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音使いは死と踊る  作者: 弁当箱
五章
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零の判決

 ボス達が動くのは早い。作戦は次の日の夕方に決行された。


 段取りをおさらいしよう。

 まず百零さんが、特定の場所にいる民間人 (俺を含む)を人質にとる。

 会話のやり取りは全て俺の能力で行うので、俺は現場にいなくてはならない。


 俺は、人質を装って弦気に助けを求める。

 その時に、敵の数、人質の数、状況、などの情報を弦気に流し、御堂龍帥を動かす。

 ないと思われるが、ここで御堂龍帥が動かなかった場合は敵を殲滅して後日に仕切り直しだ。

 当然、作戦も変更することになる。


 だが、御堂龍帥はおそらくテレポーテーションでの移動をしてくる。

 百零さんは、御堂龍帥が駆けつけて来ると、決められたルートで逃走を開始する。


 百零さんが全力で逃げれば、御堂龍帥は追ってくるはずだ。

 ここで逃げられそうになかった場合は詩道さんが掩護に入る。


 その隙に煙さんとです子さんが、転移能力者達を殺り、御堂龍帥の逃走ルートを消す。


 この時点で、俺の役目は終わりなので、後は戦闘に巻き込まれないように避難する。百零さんが逃げた時点で人質も解放されるのだ。



 百零さんはボス達が待機する場所付近まで御堂龍帥を引いて逃げる。


 ここまで来れば、詩道さんの"無限回廊"が発動し、御堂龍帥の確殺コンボが成立するわけだ。


 しかし、不確定要素が三つある。


 一つは、能力が効かない御堂弦気というイレギュラー。

 弦気が介入してくるか否かで、展開が変わる可能性がある。


 俺は、弦気が駆けつけてくることを確信している。

 下手をすると、御堂龍帥より先に弦気が来る可能性もあるくらいだ。

 流石に単騎で突っ込んでくるようなバカではないが。


 正直、あいつを騙すとなると心が痛む。しかし躊躇ってはならない。

 Anonymousで生きている以上、やるところはしっかりやるのが道理だ。

 その結果、弦気が死ぬようなことになっても、俺は心を殺し切る。


 弦気の対策としては、煙さんだ。

 弦気は不可解な能力を持つが、高火力を引き出せる能力ではないとボスは踏んでいる。

 だから、弦気が現れた時の対処役は煙さんが受け持つ。



 二つ目の不確定要素は、御堂龍帥がノータイムで民間人ごと殺すという可能性だ。

 この点に関しては、俺が否定した。


 なぜ否定できるかと言うと、俺は御堂龍帥と面識があって、そんなことをする人ではないと知っているからだ。

 小さい頃から弦気とよく遊んでいたから、御堂一家とは家族ぐるみの付き合いがあった。

 みんなの認識は違っているみたいだが、御堂龍帥は優しい男だ。そんな非情ではない。

 そもそも民間人ごと殺したなんてなったらクビじゃすまないぞ。


 しかしボスは一応不確定要素として捉えているみたいだ。

 これの対策は、百零さんに任せるらしい。


 最後の不確定要素は、百零さんが逃走した時点で、御堂龍帥が罠だと気づくパターンだ。

 これは百零さんの力量にかかっているが、もし悟られた場合は、その時点で詩道さんが"無限回廊"を使う。

 そしてそれと同時にです子さんと煙さんが取り巻きの転移能力者を殺る。


 こうなった場合は、俺を含む民間人の、人質としての機能は復活して、少なからず民間人の犠牲を出すことになってしまう。

 転移能力者を全員殺れなかったとしても、こうすれば奴の退路は防げるからだ。

 多少の粗が目立つ作戦だが、その辺は臨機応変にカバーしていくらしい。

 まあ俺以外ベテランだし、よっぽどのことがない限り失敗はしないはずだ。



「定位置つきました」


 俺はすでに準備が完了しているボス達に合図を送った。


 ここは市民会館ホールの劇場内。

 この劇場では、これからFJグループという劇団の芝居が始まる予定だ。

 客は情報通り少ない。これは100人もいないな。


「客の数は100人弱。大体前の方の席に固まっていますが、俺を含めた三人が真ん中から後ろにいます。

 そうですね……、2番の扉からの侵入が良いかと」


「はいよ」


 状況を報告すると、百零さんから返事が聞こえてきた。

 緊張する。おそらく、もうこの後何十分か後かには御堂龍帥がかけつけてくるのだ。


 市民会館ホールは中心街から少し離れた空の広いところにある。街の中ではあまり栄えてない場所だ。

 ここから少し行くと工場街があって、作戦ではそこの倉庫へと御堂龍帥を誘う予定だ。



 ブーという開演ブザーの音と共に、舞台幕が上がってゆく。

 薄く照らされた舞台の上には、これから芝居を始める予定なのであろう男女が下を向いて佇んでいる。



「じゃあ、行くぞ」


 百零さんの声。ゴクリとつばを飲む。


 それぞれの返事が、それぞれの定位置から聞こえてきた。

 幕が完全に上がり切る。


 そこで俺が合図を出すと、正面右手の2番扉がガコンと大きく開かれた。


 グレーのスーツと、もはや見慣れてしまった悪趣味な仮面。

 そしてその背中には、大きな太刀を背負っている。


 百零さんだ。


 扉が開く音を俺が能力で大きくしたので、劇場内の人々の視線は当然そちらに向いた。

 辺りがざわつく。


「全員動くな。動けば殺す。この市民会館ホールはAnonymousが占拠した」


 百零さんの声が恐ろしく響いたのは、俺の能力のせいだ。


 最前列の女性客が叫び声を上げて真っ先に真逆の扉に飛びついた。

 が、扉は開かない。ビクともしない。

 ただの1mmも動かない。


 百零さんの能力である。

 初めてみるが、作戦の時点で聞かされていた。


 空間固定(ルウム・インペイル)


