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音使いは死と踊る  作者: 弁当箱
一章
8/156

未来の音

 Anonymousの首領。

 コードネームをハイドという。

 しかし、その名を呼ぶものは少ない。

 Anonymousでは、首領(ボス)というイメージが強すぎるからだ。



 彼は漆黒のコートで身を包み、暗闇に紛れる敵をしっかりとその目に捉えていた。



 マスクを着けていても、ボスの風格を漂わせる。

 暗闇に紛れる自衛軍の男が、彼をAnonymousの首領であると確信した理由は”雰囲気(オーラ)

 ただそれだけだった。


 二人の男はお互いの位置を把握しながらも、動かなかった。



「詩道」


 ハイドが自分のパートナーである女の名を呟くと、隣に立っていたその女は何も言わず歩き始めた。


 暗闇に紛れていた男は、その女を視線で追わなかった。

 どうせ、”奴は追えない”


 そして男は、一人で十分だと認識されたことに多少の苛立ちを覚えていた。

 自分は少将の中でもトップクラスの実力を持つ。中将との模擬戦でも、能力の相性や相手によっては圧倒することができる。


 そして、Anonymousのメンバーを何人も捕え、殺してきた自分だ。

 いくら相手が首領(ボス)とそのパートナーの二人だとしても、自分の能力なら殺れる。

 男はそう考えていた。


 しかし、2対1の戦いになることはなかった。

 Anonymousの首領が男に対してその価値を見なかったからだ。

 Anonymousのボスともなれば、男が放つプレッシャーで実力くらいは把握できているはずだ。

 それなのに、一人で十分だと判断された。


 男は自信過剰なわけではない。

 実績を出し、評価され、少将としてそこに立っている。

 自衛軍に入ってから何度血反吐を吐いたか分からない。


 それは男の確かな自信だった。


 詩道の気配が完全に消えてから、動いたのはハイドだった。

 ハイドはマスクを外し、その顔を顕にさせる。

 そして、ニヒルな笑みを暗闇へと飛ばすと、コートを翻して背を向けた。



 それを見た男は激昂しかけた。

 だが踏みとどまる。これは明らかな挑発だ。


 今、自衛軍として男に求められているのは、撤退。

 敵の首領である男の顔を見たのだ。特徴も捉えている。


 しかし、ここで奴を仕留めることが出来るなら、その限りではない。

 男にはその自信があった。



 男はすぐに決断し、闇夜に隠した自分の体を月の光に晒す。

 そして言い放った。



「罪を数えろ、アノニマス」



 男はすでに能力を使っていた。

 だが、そこに(ハイド)はいない。

 そして男も焦らない。精神を研ぎ澄ませ、辺りを警戒する。

 ただ姿が見えないだけだ。そんな奴なら自衛軍にもいた。



「これでまた一つ、罪が増える」


 ふと、そんな声が男の背後から響いた。


 男は振り向かない。

 声が聞こえた瞬間、脳が数パターンの次の一手を想定した。

 そして導かれた答えが、敗北。


 男は即座に命を諦めていた。命を掌握される気分を初めて味わう。これが、この男の能力か。

 なるほど、勝てるわけがない。


 ああ、撤退しておけば良かった。

 そんな後悔が空虚に響く。

 しかしもう遅い。


 男は最後に何か言おうとして、口をつぐんだ。



 夜の街で、静かに一人の命が散る。

 




ーーー

ーーー



 日曜日。

 俺は朝のジョギングから帰ってきて、シャワーを浴びた後だった。

 今日から鍛えることにしたのだ。いつまで続くかは分からないが、おそらく途中で俺が諦めかけてもロールにやらされる。


 まあそれはともかく、俺はさっそくアジトに向かっていた。

 元々これといった土日の過ごし方がなかった俺にとって、この非日常は少しだけ良い変化ももたらしてくれているのだ。


 アジトに着いて、俺はさっそくロールの部屋に向かう。

 だが、俺はその前にある人と遭遇した。


「あら死音君」


 アジトの廊下ですれ違った女性に会釈したら、そんな声をかけられたのだ。

 黒髪の女性で、身長は俺と同じくらい。

 初めて見る顔だが……誰だろうか。


「えーと……」


「詩道よ」


 ああ、この人がボスのパートナーの詩道さんか。

 ということは、2回ほど会ったことがある。


「お久しぶりです」


「どう? 調子は? ロールとうまくやってる?」


「はい、まあまあです」


「それは良かった。じゃあ、私急いでるから。またお茶でも飲みましょう」


「はい、失礼します」


 詩道さんの口調はロールに似ている。

 いや、ロールが詩道さんに似ているのか。詩道さんに生き方を教えてもらったとか言ってた気がする。

 それで口調も移ったのかな。


 そんなことを考えながら詩道さんの背中を見送る。

 おっと、早くロールの部屋に向かわないと。

 10時までには来いと言われてるんだった。





 部屋につくと、ご機嫌なロールが出迎えてくれた。

 部屋には昨日まではなかったダンボールがいくつか積まれてある。

 ロールがご機嫌なのはこれのおかげか?


