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音使いは死と踊る  作者: 弁当箱
三章
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決意の回転

 ロールとの夕食を済ました後、俺はボスの部屋に来ていた。

 オフィスデスクに肘をつくボスの前に、俺は背筋を伸ばして立っている。


「なるほどな。そういうことだったのか」


 ボスに弦気のことを話した。

 ボスの反応は薄いということはなかったが、そんなに驚いてない様子だ。

 俺が怒られそうな雰囲気もない。


「……はい。すぐに言わなくてすいませんでした」


 申し訳なさから頭を下げる。言わないでおこうか迷っていたこともちゃんと伝えたのだ。

 やっぱりボスに伝えた方がいいと思ったのは、俺がボスに助けられて今生きているということもある。

 Anonymousにとって有益な情報はしっかり話しておかないと、後で何が起きるか分からないのもそうだ。

 いくら親友であろうと、敵は敵だから。


 俺は多くの人を殺してまで自分を守ろうとしている。甘えた覚悟では生き抜けない。


「よく話してくれたな。英断だ」


「……!」


 そう言ってくれたボスに、俺は内心ホッとした。


「だが、お前は枷を背負わなければならなくなった」


「どういうことですか……?」


「あの男を俺はかなり危険視している。

 今すぐ殺しに行ってもいいくらいにはな」


「……はい」


 それはボスの言う通りだ。俺の"音撃"もノーダメージ。詩道さんでも撤退する。あのボスでさえ取り逃がしてしまう程の能力……。

 確実に潰しておいた方がいいのは、猿でも分かる。


「だが、奴のことはあえて死音の判断に任せようと思う。

 これは俺にとっては愚断だろう……。

 しかし、奴を当てることでお前の成長を促すことができるかもしれない。言うなれば、投資だな」


「……俺が弦気をどうするか、判断していいんですか?」


「ああ。でも勘違いはするな。俺が下す命令は、あくまで"殺せ"だ。親友であろうとなんだろうと関係ない。

 ……それでも俺がお前に一任するのは、意志に反して命令を実行するのは難しいからだ。

 死音にはまだ経験も実力も足りていない」


「なるほど……」


「奴とは敵同士。殺し合う運命にある。それをどう捉え、決断するかは死音の自由だ。

 ただ、死音がAnonymousにいる限りは、奴を殺さなければならない運命だということだけは覚えておいてほしい」


「……分かりました」


 それは仕方ないことだ。時間をくれただけでもありがたい。

 弦気と敵対したくなかったらAnonymousを抜けろ、ボスはそういった選択肢も示唆してくれたのだろう。


「一応言っておくが、任務中に遭遇したり、状況が変わったりすれば……」


「殺すんですね。それは重々承知です」


「ああ」


 弦気を殺すなという話をしに来たわけじゃないからな。

 俺も任務中に遭遇したら実力的に殺せるかどうかはさておき、殺す気で戦うつもりだ。

 今日の任務でもそれはできたわけだしな。


「まあ、それくらいだな。もういいぞ」


「ボス、ありがとうございました」


 俺はおじぎをしてボスの部屋を出た。



ーーー



 家に帰ってきた。俺はベッドに身を任せて目を瞑っていた。

 すごく長い一日だった気がする。


 ですとろいさんがめちゃくちゃしたり、ロールが寝たり、ボスにシェイドされたり、弦気が自衛軍だと発覚したり……。


 でも今日はもう寝よう。明日は学校だし。

 風呂は……、もう面倒くさいし明日朝早く起きて入るか。


 俺はなんとか目覚まし時計を設定すると、そのまま意識を闇に落とした。



 翌朝。目覚ましが鳴り出すより先に目覚めた俺は、朝のランニングをしてからシャワーを浴びた。

 今日からまた学校が始まる。夏休みの修行で結構焼けたからみんなからは驚かれるかもしれないな。


 俺は久々の制服に腕を通しながらそんなことを考えていた。


 ただ懸念があるとすれば弦気だ。

 俺はあいつといつも通り接することができるだろうか。



