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音使いは死と踊る  作者: 弁当箱
四章
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命じられた邪悪

 翌日。学校が終わると俺はいつも通りロールの部屋に集合していた。

 放課後は弦気達と遊ぶこともあるが、基本的にはロールの部屋一直線だ。


 クーラーのきいた部屋で俺は足を組んで椅子に座っている。

 ロールは昨日書いた「できること一覧」の紙を見て唸っていた。


「うーん、そうね……」


 俺は唸るロールの横顔を、テーブルに肘をついて眺めていた。

 初めて会った時より髪の毛がずいぶんと伸びた気がする。

 ロールは任務に行く時以外は基本的に髪を結わない。だから今もストレートだ。

 まあそっちの方が俺の好みなんだけどな。


 そういえば溜息さんも任務では結んでいることが多い。

 溜息さんの髪型は、です子さんいわく気分で変わるらしいけど、俺は今の所ポニーテールかストレートかしか見たことがない。

 別の髪型も見てみたいな。頼めば見せてくれるだろうか。


 そんなことを考えていると、ロールは俺を半眼で睨んで言った。


「とりあえずロールを嫌がらせるってのはどうなのよ」


「ああ、それは遊び心だけど」


「いらないわそんな遊び心。あれすごい気分悪くなるんだから」


「わざとやったわけじゃないって。

 でも猫よけには使えるよこの能力」


 俺がそう言うと、ロールは嫌そうな顔をしてからまた紙に視線を戻した。



「で、"音撃"の音って消せないの?」


「やろうと思えばできると思うけど……。衝撃波だけを発生させるってことだろ?」


 厳密には消すというより周囲に聞こえなくする、と言った方が正しいな。

 それならできる。多少面倒ではあるが。


「うん。"衝撃波を発生させる能力"なら問題はなさそう。高い威力を証明できれば学内トーナメントもスキップできるしね」


 学内トーナメントスキップはすごく魅力的だな。あんまり戦いたくないのもそうだし、わざわざ目立つ必要はぶっちゃけない。

 むしろ目立たない方がいい。

 でも……


「問題はないということはないだろ。音撃は弦気に二回も使ってるから、いくら音を消してると言ってもバレる可能性はあるぞ」


 俺が言うと、ロールは「それはないわ」と言って続けた。


「アンタもまさか弦気が自衛軍とは思わなかったでしょ?

 それと同じで、ちょっと似たような技を使ったからって弦気も親友を疑うことはないはずよ。彼の性格から考えてもね」


「……まあ、そうだな」


 ちょっと怪しいくらいであいつが俺をAnonymousと疑うとは思えない。

 いや、言い切れるか?


 "自衛軍の弦気"だと、微妙だな……。


「心配なら別のでもいいけどね」


 一応他の候補も上げてみるべきだ。

 めちゃくちゃ心配って訳じゃないけど、やはり数ある候補の中から最善を選びたい。


 俺がそれを伝えようとすると、ロールが思い出したかのように話し出した。


「そういえば調べてみたんだけど、私達の通う学校には、自衛軍入隊を目指す生徒を応援する制度として、"能力非公開制度"というものがあるらしいわ。

 この制度を受けている人は、学校側から色々配慮してもらえるみたいね」


「え? 聞いたことないけどそんなの」


「そりゃあ、公になってたら意味ない制度だし」


 ロールの言葉で俺はその制度の真意を理解した。

 能力を知られるということは対策を立てられるということだ。

 能力を周りに知られていなかったら色々便利だし動きやすい。

 これから役に立ちそうな奴は、今から能力を隠しておく必要があるのか。


「執行に調べさせてみたところ、弦気もこの制度を受けている。

 これを利用すれば下手な演技はしなくてもいいかもしれない」


「ふーん」


 この制度を受けられれば無能力を押し通せるのか。

 つーか受けてる奴は弦気一人じゃないだろうし、生徒に擬態してる自衛軍は少なからず存在しているんだな。

 恐ろしい。


「で、今話した内容とはちょっと筋がズレた話をするんだけど……」


 ロールの声色が変わったので、俺は組んでいた足を解いた。


「うん」


「この長期任務、色々面倒じゃない?」


 ロールがそんなことを言ったので、俺は一瞬混乱する。

 面倒かどうかを聞かれれば、もちろん面倒だ。

 だけど、ロールがこんなことを言うだろうか?