 聞く前に、ロールが説明してくれた。


「武器が届いたわよ」


「武器?」


「ええ、アンタと私の武器。パートナーは同じ形態の武器を使うの」


 そういえば白熱さんと黒犬さんも同じナイフをいくつも持っていた。

 武器か。正直俺にはいらない気もするが、あったら便利だ。今のところ俺は能力による攻撃ができないわけだし。



「俺達は何使うの?」


「色々発注してみたからそれは今から決めましょう」


 ロールは机の引出しからナイフを出して、すべてのダンボールを開封した。

 中から白く分厚い袋に包装された武器がわんさかでてくる。基本的に小型の刃物ばかりだ。

 ロールの目は輝いていた。

 

「これとかどう?」


 チャキ、と音を立ててロールが手にとったのは、薄く尖った刃に、拳で握り、爪のようにして使う取っ手。


「なにそれ?」


「ジャマダハルよ。突いて使うの」


 ロールはそんな素振りを見せて拳を俺の前に突き出す。

 うーん、なんか違うな。


「持ち運び不便じゃないか?」

 

「そうね。でもかっこいいでしょ?

 まあ冗談で言ったんだけど、本気で考えてくれるとは思わなかったわ。アンタバカね」


「冗談だったのかよ」


 それにしてもこのロールのはしゃぎっぷりである。

 武器を前にしてテンションが上がる女の子ってのもなかなか凶悪だ。


「そういえば武器じゃないんだけど、実はね、私、ちょっと極めてみたいツールがあるの」


「何?」


 俺が問うと、ロールは机の引出しを開いて何かを取り出した。


「これよ。私が開発部に開発依頼出してわざわざ作らせたの。

 中々の出費だったわ……。

 もちろん、死音の分もあるわ。合わせて2つ」


 ロールが取り出して俺に見せたのは、黒い筒のようなものだった。

 ロールの手のひらできっちりつかめる程度の細さで、よく見るとその取っ手は持ちやすいように手形がついていた。


「なんだそれ?」


「カーボンナノファイバー製のワイヤー射出機よ。100mのワイヤーが内蔵されてる」


「なんだそれすげぇ……!」


「でしょ!」


 ロールはもう一つの射出機を俺に手渡した。

 俺はそれをまじまじと観察する。

 こんな小さいのにそんなことができるのか。

 すごいな本当に。


「親指辺りにあるボタンを強く押しこめばワイヤーが勢い良く射出されるわ。押してる間は射出され続ける。ボタンを押す時間で射出量を調整するわけ」


「この中指辺りのボタンは?」


「そのボタンを押せば射出されたワイヤーを切ることができる。

 でも一回切ると、ワイヤー先の重りが再装填されるから、次の射出まで一分のラグがかかるらしいわ」


「なるほど」


「あとこれ」


 ロールはまた何か引き出しから取り出して、俺に手渡す。

 それは黒いグローブが一双だった。

 

「ワイヤーに直接手で触れると怪我するから」


「ああ、ありがとう。

 そういや射出したワイヤーを戻すことはできないの?」


「もちろん出来るわよ。ワイヤーが出てる状態で射出ボタンを軽く押すの。

 でもそれに人体を引き上げる力はないわ」


 なるほど。

 大体把握した。

 移動にも使えそうだなと思ったけど、そうなると相当の訓練がいる上に、引き上げがないときついな。

 俺は武器として使った方がいいかもしれない。まあ他にも使い道はあるし、これはすごい便利アイテムだ。


 てか一回使ってみたいなこれ。


 そんな俺の心情を読んでか、ロールは言った。


「訓練室行く?」


「行こう」



ーーー



 訓練室で射出機の試し打ちをしている俺だが、これがなかなかうまく行かない。

 親指でボタンを押し込むと、勢い良くワイヤーが射出される。そして押し込んだボタンを一段階緩めると、そのまま射出されたワイヤーが勢い良く戻ってきて、パチンと射出機の中に収まった。


