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音使いは死と踊る  作者: 弁当箱
六章
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冷たい闇

 学校は冬休みに入った。

 学内トーナメント延期の関係で、今年の冬休みはいくらか短い。

 とは言っても、ここの学校の冬休みは他校に比べると結構長い。

 一ヶ月弱あるのだ。学校が始まってまた2ヶ月ちょっと授業を受けるとすぐに春休みである。


「あー、またこの手の番組ね」


 ロールがそう言ってチャンネルを変えた。切り替わった画面にはバラエティ番組が映される。

 さっきのチャンネルは、御堂龍帥の死について考察する報道番組だった。

 Anonymousの目的、自衛軍のこれからの対応などを評論家や自衛軍のお偉いさんが語る市民を安心させるためだけの大嘘番組だ。


 あの後、弦気とは何の連絡もとってない。

 ただ、凛からは「弦気に会ってあげて」とメールが来ていた。

 このメールが来たのは今朝だ。返信はまだしていない。


 弦気に会ってやれとは言うが、俺が会ったところでなんなんだろう。

 俺はどんな顔して弦気に会えばいいんだ?

 いったいなんて言えば良いんだ?

 殺したのは俺と言っても過言ではないんだ。


「死音、結局どうすんのよ」


 ロールに言われて俺は唸る。

 なんとなく磨いていたナイフを傾けて、部屋の電気に当ててみた。


「どうするかなー」

 