 朝食を食べ終え、俺はカバンを手にとって家を出る。

 学校までは歩きで15分くらい。ギリギリ自転車で登校するのを禁止されてる距離なので、この時期の登校は結構汗をかく。


 空を見上げると、浮遊能力者がスイスイと学校に向かって飛んでいく。

 前はあれをみてよく羨んだけだけど、今はそうでもない。

 能力なんて、ろくでもないからな……。


「よ、風人!」


 後ろから弦気の声がして、俺はドキッとしながらも振り向いた。


「おはよう。弦気」


「うわ、風人焼けたなー。夏休み一人でどっか行ってたんだろ? どこいってたんだよ」


「4つ隣の街まで行ってきた。そんな大したことしてなくて恥ずかしいから聞くのやめろ」


「いや聞かせろよ!」


「嫌だ。というか弦気こそ夏休み何してたんだよ」


「俺? 俺は基本的に遊んでばっかだったけど。あ、そういえばヒトミの妹に告白された」


「マジで!?」


「うんマジで。断ったけど、ヒトミの前で告白されたから凄い姉妹喧嘩の巻き添えにあったよ」


「それは災難だったな……」


 大橋の妹と言ったら大橋とは真逆の性格で、中学の頃有名だったもんな。

 来年はうちの学校に入ってくるらしい。ぶっちゃけ来てほしくない。


 というか、普通に弦気と話せてるな俺。


 ……そういえば、昨日はこいつから音が聞き取れなかったけど、今はどうなんだろうか。

 ふと気になった俺は能力をonにして、弦気の音を聞いてみた。


 すると、弦気は目つきを変えて、辺りをぐるっと一周見渡した。


 俺は慌てて能力をoffにする。


 今のは……、明らかに昨日見た弦気だった。


「弦気、どうしたんだ?」


「いや、ちょっと誰かに見られてる気がして……」


 今onにした時、俺は弦気の心音を聞くことができた。昨日は聞けなかったのに。


 ということは弦気の能力は常時発動型で、on-offをしているのだろうか?

 いや、今の豹変が俺がonに切り替えたのを察知したのだとすると、弦気自身on-off切り替えてる訳ではないはずだ。


 ボスは弦気の能力をおそらく受け流す能力だと言っていた。

 ボスのように、いつ使用したか分からない能力も受け流すことができるということは、自分に能力が使われたかどうかを察知できる可能性がある。


 つまり、今のは俺が能力を使って音を聞いたのを、弦気は察知した。

 だけど、どこから聞いているか分からなかったから辺りを見渡した。こういうことだろうか?


 じゃあ俺がon-off切り替えできなかった時はどうしていたんだ?

 いや、あの時は制御リングをつけていたし、弦気の音を意識したことなんてなかった。

 だから弦気が気にすることはなかったのかもしれない。


 とにかく、余計なことはしない方がよさそうだ。


「風人、最近は物騒らしいから気をつけろよ。噂によればAnonymousの動きが活発になっているらしい」


 弦気は至って真面目な顔で俺にそう言った。


「……らしいな」


「ほら、俺らって無能力者じゃん。

 自分を守る術がない分、警戒は余計にするべきだと思うんだよな」


「確かにな」


 お互い無能力者じゃないんだけどな……。


 俺は今度は罪悪感を感じていた。

 こいつは知らないとはいえ、敵の俺のことを心配してくれてる。

 だからと言って正体をバラす訳にはいかない。

 いっそのことこいつが親友じゃなくて、クラスの中のどうでもいい奴ならどんなに楽だろうか。


「話は変わるけど風人、宿題は終わった?」


「一応終わった」


「俺も昨日ギリギリ終わらせたよ。まあ今日提出じゃないやつはまだ終わってないんだけど」


 そうこう話してるうちに俺達は教室についた。

 教室にはすでにクラスメイトが結構来ていて、俺は一ヶ月ぶりに会う彼らに挨拶をしながら席に着いた。


 ロールもすでに登校して来ている。

 朝礼まではまだ時間があるので、いつものメンバーが俺の机の回りに集まってきた。



 学校が始まった。


3章終了



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