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音使いは死と踊る  作者: 弁当箱
六章
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円形の闇

 案内された部屋で俺達は"協会"の会員証を作ってもらった。登録名はAnonymousのコードネームと同じだと色々問題があるため、それぞれ真ん中を抜き取ったシンとヨミで登録した。

 今回は棺屋の紹介ということだったので、特別に手続きやらなんやらを端折(はしょ)ってくれるらしい。なので、俺と宵闇さんは非常にスムーズに会員登録を済ませることができた。


 話によると、棺屋は"協会"の創設者の一人だそうだ。創設者なのにフリーで活動している棺屋になにかと疑問はあるが、こうしてスムーズに入会することができたことには納得がいく。


 さて、俺と宵闇さんは受付嬢に"協会"のシステムについての説明を受けた後、また別の応接室に案内された。

 案内した部屋に入ると、役目を終えたらしい受付嬢は一礼して部屋を出ていった。その後、部屋の入り口とは反対側の扉から一人の男が部屋に新しく入ってくる。


 入ってきた男は鷹のような見た目をしていた。

 男はテーブルを囲むソファの一角にどっしりと腰を下ろした。


 鷹のような、と表現したのはオールバックに整えられた茶髪と、でっぱった眉骨が印象的だったからだ。ガタイも良い。彼は黒いジャケットの襟を立てて、下はぴっちりとした茶色のジーンズを履いている。

 年齢は40すぎくらいだろうか。宵闇さんよりかは若く見える。


 男は射抜くような鋭い瞳で俺と宵闇さんを交互に見渡した後、言った。


「まあ座れ」


 彼はソファに深くもたれかかりながら、木製のテーブルを挟んで向かいのソファを片手で示す。


「知り合いですか?」


 俺は宵闇さんにだけ聞こえるように声を発する。マフラーで口元を隠しているため、俺が話したことは悟られない。

 宵闇さんは俺の言葉には答えず、ソファに座った。それを見て俺も隣に座る。

 すると、向かいに豪快に座る男は話し出した。


「俺はここの会長を務めてる逆瀬川(さかせがわ)だ」


 会長か。何か用があるのだろうか。

 棺屋の紹介だから少し話しとこうってところか?

 逆瀬川は続ける。


「会長ということで、俺はメンバーのことをある程度把握してないといけない。いくら棺屋の紹介と言っても、全く素性が知れない奴らを出入りさせるわけにはいかないからな」


 この様子だと棺屋からは何も聞かされていないな。

 そしてどうやら、宵闇さんが宵闇さんであることはバレていないようだ。

 裏の世界で長いこと生きてきた人なら、かつて裏の世界で悪名を轟かせた宵闇さんの顔は、普通知っているはず。

 だから逆瀬川もおそらく宵闇さんのことを知っているのだろうけど、目の前にいる男がその宵闇さんだと気づけないのは、宵闇さんが急に老けて容姿がかなり変わってしまった所為だろう。


 棺屋もです子さんも宵闇さんに向かって老けたと言っていた。俺も、前見た時より更に老けていたから驚いたのだ。

 顔のシワはそこまで多くない。だけど肌質や、目の下のくま。常に半分隠れている黒目。白髪が多く混ざる黒髪は艶をすっかり失っていて、こう言っちゃ悪いがあまり生気を感じられない見た目だ。やつれ切っていると言うのだろうか。

