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音使いは死と踊る  作者: 弁当箱
四章
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動き出した邪悪

 とある廃ビルの屋上。

 風変わりな格好をした男女が身を寄せあって、死体の上に座っていた。

 その傍らには2つのベネチアンマスクが転がっており、両方共返り血がべったりと付着している。

 彼らは囁き合うように話していた。


「この人……、楽しかったね、サディ」


「うん……楽しかった。でも、自衛軍の人だから、当たり前だよ、ユイ」


「そうなの……。私、もっと気持ちよくなりたい……」


「……僕も」


 頬をすり合わせ、二人は唇を重ねる。

 そんな二人に向けて、どこからかナイフが投擲された。

 二人はそれを唇を重ねたまま躱す。


「キモッ! どういう動きなんだよそれは」


 新たに暗闇から現れた男は、そう言って二人の前に立った。


「……ハル」


 先ほどユイと呼ばれた少女は顔を上げてその男の名を呼ぶ。


「お前らリーダーの命令ちゃんと理解してんの? 勝手に殺しばっかやってるけど」


「……もち」


「ハルこそ、僕らと一緒に行動しなきゃなのに、勝手……」


「……協調性に欠ける、よ」


 彼らの組織に仲間割れ禁止のルールはない。

 だが、ここでこの二人を殺るのはハルにとっても無益であった。

 ハルは苛立ちを抑える。


「俺が一人で忙しいのはお前らが手伝わねぇからだろ。

 これだからいつものメンバーでやりたかったんだ」


「リダの命令、仕方ないよ……」


「分かっとるわ。

 つーか明日からはマジで手伝えよ。流石に一人じゃきついことをするんだからな。

 手伝わなかったらガチで殺すから、抵抗すんなよ?」


 ハルは怒気を込めて言った。


「……分かった」


「明日から、……手伝う」




ーーー




 弦気の正体が発覚してから3ヶ月が経った。

 12月上旬。当たり前だがとっくに暑さはなく、長袖とブレザーを着る時期だ。


 あれから特に何があったということはない。

 俺は勉学に勤しみ、平日もトレーニングをかかさなかった。

 休日はロールと任務に行ったりシェイドされたのについて行ったり……、中々ハードな毎日だが、もう慣れつつある。


 しかしまあ、3ヶ月……いや5ヶ月間もこんな生活を続けていると、肉体にも変化は出てくる。

 去年に比べてカッターシャツがだいぶキツくなってるのだ。

 筋肉がついてしまったから仕方ない。これだけは隠しようがないんだよなぁ。


 弦気達を含め、学校のみんなには筋トレにハマってるということで誤魔化してるんだけど、増えていく体の傷はどうしたらいいのか。

 その辺も考えないといけない。


「学内トーナメントが近づいて来たわね」


「そうだな」


 ロールの言葉で俺は今の議題を振り返った。

 学内トーナメントについてだ。


 学内トーナメントは12月の下旬に行われる毎年恒例の行事。

 トーナメントは学年別に組まれ、強制参加というわけではない。

 だから無能力者や棄権者などは学年トーナメント開催期間中は休日になる。更に相手を怪我させてしまいそうな強力な能力者も参加資格がない。

 その参加資格云々は、12月中に行われる能力検査によって決められる。

 

 まあ強制ではないとは言ったが、この行事は就職に関わって来るせいでぶっちゃけ半強制みたいな部分がある。

 自衛軍のお偉いさんやら、各企業の社長なんかも見に来るから、みんな自分の進路のために必死になるのだ。


 去年の俺は学内トーナメント中の休日を利用して弦気達と遊びに行っていた気がする。


「今回の学内トーナメントは見送るべきだと思うんだけど、死音はどう思う?」


「ロールに任せる、っていうかそれしかなくないか?

 俺はまだ無能力という設定なんだし」


「そうよね……」


 そういえば、弦気の正体が分かったせいで、俺達の予定は大幅に狂っていた。

 俺の能力を徐々に開花させていくという計画が引き伸ばしになったのだ。

 自衛軍中将の弦気が同じクラスにいるんだから慎重に行くべきだというロールの方針だった。


「まだ来年があるから、焦る必要はないと思うけどな。

 流石にそろそろ動き出すべきだとは思うけど」


「そうは言ってももう一年を切ってるわ。

 弦気は学校内も結構気を張ってるし、ちょっと怖いのよね……」


「それをいうならロールって名前もまずいよな」


「その話何回目よ」


「わからん」


「私はそこまで有名じゃないし、実際バレてないんだから大丈夫だって。

 単独任務ばっかりやってたから名前も割れてないのよ」


 名前はどうか知らないけど、不知火中将には知られてたけどなぁ。

 なんかロールにしては楽観的というか詰めが甘いというか……。

 まあ現に今のところバレてないから良しとするけど。

 最悪バレそうになったりしたらロールだけ学校やめて逃げればいい話だしな。


 任務中、結構ロールって呼んでしまうから困る。

 一応名前を呼ぶのは控えようって話をしてるんだけど、他の呼び方を作ったりしてもいいと思う。


「……疑われても証拠がないから大丈夫、のはず」


「結構マジで凡ミスだったのか」


「色々あって偽名が作れなかったっていうのが原因。

 クラスに自衛軍がいるなんて思いもしなかったし」


「ふーん」


「それはさておき、アンタ能力でできること結構増えたわよね?」


 ロールは逃げるように話題を逸らした。


「うん、そうだな」


 俺は頷いて答える。

 この3ヶ月、色んな人にあらゆるところへ連れ回されたため、俺の実力は結構上がったと言ってもいい。

 いや、まだまだひよっこなんだろうけど、多少調子に乗ってもいいくらいには成長した……はずだ。

 もちろん、その過程で能力の精度が上がったのは言うまでもないだろう。

 トレーニングも溜息さんの組んだ向上プログラムをこなしたわけだし。


「どんな能力者ってことにするかいい加減決めとくべきだわ。というわけで、できることを明日までにこの紙に書いといて。なるべく詳しくね」


 ロールに白紙とペンを渡されて、俺はそれを受け取った。


「できること全て書くのよ。箇条書きで」


「分かった」


「今日はもう遅いし解散にしましょうか」


 ロールは立ち上がって言った。

 時刻を確認してみると、もう21時過ぎだ。


「了解、おやすみ」


「おやすみ」


 ロールの返事を聞くと、俺は部屋を出て帰路についた。





 家に着いた俺は、ロールから出た宿題をさっそくやっていた。

 とりあえず書いてみたけどこんな感じだろうか。



・最大半径1kmの音を正確に聞きとることができる。人間には本来聞き取れない音も聞ける。

・音の反響による空間把握ができる。ソナー。

・音を作りだせる。声を変えたりすることも可能。"音撃"のように発生させる音の大きさは自在。限界はある。元になる音があればそれを使える。

・音の遮断ができる。

・離れている人に音を送ることができる。

・上2つを応用して離れた者同士を会話させることができる。

・心音や呼吸、筋肉の伸縮の音を聞くことができる。これによって相手の事前の動きをある程度予測することができる。

・音により物を振動させることができる。

・超音波でロール(猫状態)を嫌がらせることができる。



 他にもできることがありそうだけど、現時点ではこれくらいだろうか。

 まだ未完成の技みたいなのもあるし。


 一旦明日これでロールに出してみよう。

 

 そう思って俺は寝床についた。

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