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音使いは死と踊る  作者: 弁当箱
七章
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主張する子守唄

 第二会議室に集まったメンバーは、見事に協調性がなさそうな面子だった。この事態にこの面子はやばいかもしれない。

 俺は内心でそう思いながら、もう一度右から集まった顔を見渡す。


 まず月離さん。入り口から一番離れた席に座る彼は何故か俺を睨んでいた。

 月離さんはロールが絡まなければまあまあまともなので、そこまで気にしなくてもいい。この前助けてくれたのもあって、俺は月離さんに対してはもう悪いイメージを持っていない。今睨まれている理由はさておき。

 問題はその四つ隣に座る人だ。


 楕円を描く大きな円卓に沿って俺は視線を右へと移していく。


 ヒキサキさん。

 行き着いた視線の先にいる彼は、円卓の上に足を置いてクチャクチャとガムを噛んでいた。

 彼と月離さんが並べばチンピラコンビの出来上がりだ。

 ヒキサキさんは茶髪にパーマがかった首まで伸びる髪、中性的な顔立ちの男だが、耳やら鼻やら唇にピアスがついていて整った顔を台無しにしている。

 確か、年齢は俺の2つ上だ。


 俺の視線に気づいたのか、彼と目が合う。

 俺はそれに合わせて視線を右に逸らした。


 大きく間隔を空けて、次に視線に止まったのは顔面パンチさんだった。

 彼は神妙な面持ちで百零さんが話し出すのを待っている。

 彼もまた、Anonymousで言う"手のつけられない人間"の一人らしいが、案外組織のピンチに立ち上がるタイプなのかもしれない。


 流すように視線を移していく。

 数人、見たこともない人がいる。コードネームを聞けば「あの人か」となるかもしれないが、俺はまだAnonymous全員の顔と名前が一致するわけではないのだ。

 こうして会ったこともない人がまだ何人もいる。


 そんなことを考えながら視線を移していくと、火矢さんがいることに気づいた。

 確か火矢さんと顔面パンチさんはパートナーだったよな。

 視線が合ったので、軽く会釈すると、彼女は俺に向けて中指を立てた。


「……」


 何とも言えない気分になる。

 聞いていた通り、俺は火矢さんに恨まれているようだ。

 彼女は白熱さんを深く崇拝していたらしく、その白熱さんが死んだことに対する悲しみや怒りを俺に向けている。


 そんなこと、今の俺にとっては心底どうでもいいことなのに。

 あの二人の死は、俺が勝手に納得することだ。白熱さんも黒犬さんもいつまでも引きずられることを望んでいない。



 気を取り直して見渡すと、他にも因子さんやリリーさんなど、ちらほら面識のある人もいた。


 しかし、本当にまるで協調性がなそうなメンバーが集まったもんだ。

 ざっと見渡しても人数は十数人。アジト内の戦闘員を全員無理やり集めたにしてはかなり少ない。正直、敵の数にもよるが勝機があるとは思えない。

 ただ、個々の戦力としては全然悪くないと思う。連携は期待できないけど。


 張り詰めた空気の中、俺の向かい側に座る百零さんがとうとう口を開いた。


「状況は執行からの連絡通りだ。ここにいるメンバー全員でNursery Rhymesを迎え撃つ。今からおよそ30分後……、奴らの到着から一時間。なんとか時間を稼ぎたい。

 "観測者"によって割り出した敵の数はおよそ50人弱。ここにいる人数で迎え撃つにはかなり心細いが、やるしかねー」


 ここにいるメンバー……か。

 あれ、そういえば千薬さんが来ていないじゃないか。


「千薬さんは来ないんですか?」


 百零さんに尋ねてみる。あの人がいればかなり楽な戦線展開ができそうである。

 なんせあの御堂龍帥とほとんど互角にやりあえるくらいの実力を持っているのだから。


「もちろん千薬にも戦ってもらう。なんか今は色々準備してるらしい」


「え、千薬って戦えんの?」


 口を挟んだのは顔面パンチさんだった。


「千薬は俺より強いぞ。ん? これって言っていいんだっけ」


 その言葉にざわめく会議室。

 答えた百零さんは顎に手を当てて眉を寄せる。

 そういえば千薬さんが強いことってあんまり認知されてないよな。

 もしかして、隠してたんだろうか。元自衛軍となれば信用出来なくなる奴もいるだろうし、あり得る。


「まあそれはともかく……この戦いは、自衛軍も交えた混戦になるだろう。だが、この戦力差を覆すには、奴らの存在は逆に不可欠だ」


 自衛軍との混戦か。

 それだと最初に数の少ないAnonymousが撃破される展開にならないかな。

 こちらの戦力にまとまりはない。展開するなら、アジトの入り口に一人ずつ配置させて誰かが敵の動きに合わせて指揮を取る。


「奴らはニューロード方面の南西ゲートを突破してこの街に侵入するだろう。奴らがアジトの入り口も把握していると仮定して、そこで自衛軍との混戦に持ち込む。アジトに自衛軍ごと流れこまれたらどうしようもなくなるからな」