 ただ、元々整った顔立ちなのかそれはそれである層には受けそうな感じでもある。


「棺屋からは聞いてないのか」


 宵闇さんは変わらないトーンで言った。


「聞いているが、俺はこの目でお前らがどんな奴なのか確かめたい。まずそこのお前は顔を見せろ」


 逆瀬川は俺を指差して言った。

 まずいな。顔バレはなるべく避けたいんだけど、どうするか。

 考えていると、宵闇さんは言った。


「すまんが、こいつの方は許してやってくれ」


「……あ? てめぇになんの権利があってそんな」


「俺の名前は宵闇だ」


 逆瀬川の言葉を遮って宵闇さんが言うと、彼は口を閉ざして宵闇さんの顔をマジマジと見た。

 宵闇さん、俺の顔バレを防ぐためにわざわざ名乗ってくれたのだろうか。名を振りかざすのは嫌みたいなこと言ってたのに。

 俺は視線を宵闇さんに移したが、彼の方は真っ直ぐ逆瀬川を見据えたままだ。


 逆瀬川はしばらくしてから口を開いた。


「お前、業界では騙っちゃいけない名前があるのを知らねぇのか?」


 殺気混じりの言葉に警戒する。殺気からしてかなりの手練のようだ。


「隠居した宵闇の名前を騙って何人消されたか知らないとは言わせねぇぞ」


 そんなの、当人である宵闇さんからしたら知ったこっちゃないだろう。

 逆瀬川の言葉は続く。


「昔何度か奴を見たことがあるが、あいつは殺人マシーンのような男だった。街中(まちなか)堂々と殺気を振りまいて歩くんだぜ?」


「……」


「変装の腕は認めてやるが、宵闇はてめぇみたいなやつれたおっさんじゃ……ねぇってことだよ!」


 逆瀬川は唐突に、テーブルの上に置かれていた宵闇の手にナイフを突き立てた。

 ナイフが宵闇さんの手を貫通し、木製のテーブルに突き刺さる。


 それを見て思わず立ち上がり、懐のナイフを取り出そうとした俺だったが、宵闇さんの視線によってまたも制止された。

 見れば、ナイフを刺されたというのに宵闇さんは微動だにしていない。眉一つ動かさない。

 宵闇さんの血がテーブルの上に広がっていった。

 痛くないのかあれ……。


 ナイフのグリップを握ったまま、逆瀬川は宵闇さんを凝視している。

 ざわりと、周囲の"黒"が蠢いた気がした。


「雑な歓迎だな」


 そう言って宵闇さんは俺から逆瀬川に視線を戻す。逆瀬川がゆっくりとナイフを引き抜くと、宵闇さんの傷口に"黒"が集まって、流れ出る血を止めた。

 逆瀬川は少し目を見開き、言う。


「……失礼した」


「シン、フードとマフラーを取れ」


 シン、今の俺の名前だ。

 言われた俺は素直にフードとマフラーをとった。

 顔バレは避けたかったが、宵闇さんの指示に従う。


「これで目を瞑ってくれるか? 色々と事情があってな」


「あ、ああ……」


 逆瀬川が頷いたので、俺はマフラーを巻いてフードをかぶりなおす。


「他に何かあるか?」


 宵闇さんは立ち上がり言う。逆瀬川は座ったまま宵闇さんの手を指差した。


「傷の手当てをさせて欲しい」


「いや、やめてくれ。足りないかもしれないが、これを信用の証ということにしようじゃないか」


 半ば脅しのような言葉に、逆瀬川は大きく頷いた。

 それを見ると、宵闇さんはきびすを返して出口に向かう。俺はその後を追った。




 部屋を出て、前を歩く宵闇さんの後を俺は追っていた。

 先程使ったエレベーターとはまた別に、上の階にある集会所へ向かうためのエレベーターがこのフロアにはあって、そこへ向かっている。

 先程使ったエレベーターで上の階に行っても、集会所に入れないのだ。


「これなら棺屋の紹介なしでも入れたんじゃないですか?」


 宵闇さんの早足についていきながら俺は言った。

 結局宵闇という名前を使ってしまったので、棺屋の手を借りなくとも"協会"に入会できた気がするのだ。


「……俺だけならな。お前の方を誤魔化すにはやはり棺屋の紹介で、最初からある程度の信用が必要だ。実力の証明もいるしな」


「なるほど。でも顔見られましたよ」


「写真を撮られたわけじゃない。顔だけで済んだんだ。……それに、あいつ一人に顔を知られた程度、なんら問題ない」


「まあそうですけど……、その傷大丈夫なんですか?」


「ああ」


 話しながらエレベーターに乗り込んで、一つ上の階のボタンを俺が押す。

 エレベーターは動き出し、すぐに止まった。

 そして扉が開くと、少しお洒落な風景が視界に飛び込んできた。

 

 明るかった下の階とは一変して、薄暗いラウンジチックな空間。窓は黒いカーテンで閉ざされていて、部屋を照らすのは頭上の照明数個のみ。BGMにはピアノジャズが流れていた。