 その名の通り、一時的に定めた空間を固定することのできる能力。

 百零さんはこの能力を持つゆえに、たった一人での占拠を任されている。


「……おいおい、動いたら殺すって言っただろ?」


 百零さんの声が俺の拡声によって響く。

 そして彼は扉にしがみつく女性の元へ進んでいった。

 誰も動けずにいる。

 それもそうだ。このレベルの殺気に当てられたら俺も動きたくなくなる。


「ひっ……!」


 女性は逃げるしかなかった。

 だが、その動きは唐突にピタリと止まった。いや、止められた。


 空間固定だ。


「あ……、あ……! 誰かッ! 誰か助けて!!」


 泣き叫ぶ女性。

 その時、勇気ある一人の男性が百零さんの元へ、雄叫びを上げながら突っ込んでいった。


「うおおおおお!!」


 が、その動きも、百零さんの眼前でピタリと止まる。


「この能力、すごいだろ? 実はこれ、定規にもなってな……」


 百零さんは背中の太刀を抜き放ち、その男を肩から斜めに両断した。

 返り血が百零さんにピシャリと付着する。

 思わず俺は目を瞑った。


「こんな風に、すげー綺麗に斬れるんだよ」 


 目を瞑っていても、拡声の役はしっかりとこなす。


「キャァァァァァ!!」


 悲鳴が上がった。俺は目を開ける。

 すると、百零さんは今度こそ動けずにいる女性の元へ進んでいき、その女性も同じように真っ二つにした。


 殺す必要はない……。ないのだが、ここにいる客に暴れられては困る。

 だから大人しくさせるために、見せしめとして一人や二人くらいは殺すのが効果的なのだ。


 御堂龍帥に罠だと悟られないためにも。


「……」


 ここで俺は、予め用意しておいたメールに写真を添付して弦気に送る。

 写真は今撮ったものだ。手前の椅子の影からとっているので、半分見切れて、映っている情報はそこまで多くない。

 二人の死体と、百零さん。

 あと人質の数くらいだ。


『市民会館ホールの劇場がAnonymousに占拠された助けてくれ』


 内容はこんな感じだ。この情報を御堂龍帥に伝えてくれればいい。


 百零さんは太刀を担ぎ、足音を鳴らしながら舞台の上にゆっくりと上がっていった。


「今からお前らは人質だ。大人しくしとけば死ぬことはない」


 この後百零さんは舞台上に人質を集める。

 弦気の返信が来てももう返すことはない。

 十分な情報は伝えた。後はどう展開してくるかだ。


「じゃあ、全員舞台の上まで来てもらおうか。一番前の右から順に上がれ」


 百零さんの指示を受けて、人質は席から舞台の上へと一人ずつ移動する。

 百零さんは舞台から下りてその様子を慎重に見守っていた。


 やがて俺の順番が来た。

 俺も他の人質と同じように、舞台へと進んでいく。

 弦気はメールを見ただろうか。

 あっちの動きがなければ、百零さんから自衛軍にコンタクトを取らなければならない。

 この場合、自衛軍の先手という形ではなくなるので、俺の意味がなくなる。こちらが後手で動かなければ、作戦通りにはならないのだ。

 しかしそうなるまでの猶予はまだある。焦る必要はない。


 俺がしばらく歩いたところで、俺より後ろに座っていた二人組が同時に動き出した。

 なんだこいつら……。

 怪訝に思ったが、俺はそれに反応せずに歩き続ける。

 

「……おい、何勝手に動いてる」


 言いながら、百零さんは歩いてきた。

 すると、後ろの二人が声を上げた。



「まさか本当に現れるとはな! リーダーの言った通りだ!」