 そもそも、弦気は敵だ。今まではボスも放置していたけど、あそこまで打倒Anonymousを宣言されたらもう放っておけないだろう。

 そんな敵と勝手に会ったりしていいんだろうか。


 そんなことを考えていると、俺の携帯が振動した。プライベートの方だ。

 弦気からの着信だった。


 俺はロールと一度目を合わせてからその電話をとった。


「もしもし」


「もしもし、風人?」


「うん、どうした?」


「今から飯行かね?」



ーーー



 弦気と二人でご飯を食べに行くことになった。

 時刻は午後1時。正直もう昼食は済ませていたが、やっぱり弦気と話をしてみようということで、俺はその誘いを受けた。


 待ち合わせ場所は俺の家から徒歩で10分くらいのところだ。

 俺はその場所へ自転車で向かっている。


 待ち合わせのカフェに着くと、弦気はすでに席についていた。

 弦気は店に入ってきた俺を見ると、手を振って自分の場所を知らせてきた。


「久しぶり」


「そうだな」


 そう言って俺は弦気の向かい側に座った。


「とりあえずなんか頼もうぜ」


 弦気がそう言ったので、俺達はそれぞれいつものメニューを店員に頼んだ。

 それから、頼んだドリンクがテーブルに運ばれてくるまで俺達は無言だった。



「この前はごめんな。風人の気持ちも考えずに無理に能力開発の話なんかして」


 グラスに口をつけ、一息ついてから弦気は言った。


「ああ、いいよ。……それより大丈夫か?」


 俺は恐る恐る聞く。俺が聞いていいことじゃない。

 でも、会話を繋ぐため、神谷風人を演出するため、俺は聞いた。


「ああ、なんてことないよ。悲しいけど、戦死なんて自衛軍じゃ茶飯事だ。それが今回父さんだっただけ」


「……そうか」


 弦気はいつもと変わらない様子だ。

 だが、俺はあの日の弦気を見ている。憎しみに心を燃やし、ただ感情のままに殺意を振りまいていた弦気を。

 だから、俺は弦気の本心を察していた。

 なんてことないわけがない。今も憎しみに心を病んでいる。

 そしてそれを俺は仕方ないと思っている。


「でさ、伝えておきたいことがあるんだけど」


 弦気は言った。


「何?」


「俺、学校辞めるわ」


「え?」


「俺、父さんが死んで本格的に自衛軍で働こうと思ったんだ。

 父さんの遺志を継ぎたい。自衛軍として、多くの人の役に立ちたい」


 復讐か。

 確かに、弦気が学校に行く意味はあまりないのかもしれない。

 すでに自衛軍中将という立場があるわけだし。


「風人には悪いけど、冬休み中には手続きすませて辞めるよ」


「凛と大橋は?」


「あの二人にはまだ話してない。一緒に辞めるとか言いそうだけど、学校には行ってもらうよ」


「そっか」


「ごめんな」


「まあ、俺が止めるわけにはいかないし、弦気が決めたなら」


「ああ。でもお別れって訳じゃないぞ。あんまり遊んだりは出来なくなるけど」


「それくらい分かってるよ」


 俺が笑ってそう言うと、そこで会話は止まった。


 しばらくして、頼んでいたメニューがテーブルに並べられる。

 腹は減ってないが、弦気ががっつり食べるみたいなので、俺もそれなりの量を頼んでしまった。


「食おうぜ」


 俺がそう言うと、弦気は何故か俯いた。

 怪訝に思って顔を覗きこもうとすると、弦気は机の上に手を置いて言った。


「嘘だ」


「え? 何が?」


「嘘なんだ……」


 ポトリと弦気の頬から何かが落ちた。それは涙だった。


「……」


「人の役に立ちたいなんて言った、それは嘘だ。本当は」


「うん」


「俺は復讐がしたい。許せないんだ。父さんを殺したAnonymousが、悪が……!」


「……」


「人の役に立ちたい。確かにその気持ちはある。それは嘘じゃない、でも、俺はそれ以上に復讐がしたい。学校を辞めるのも、復讐がしたいからだ。

 親を殺されただけでこんな気持ちになるとは思わなかった。俺は父さんを殺した奴らが、どうしようもないくらい憎い。

 殺すくらいじゃ飽き足らないくらいに……!」


「弦気……」


「……ごめん、風人」


「ああ」


 その時俺はなぜか確信していた。

 俺と弦気はいつか必ずぶつかり合うことになるだろう、と。


 悪として、正義として。



ーーー



 冬休みをどう過ごすか考えると、自ずと答えは出た。

 修行だ。約一ヶ月、地獄のような修行でもいい。とにかく強くなりたかった。


「また修行をつけてほしい?」


「はい」


 俺は溜息さんの前に立っていた。

 ここは食堂。実質、俺と溜息さんが出会った場所だ。


「ロールはどうする」


「話はつけました」


 強くなりたいと話した。ロールと修行するのも良かったが、俺はやっぱり強い人に見てもらいたかった。

 ロールが弱いということではない。ロールより、溜息さんの方が強いということだ。


 ロールは勘違いをしてくれたようだ。

 黒犬さんと白熱さんが死んだことによって、俺が気に病んでいるのだと。


 違う。

 ただ俺は、先の戦いを見てこのままじゃ生き残れないと思ったのだ。

 白熱さんや黒犬さんのように、死にたくない。


 自分でも最低だと思う。

 でも、俺は生き残るためだけに強くなりたいと思った。


 だから俺はまた溜息さんを頼ろうとしている。

 今度は能動的に。


「見てやりたいが、無理だ」


「え?」


「状況が変わった。これから私は忙しくなる。

 前にも言ったがお前は焦りすぎだ」


「……」


 俯く。焦りすぎなのだろうか。

 この世界では、早く強くならないと死んでしまう。

 誰かが絶対に守ってくれるという訳でもないのだ。


「……いや、いいことを思いついたぞ」


「……?」


 顔を上げると、いきなり溜息さんの拳が迫ってきた。

 俺は反射的にそれを躱す。しかしその回避先を読んでいたのか、溜息さんの横蹴りが俺の脇腹にヒットした。


「ぐふっ……!」


 連撃、今度は鳩尾に拳を叩き込まれる。

 俺の視界は揺らぐ。


 そして激しい苦痛。

 内臓が圧迫される感覚。


 俺がその場にうずくまる前に、溜息さんは俺の腹部にもう一発いれた。


「宵闇に見てもらえ。私の師匠だ」


 最後にそんな溜息さんの声を聞いて、俺の意識は途切れる。


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― 新着の感想 ―
[一言] 溜め息さん…修行の前に気絶させるのって確定なんですね…
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