナーに追い詰められたボクサーのようにサンドバッグになってしまっていた。かろうじて急所への攻撃を防ぐのが精一杯だ。


 この状態から逃れるために、俺は背後の壁へと音撃を放った。が、同時に俺は顔面への攻撃を許してしまう。


 マスクが吹き飛び、音撃の威力で吹き飛んだコンクリートの壁の向こうへ俺は転がり込む。

 土煙が上がっていた。弦気の追撃はない。


 俺は立ち上がり、右手で顔を押さえる。打たれた頬が微かに痛んだ。


「ハァ……ハァ……」


 土煙が晴れ、肩を上下させる弦気を俺は視界に捉えた。

 顔を押さえていた右手を下ろす。


 視線が合っている。

 俺は呼吸を整えながら、バクバクと脈打つうるさい心臓を大人しくさせようとする。

 弦気は両腕をだらんとさせて、呆然と立ち尽くしていた。口を小さく開き、血走っていた目は大きく見開かれている。


「……風人?」


 かろうじて絞り出したかのような声。


「……ああ」


 静寂が辺りを支配する。しばらく黙っていた弦気は目をキョロキョロさせて口を開いた。


「……凛を、……殺したのも?」


 俺は一度目を閉じ、大きく息を吐いてからはっきりと言った。


「ああ、俺だよ」


 弦気の体が微かに揺れる。一瞬身構えたが、弦気はそのまま地面に膝から崩れ落ちた。


「ああ……。嘘……だろ、なん……で……」


 やがて両手をも地面につけた弦気は、肩を震わせながら吐き出す。

 俺はそんな中、攻撃するべきか考えていた。

 しかし、弦気にはあらゆる攻撃が通用しない。それは今も変わらないはずだ。

 それに、これはこいつから逃げるチャンスでもある。

 そう思った俺はゆっくりと後退し、そしてまたネオスレイシイドビルディングへと走り出した。






 道中、走る俺の目の前に一台のバイクがドリフトで急停車した。

 バイクにまたがっていた女はその場で黒いヘルメットを脱ぎ、長い金色の髪を舞わせる。


「久しぶりね。元気してた? バディ」


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