「ハルの仇を討たせてもらうぜ、Anonymous!」



 思わず振り向いた。

 そこにいたのは、赤いワンピースを着た真っ赤な髪の女と、白いコートに金髪逆毛の男。

 先ほどまではあんな目立つ格好じゃなかった。


 そして彼らはどこからか取り出したベネチアンマスクをおもむろに装着する。


「……なぜNurseryRhymeがここにいる」


 溜息さんの声が聞こえた。


 この状況はまずい。

 こいつら、ここに俺達が現れることが分かっていたのか……?


「始末しろ。百零」


 ボスの冷静な声が聞こえた。

 音の中継は相変わらず続けているので、状況はみんなにちゃんと伝わっている。


 赤髪の女は口角を吊り上げながら座席の横に出る。

 しかし、そこで動きを止めた。


「む、その能力セコくね?」


 百零さんの空間固定だ。


「人質はあんまり減らしたくなかったんだけどなぁ」


 百零さんは言って、変わらず歩を進めてきた。


 俺は進んでくる百零さんを避け、壁に背中を張り付けた。

 どう動けば良いか分からない。

 舞台上まで進むか?

 それとも無駄に動かないべきか。


 チラリと視線を男に向ける。

 あっちが動く様子はない。ただ、ニヤニヤと百零さんを見ている。


 赤髪の女は、近づいてくる百零さんに言った。


「私の名前はセンだ。楽しい殺し合いをしような、Anonymous」


「残念、お別れだ」


 百零さんが背中の太刀を抜刀する。

 血しぶきが上がる。センと名乗った女は、何の抵抗をするわけでもなく、真っ二つになった。


「……」


 心臓の動きは止まっている。死んだ。


 ……何だったんだこいつ。


 百零さんは次に男の方に視線を移す。

 男は仲間が死んだというのに未だにニヤついていた。


 そこで俺は異変に気付いた。

 真っ二つになったセンからだ。


 センの死体が発火したのだ。


「チッ、なんだ」


 百零さんはそこからワンステップ距離を取る。

 俺も壁を伝いながら三人から少しずつ離れていった。


 発火した死体は勢い良く燃えていき、眩い光を放つ。

 そして舞い上がった灰の中から、裸のセンが現れた。


「……!」


「……なに!?」


「すげーだろ? 私の能力は強化型 不死鳥(フェニックス)

 数少ない神話級(アミュートス)の力を宿す能力者だ」


 神話級の能力者だと……!?

 そんなのが存在するのか……!


 しかも、不死鳥ってことは不死身なのかよ……!

 クソ、どうする。


「とりあえず人質皆殺しにしとくかー」


 そう言って動き出したのは金髪の男だった。

 それに合わせて百零さんも動く。

 しかし、そんな百零さんにセンがまとわりついた。


「私と遊ぼーぜ、色男」


 俺が動くしかない……!


「動くな死音。人質の中には煙の分身が保険として二人いる。大丈夫だ」


 ボスの声が聞こえて踏みとどまる。

 それは聞かされてなかった。


 百零さんはセンを固定し、座席を蹴って移動する金髪を追った。


 が、その時、合計4つのポイントに音が発生した。

 即座に視線を移す。

 映ったのは、白い制服。


 自衛軍だ。全員扉の前にバラけて転移してきている。


 俺は御堂龍帥を探す。


 奴は、2番扉の前からこの状況を見渡していた。

 最悪のタイミングだ。




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