 しかし、これを狙い定めた場所に射出させるのが難しい。


 ロールは、10mほど先に置かれた金属製の鉄棒にワイヤーを射出させ、それにくるくるとワイヤーを巻き付かせるのに成功している。


 ロールとお揃いのグローブの中が、少しだけ汗で滲んでいた。


「全然うまくいかないなこれ」


「アンタは力加減がなってないのよ。

 対象の近くまでワイヤーが到達したら、こう……クイッてして一瞬ボタンを緩めるの」


 ロールの説明を受けても中々俺はできない。

 ロールは射出機の訓練を昨日から始めたらしいが、もうそれなりに扱えている。

 さすがロールさんと言うべきだが、差をつけられてなんとも思わない俺ではなかった。


「ふう……。なぜできないのか」


「死音、そろそろお腹減ったし部屋に戻るわよ」


 強化ガラスの向こう側の時計は、午後の1時を指していた。

 もうそんな時間になっていたのか。

 射出の練習は、うまくいかなくとも結構楽しかったから時間を忘れていた。


「そうだな」 


 射出機の練習は後でしよう。そう思って俺達は訓練室を出た。



 ロールの部屋に再び戻ると、ロールは料理の準備をし始めた。

 「特別に作ってあげる」とのことだ。

 特別に作ってあげる、とは言っても別に今回が初めてではない。これで特別に作って貰えるのは2回目だ。


 俺は床に散らばった武器を手に取る。

 ざっと目を通してみるが、やはり俺に武器はいらない気がする。

 武器の訓練をする暇があるなら能力の訓練をした方がいい。

 射出機は別だ。


 それにしてもロールの話によるとAnonymousには機動性の高い能力者が少ないらしい。

 浮遊できる能力者が少ないのも地味にネックになっているようだ。

 俺も機動性がなく、浮遊できない能力者の一人である。


 しかしAnonymousは総合的に火力が高いらしい。


 まあ火力云々の話をしても、能力者同士にはそれぞれ相性があるわけだ。その相性によっては、実力差があっても実際に戦えば善戦できたりする。

 Anonymousの順位は、トーナメント形式で実際に戦ってつけたものである。ロールは6位だが、6位以下にもロールより強い奴はいるみたいだ。


 しかしそんな大会みたいなこともするんだな、Anonymousは。


「ほら」


 しばらくするとコトッとテーブルの上に料理が置かれた。

 豚の生姜焼きと、ご飯と、大量のキャベツと味噌汁だ。

 あと昨日の残り物がおかずに並んでいる。


「おお、いただきます」


 手を合わせて食事を始める。

 ロールの料理は普通に美味しい。味付けがちょうど俺好みなのだ。

 さすがパートナーというべきか。

 とにかく、料理については褒め殺しにしてやった。

 だが料理を褒められるのは慣れているらしく、当然だという顔をしていた。


 弦気辺りに褒められるとこいつも顔を真っ赤にして喜ぶのだろうか。

 ……いや、そんなガラじゃないか。


「で、いいのあった?」


 いいの、というのは武器のことだろう。


「うーん、黒犬さん達みたいなナイフで良いと思うんだけど」


「ナイフにも色々あるのよ。

 あの人達は基本的に大きめのダガーを投げて使ってて、グリップも改造されてるわ。

 アレは私達には向かないわね。

 かと言って、私達には接近戦で使うナイフも必要ない。

 私は相手に触れれば確実に殺すことができるし、死音は相手に近づく意味がないから。

 まあそもそも死音の索敵があれば近づかれることはないでしょうね」


「え? じゃあ武器いらなくね?」


「アンタが能力をまともに扱えるようになればいらなくなるわ。そうなったら私もいらなくなりそうだけど。

 ……まあ、遅く発現したせいもあって、それはまだ先の話だから、武器はいるのよ。

 それに、一つも武器を扱えなかったらかっこ悪いでしょ。支部に派遣された時にそれで恥かいた奴だっているんだし」


 支部に派遣。そんなのもあるのかよ。


「ふーん」


 俺は止まっていた食事を再開する。

 それをみたロールもまた食べ始め、しばらくして俺より先に食事を終えた。


「小さめのスローイングナイフとかどう?

 黒犬達みたいに一撃で相手を仕留めることはできないけど、目潰しや足止めに使えるわ。数も持てるしね」


「投げナイフか。難しそうだな」


 投げナイフの回転打法。間合いによって回転速度を変えたりしないといけないってのを聞いたことがある。


「簡単に扱える武器なんて存在しないわよ」


「ごちそうさま。

 なら投げナイフを教えてくれよ」


 俺は食べ終わった食器を台所に持っていって、そう言った。


「分かったわ。どれ使うかは私が決めていいわよね?」


「いいよ」


 ロールなら適切なのを選んでくれる。

 というより俺は何が丁度良いのか分からない。



 まあとにかく、俺達の武器は投げナイフと、射出機に決定した。



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― 新着の感想 ―
[一言] まあ攻撃力高めなのは当然だろうな、暴走したら被害エグいだろうし、 機動力低いのも納得、暴走してもおそらく自滅するだけだろうし
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