 カウンターで酒を飲む者、バーテーブルを囲んで馬鹿騒ぎする者、ポーカーで盛り上がる者、それぞれの意識が一瞬だけ開いたエレベーターに集中した。


 構わずエレベーターから踏み出して堂々と進んでいく宵闇さん。俺はその後を追いながら、視線だけで周りを見渡した。


 色んな人がいる。

 スーツを着た真面目そうなサラリーマン、小学生くらいの子ども、腹の出た中年、浮浪者のような格好をした老人、頭を金に染めた学生服の不良少年。

 ここにいるみんなが殺し屋なのかと思うとちょっと面白い。


 殺し屋達は俺と宵闇さんが新顔なのは見たら分かるらしくて、こそこそと話をしているのが聞こえた。

 色んな人の声が混ざるこんな空間でも正確に聞き分けのできるこの能力はやはりすごいと思う。


 宵闇さんが向かうのは、依頼のリストが表示されてある大型ディスプレイだ。

 受付嬢に説明された通り、エレベーターを出て右手にそのディスプレイは見えた。


 リストには、ターゲットの氏名、難易度、報酬金が簡潔に表示されており、それがディスプレイにズラリと並ぶ。

 殺し屋達は、この依頼をこなすことで金を稼いでいるのだ。難易度の設定は大体Anonymousと同じ感じだった。


 依頼の詳細は、ディスプレイの両サイドに並ぶパソコンから確認できる。そのパソコンはメンバーズカードでIC認証させないとログインできない。

 それで受けたい依頼を選んだら、「受注します」のボタンをクリックする。これだけで依頼を受けることができるのだ。


 報酬はほとんど前金だが、依頼内容を達成できなかった場合は返金しなければならない。そして当然だが金だけ貰ってすっぽかしたりしたら……言うまでもないか。


 依頼が重複したりすることもあるが、"協会"ではその場合、報酬は均等に配分するか、標的を殺った方が報酬を総取りするか、事前に話し合うということになっている。仲間なら別だが、個人でそれをすることにあまりメリットはないし、後から重複させるのは一応マナー違反だそうだ。

 

 まあそんな細かいことはどうでもいいか。


 宵闇さんがじっとディスプレイを凝視しているのを後ろで俺は見ていた。

 そうしていると、後ろから近づいてきた何者かが俺の肩を掴んだ。

 振り返ると、そこには太った30すぎくらいの男がいた。


「新人かな? 僕ズングリって言うんだけど」


「触るな」


 ズングリと名乗った男の手を払って俺は宵闇さんの方に向き直る。

 俺がなぜこんな態度をとったかというと、理由がある。

 周りの奴らの会話を聞いていて分かったことだが、どうやら新人が入ってくると恒例行事というか、新人いびりみたいな流れがあるらしいのだ。それでこの太った男がやってきたのだろう。


 だけど、あいにくそんなのに付き合ってる暇はなかった。


「キミ態度悪いなぁ。というかいきなり依頼受けようとしてるけど、ここに来たらまず後藤さんに挨拶しないといけないんだよ?」


 殺し屋も集まればこんなチンピラ集団になるのか。

 そんなことを考えながら一度周囲を見渡してみる。全く興味なさそうな奴もそれなりにはいるな。

 こういう小物は一部だけだと願いたい。


「後藤さんに挨拶しなよ」


 ズングリは今度は宵闇さんの前に回り込んで言った。


「分かった。そいつはどこにいる?」


 宵闇さんはズングリに聞く。

 無視すればいいのにと思ったが、宵闇さんにも考えがあるのだろう。


「あそこだよ」


 そう言ってズングリが指差した先にはバーカウンター。そのカウンターを背もたれにして、一人の男がこちらを見ている。

 そいつは頭の禿げたガタイの良いおっさんだった。


「あれが後藤か?」


「そう」


「つまり、ここではあいつが一番強くて権力を持っているということだな?」


「それは……」


 口ごもるズングリ。

 それを見て宵闇さんはすぐに言った。


「違うのか。なら俺がそいつに挨拶をする必要はない」


 一番強い奴だったら挨拶をするつもりだったのだろうか。

 そんな疑問を感じながらも、俺は言い返せなくなったズングリを見て口角を釣り上げていた。


 しかしその光景を見てか、痺れを切らした後藤が立ち上がってこちらへ向かってきている。

 後藤はこちらまで来ると、ズングリを蹴飛ばして宵闇さんを睨んだ。


「生意気な新人だな」


「……こういうことはやめておいた方がいい。程度の低い組織だと思われる」


 俺は実際そう思った。設備もシステムも良いのに、メンバーが悪ければ仕方ない。


「俺はぬるい新人が入って来ないか見張ってるんだよ。それこそ"協会"の質を落とさないためにな」


 新人をからかって遊んでるだけだろと思ったが、口には出さない。


「お前らはそれなりにやれそうだから見逃してやる。下手な仕事したら許さねぇけどな」


「そうか」


 宵闇さんは目を瞑り、後藤を避けてパソコンの所へ歩いていく。

 俺は後藤の顔を一瞥してから宵闇さんの後を歩いた。






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