 何人かが百零さんの作戦に頷いたが、俺は眉を寄せた。


 このメンツなら、一人ずつ動かした方が連携を考えなくていいからやりやすいはず。


 アジトの入り口はカフェを含めて合計5箇所かそこらだったよな。

 それなら一人ずつ配置した上で、残った人で攻撃に転ずることもできる。

 さらにアジトの入り口をしっかりロックしておけば、時間は十分に稼げるはずだ。


「百零さん」


 軽く手を上げて、俺は発言する。


「なんだよ、死音」


「俺に指揮を取らせてもらえませんか?」


 空気が凍りついたような気がしたが、分かっていた。

 何言ってんだという視線が俺に集まり、そんな中俺は一度一人一人の目を見渡した。

 冗談で言っているわけじゃない、という意志を視線のみで伝える。


 俺が今気に食わないのは、百零さんが犠牲者が出ることを前提にしていることだ。

 確かに、犠牲者は出るだろう。だけど人死にが前提の捨て身の戦いを俺はしたくない。


 自分でも笑ってしまいそうになるが、この状況で、例に漏れず俺は死にたくない。

 死の覚悟が簡単にできてしまうここの人達とは違う。

 かと言って、Anonymousを捨ててまで戦いを避けたいというわけじゃない。

 特攻みたいな真似しなくても、もっとちゃんとした戦いができるはずなのだ。

 煙さんがいたら俺がこんなことを言わなくても良かったと思う。


 最後に百零さんの目をじっと見る。

 彼はフッと笑って言った。


「よし、じゃあ指揮とってくれ死音。元々俺に向かないのは分かってたしな。時間がない。考えはあるんだろ?」


「いやいや、待てよ。この中じゃ百零さんくらいだろうが、俺達をまとめられるのは。誰もてめぇなんかには従わねーぜ、死音」


 ガン、と。円卓の上に足を叩きつけたのはヒキサキさんだった。

 彼は口を半開きにして俺を睨んでいる。


 舌打ちがでかけた。

 これだから嫌なんだ、この人は。誰にでも突っかかればいいってわけじゃないんだぞ。

 俺は溜息を堪えて言った。


「今はそんなこと言ってる場合じゃないと思います。移動時間を考えたら、後10分以内には行動しないといけない」


「あ? 関係ねーよ」


 ダメだ。会話にならない。

 百零さんなんとか言ってください。

 そういう意味で視線を百零さんに移したが、彼は俺と視線を合わせなかった。

 なんとかまとめてみせろってことなんだろうか。

 周りも見渡してみても、みんな沈黙を保っていた。仕方ない。


「ヒキサキさん。俺の能力はご存知ですよね」


「ああ」


「じゃあ百零さんの能力は?」


「んなもん知らないわけねーだろ」


「なら適材適所って言葉はわかりますか?」


「馬鹿にしてんのかてめぇ?」


 円卓から足をどけ、立ち上がるヒキサキさん。

 この人にはこれくらい喧嘩腰の方がよさそうだ。

 真っ向から黙らせるしかない。


「俺の能力は音支配(ドミナント)。1.5km……いや、2kmまでなら音を拾ったりピンポイントで送ったりできます。感知には自信があります。そして、俺が指揮すれば、あらゆる指示のラグがほとんどない。直接音を送れるからインカムも端末もいらない。敵の位置も範囲内なら常に把握できる。そのために、最初に俺が敵の侵入地点を範囲に入れて、敵の位置を把握しておきます。これならみなさんを敵の元へ的確に誘導することができます。執行さんと連絡を取り合えば、更に精密な感知が可能です。