 どちらかというと面倒なことが好きなロールだ。

 現にどうやって演技をするかの話をしてたのに、その根本を否定する言葉。


 ……ロールの本心の気がしないな。


「つまり?」


 なんとなく何を言われるか若干予想はついているが、確認のために聞き返す。


「自衛軍は常に腕のいい能力者を募集してる。二ヶ月に一回ある試験を受けて、それに合格すれば入隊は可能」


 やっぱり。


「それは知ってるけど……、俺にそれをさせるつもりか?

 というか、どうせボスの提案とかだろこれ」


 一年半での俺の成長を鑑みて、正面からの入隊は危険と判断されたはず。

 そしてこの試験で入隊した者は、当然下っ端からスタートで、拘束時間も長い。

 Anonymousでの活動も限られてくる。


 そもそもの問題は、この入隊方法によるスパイの侵入を防ぐために、かなりの個人情報を提出しないといけないのと、試験を受けてから入隊まで不定期に監視されるということ。

 噂によればこれで捕まった仲間が何人もいるとか。


 偽装は難しいだろう。

 ……いや、俺の場合は偽装が不必要なのか。

 能力だけ下位のものに変換して、しばらくの間Anonymousとの関わりを断つだけでいい。

 なるほど能力的にも適任だ。


「さすがに気づいてくれて嬉しいわ。

 ……私は正直、させたくない」


 そんなことだろうと思った。やっぱり無茶を要求する人じゃないか、あの人は。


「予定通りで行くのも冒険するのも死音次第。だが、お前の成長速度はかなりのものだ。能力を偽っても、自衛軍に入隊するだけの力は十分にある。……だって」


「ボスの言葉か」


「ええ。どうするの?」


 この話に関してはすぐに俺の中で結論が出た。

 楽さを考えるなら正面突破。高校で自衛軍の推薦枠を得るのよりは競争率は低い。

 それにチャンスも多い。受からなければ次がある。

 学校で演技をして周りを欺くやり方よりは割合もいい気がする。


 というか、ボス的にはそうして欲しいんだろうな。


「そういうことならボスの案で行こう」


 俺が言うと、ロールはバタリと机に伏した。


「えー」


 出た。ロールの「えー」

 俺の判断が間違ってなくてもロールが嫌な時に取る態度だ。

 端的に言うと、わがまま。


「この方法だと私入学した意味なくなるし、パートナーとしてのサポートも必要なくなるじゃない」


「こっちでもいけるってボスが判断したなら仕方ないだろ。

 それに意味ないってことはない。

 俺はロールが学校に来て楽しかったし、ロールのおかげでなんとかやってこれてるんだし」


 正直な話、この任務におけるロールのサポートは早々に打ち切っておきたい。

 そうすればロールに迷惑をかける心配もない。ロールが迷惑がってないのは分かってるけど、万が一ロールの足がついたら、困るのは俺だ。

 俺がそんな心配をするのも生意気な気がするけど。


 こんなことロールに言ったらビンタ確定だろう。


「……でも」


「まあすぐ試験を受けろってわけじゃなさそうだから、こうなると普通の高校生を謳歌させてもらうけどな。

 実質的に自衛軍で活動できるのは卒業後。入隊もそれまでにできればいいんだろ?」


「それはなるべく早くの方がいいと思うけどね……。弦気の存在と、私達の現状を見て出したおっさんの案なんだから」


「そうなのか」


「まあ分かったわ。それで行きましょう。はぁ……」


 ロールは椅子から立ち上がって、自分のベッドへと沈んだ。


 長期任務で五ヶ月前から力を入れていたとは言え、そんなにショックを受けることなんだろうか。

 大方パートナーとしての責務云々で気に病んでるんだろうけど、そんなにがっかりされると逆に責任を感じてしまう。


「今日はもう帰っていいわよ」


 ロールの元気のない声が部屋に響いた。


 なにか気の利いた言葉はないかと探したけど、今は逆効果な気がしたので俺は黙って部屋を出た。



ーーー



 あの後、訓練室でちょっとした実技戦をしていたらいつの間にか日付が変わっていた。

 今日の訓練は白熱さんと黒犬さんが交代で俺の相手をしてくれた。


 最近はこの二人が相手をしてくれることが多い。

 俺から頼んでいるからなんだけど。


 なぜロールや溜息さんに頼まないかというと、

 溜息さんはキツい上に軽く一日とか拘束されるし、ロールは手加減が下手くそ。

 なのでこの二人との実技戦は避けている。


 他に頼める人もそれなりにはいるのだが、頼みやすいと言ったらこの二人なのである。


 まあ頼むタイミングをちゃんと見極めないと、二人は任務をドタキャンしてまで付き合ってくるから一応問題点はあるのだが。


「アォ……! 今日は一段とヒートなプラクティスだった! よし風呂に行くぞ死音くん!」


 あ、もう一つの問題点といえばこれ。

 二人に風呂に誘われる。忘れていたが、これはかなり厄介だ。


「遠慮しておきます。家で入るので。

 今日も付き合ってくれてありがとうございました」


 俺はタオルで汗を拭きながら熱のこもった訓練室から出ようとする。

 しかしすぐさま黒犬さんに腕を掴まれる。


「……離してください。今日はそんな気分じゃないんです」


 俺は黒犬さんを睨んで言った。

 俺はこの人達と風呂はもう絶対に入らないって決めてるんだ。


「オイオイオイ! そりゃないだろう!? 訓練の後って言ったら風呂だろ!? これって当たり前だろォ!?」


「だってどうせまた気絶するまでサウナから出してくれないんでしょ! 忍耐力の訓練とか言って!」


「しない。今回は絶対にソンナコトシナイ」


「後半全然心がこもってねぇよクソ!」


 俺は黒犬さんの手を振り切ろうと暴れる。

 が、あっけなく黒犬に転ばされた俺は、マウントを取られてしまった。


「おい聞いたか!? こいつ今俺にタメ口ききやがったぜ白熱!!」


「聞いたッ!! これは許せないぞ! 許せるはずがない!

 よし、気絶させて風呂に連行だ!」


「ちょ……やめ……!」


「おう!」


 拳を振りかぶる黒犬さんを見て俺は叫んだ。

 こうなったら最終手段だ。


「溜息さん! 助けて溜息さん!」


 俺は師匠に助けを求めた。


「!? おいやめろ! 俺達は溜息とあんまり関わりないんだから気まずくなるだろ!」


「ただでさえ騒がしい僕らは嫌われているんだぞッ……!」


「じゃあ離してください! ほんと黒犬さん達と一緒に風呂は命に関わるんで!」


「黒犬! 問答無用だ! やってしまえ!」


 ガツンと。

 いくつかの星が舞って、俺の意識は途絶えた。




ーーー




「酷い目にあった……」


 結局定例の「全員気絶☆耐久サウナ」をやらされて、俺達は千薬さんのお世話になった。

 寝ていた千薬さんを起こすことになったので、全員手荒い治療を受けることになったのだが……。



 それはともかく気づけば時刻は午前2時半すぎ。

 さすがに帰らないとまずい時間なので、俺は帰路についていた。


 こんな時間に帰っても、親が何かを言ってくることはない。

 放任主義……、というのもあるが、最近は俺の成績もどんどんあがっているし、特に問題を起こしてる訳じゃないので、両親的にも文句がないのだ。

 

 昔は無能力者だから愛されてないんじゃないかとよく悩んでいたものだが、今は親の放任主義がありがたい。



 そんなことを考えながら徒歩で家に向かっていると、少し先の廃ビルから人の声が聞こえた。


 あんなところから声……? 聞き間違いだろうか?


 あそこは立ち入り禁止の廃ビルで、取り壊しが決まっているはずなのだが、いつまでも残っている。

 人通りもほとんどなくて、俺がアジトへ行くのによくこの道を使う。

 この辺りは雰囲気が不気味で怖いから、よく能力をonにして通ったりもするけど、あそこから声が聞こえるのは初めてだ。

 不良なんかがたむろする場所でもないのに。

 

 気になった俺は耳を澄ましてあそこの音を拾ってみた。


 すると、そこから聞こえた心音は3つ。屋上に三人だ。

 彼らは会話をしていた。


 ……ちょっと盗み聞きしてみるか。


 そう思った俺は三人の会話に耳を傾けてみた。


「どれくらい……集まった、の……?」

「俺の容量の1/3。100匹くらいか。まだ足りねーな。

 てかこいつら後3日水だけで持つと思う?」

「び、みょう。餌は……?」

「そんなに大量の餌なんて確保できねーよ」

「ここの人間……、食べさせれば……?」

「あのな。お前らリーダーの命令理解してるか?」

「してる……」

「アノニマスに、ちょっかい……かける」

「そうだ。今から目立つと計画が台無しだろ。ちゃんと考えろ? な?」



 これは……ボスに報告だな。

 奴らの会話を聞いてすぐにそう判断した俺は、組織端末を取り出してボスに電話をかけた。


「なんだ」


 ボスはすぐに電話に出る。俺は奴らの会話の内容を伝えた。

 が、ボスは「始末しておけ」の一言で電話を切ってしまった。


「……」


 マジか。




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― 新着の感想 ―
電話する時最小音量で聞けて便利そう
[一言] ふっつーに 始末してこい で終わらすの草
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