 これらの利点が大きいと思うので、俺が指揮するべきだと思いました」


「…………」


「敵も街中(まちなか)堂々とまとまって動くわけじゃないでしょう。

 このメンバーなら連携より、それぞれ個々で戦った方が成果が期待できると思うんです。ヒキサキさんも一人の方がやりやすいですよね?」


「チッ」


 舌打ちをして、ヒキサキさんは椅子に深く座り直した。

 思ったより簡単に退いてくれたので俺は驚いていた。強気に出てみるものだな。


「他に、俺が指揮するのに不満がある方いますか?」


 俺はぐるっと円卓を見渡す。

 ちょっと不満そうな顔をする人もチラホラみかけられたが、誰も何も言って来ない。


「よし、じゃあ死音に決定だな。死音、俺達はどうしたらいい?」


「分かりました。俺の考えた作戦は――」




ーーー




 ほとんど人のいない今の状態のAnonymousを襲う意味は何なんだろう。

 アジトには拠点としての重要性は確かにあるが、メンバーが生き残っていれば各地に散る支部をまた拠点として活動は続けられる。

 さらに言えば、ここで迎撃せずにある程度荷物をまとめて逃げることも可能なのだ。

 もしかすると、Nursery Rhymesの目的はAnonymousそのものを潰すことではないのだろうか。

 というか、明らかに不利な戦いなのに、百零さんが迎撃にこだわるのはなぜなのか。


 それだけ守りたいものがここにはあるのか?

 思いつくのは"観測者(オブザーバー)"だが、幹部以外はアレについて詳しく聞かされていないみたいだし、俺も"観測者"が何なのかよく分かっていない。

 そもそも俺は"観測者"のことを人だと思っていたのだが、先ほどモニタルームでの様子を見ていて"観測者"が何か分からなくなった。

 あれはここではないどこかにいる人物と交信していたのだろうか。



 ――現在俺は、中心街から外れた所にある高層マンションの屋上から、南西ゲートの先に続く街道を双眼鏡で見渡していた。

 敵はすでに見えている。

 彼らは土煙を立てながら猛スピードで幾台もの車を走らせて、街に向かってきていた。


 それに対して南西ゲートに構えるのは、この街の自衛軍だ。執行さんが情報を流したことより、自衛軍(かれら)はこうして迅速に対応できている。


 しかし、Nursery Rhymesにくわえて"協会"の軍勢。この街の自衛軍だけでは簡単に突破されてしまうだろう。スレイシイドの自衛軍は正直言ってザルだ。だからAnonymousも街の地下にアジトを構えることができた。


 だが、彼らもそれが分かって援軍を呼んでいるはずだ。自衛軍の援軍が到着する前に、主力の帰還が間に合うか。おそらく間に合わないだろう……。3つの軍勢が合わさった時、この街は混沌に陥る。

 すでに住人の避難は間に合っていないので、お察しだ。


 弦気は昨日の時点でニューロード間の自衛軍基地にいたので、あそこにはいないだろうと推測する。逆に、あそこにいたということは援軍としてスレイシイドに送られる可能性も高い。



 俺は振り返って、中心街の方を見た。

 ほぼ真ん中の位置にそびえ立つネオスレイシイドビルディングは、この街で一番高い超高層ビルだ。

 あそこの屋上からは、全てのゲートを見渡せる。そして俺の能力も最大限に活かせる素晴らしいポイントだ。


 俺は南西ゲートの連中を領域(テリトリー)に収めた後、奴らの侵攻に連れてあのビルの屋上まで移動する。

 俺があの位置につくと、作戦開始だ。


 自衛軍が南西ゲートに張り付いてくれているのがありがたい。あれが多少敵の動きを抑えてくれるだろうから、俺は落ち着いて行動できる。


 俺は腕時計を見て、時間を確認する。

 そろそろか。


 そう思って端末を取り出し、俺はAnonymousツハラ支部に電話をかけた。

 かけながら、踵を返して屋上を後にする。


 5コールくらいで、電話が繋がった。


『もしもし』


「死音です」


『死音君か! 君がいない間大変だったんだよ! レンガの世話は! というかそっちやばいらしいね』


 電話に出た人はツハラ支部の管理事務を務めるカフスさんという女性だ。


「すいません。そのレンガなんですけど、解放してやってくれませんか?」


 俺は階段を降りながら用事だけを伝える。話もしたいところだが、時間がない。


『はぁ!? いやいや、今は死音君とです子ちゃんの言いつけを守っていて大人しいけど、解き放ったらどうなるかは分からないよ? 多分そっちまで行くと思うけど。その状況で来られたらまずいんじゃ……』


「いや、それで構いません」


 それが狙いだ。

 元々圧倒的に不利な状況なんだから、レンガという不確定要素を投入しても、変わらない。

 それにレンガは賢い。きっと俺の言うことを聞いてくれるはずだ。


『あー、まあ、うん。分かった』


 俺の考えをある程度推測したのか、カフスさんは了承する。


「お願いします」


『りょー』


 電話を切って、端末をポケットに戻す。

 レンガの速度なら、ツハラ高原からここまで、20分といったところか。

 兵器(レンガ)の投入はそれくらいのタイミングが丁度良い。


 さあ出番だぞ、レンガ。





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[良い点] アミュートス×2は戦力としては申し分ないのでは!?とっても楽しみ [一言] はぁ〜おもろぉ……
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