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音使いは死と踊る  作者: 弁当箱
二章
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新たな重圧

 第二ステップの修行は俺が死にかけるところから始まる。

 溜息さんは遥か上空に避難して、俺はキャンプハウスからある程度離れたところで能力を限界まで使い切る。


 爆音が響き、衝撃波によって木々はバキバキと悲鳴をあげる。

 予め軽い音で魔獣や鳥達は逃しているので、無駄に生き物を殺生することはない。

 しかし、それでも響いた爆音で樹海の木に留まっていた鳥達が一斉に羽ばたいた。


 最初のうちは全力が楽しいのだが、これが次第に辛くなってくる。

 何度か繰り返すと、いつのまにか気を失ってしまう。これが辛いのなんの。

 そこで溜息さんがやっと助けに来るのだ。


 そして少しだけ体力が回復するのを待つと、溜息さんに強制的に意識を覚醒させられる。

 最悪の気分で目覚めた俺は、しばらく嘔吐感やら目眩やら頭痛に苛まれるが、やがて収まる。

 そこから無理やり溜息さんの作った飯などを食わされ、なんとか活動できるレベルまで強制回復させられるのだ(半ば気合で回復)。


 これ、全然笑えない。

 能力を限界まで使うと死にかける、ロールから教わったことは本当だった。

 このまま死ぬんじゃないだろうかと思えるくらいには身を削っている感覚だ。


「どうだ?」


 そんな超グロッキーな俺の顔を溜息さんが覗いた。

 俺はキャンプハウスの前の広場に置かれた簡易テーブルに突っ伏している。

 グロッキー状態で飯を限界まで食わされたんだから当然だ。


「どうだ……って、歩けないくらいにはやばいですよ……」


「私の心音は聞こえるか?」


「……聞こえません」


「それがoffの状態だ。体力は徐々に回復していく。

 だが体力が戻ってきてもoffの状態を維持しろ」


「維持しろって、どうやって?」


「能力が使えない感覚に慣れるんだ。

 体力が戻ってきて音が聞こえるようになっても、あえて聞かない。

 能力を拒否しろ」


 なるほど。

 今一どうすればいいのか分からないが、まあ能力自体感覚で使っている訳だし、感覚で何とかなるか。


 そんなことを考えて修行を続行する。


 しかし現実は甘くなかった。


 体力の回復に連れ、どうしても音が聞こえるようになってしまうのだ。

 体が弱っているうちは何とか押されられるが、元気になってくると能力の常駐が抑えられない。


 offの状態を維持できないと、修行は繰り返される。

 また能力を限界開放して自分を追い込む作業だ。


 この修行は時間を結構食らう。

 体力が回復するまでに時間がかかるため、一日にそう何度も練習を繰り替えすことができない。

 修行は三日間夜通し行わされるから、一日に三回強制offになる。

 溜息さんも三回以上はやめとけと言っている。

 ちょっとは俺のこと考えてくれてるみたいだ。


 まあそれでも地獄なんだけど。




ーーー

ーー



 コツを掴んできたのは四回目からだ。

 四回目は三回目より格段に長い時間offの状態を維持できていた。


 すぐに溜息さんに報告。


「その調子だ。引き続き頑張れ。

 何故うまく行ったかを考えろ」


 だそうだ。引き続き頑張る。


 何故うまく行ったか。

 なんていうか、別のことをしていたからかな。

 三回目までは回復中は机に突っ伏していただけだったが、四回目は無理して歩き回ったりしていたのだ。

 自ら気絶して溜息さんに介護してもらおうという目的で。


 その邪な心が俺を一歩前に進ませてくれた。

 能力のことばかり考えると逆にうっかりonになってしまう。

 耳をすませてばかりいるより、「気づいたら使っていない」という感覚が大事なのかもしれない。



 俺は修行を続ける。

 限界開放の度に気絶、そして回復の時に少し寝るから睡眠時間は問題ない。

 まあ例の10日間のことを考えれば、この安全地で三日くらい寝なくてもへっちゃらだ。


 とにかく、5回目と6回目と俺の修行は順調に成果を伸ばしていった。



 そんな中、事が起こったのは7回目のチャレンジの時だった。

 俺は一度offの状態からonに戻し、そしてまたoffに切り替えることができたのだ。

 一瞬だけだったが。


 俺はすぐさま溜息さんに報告しようとしたけど、この時間、溜息さんは寝ている。

 俺がこんなに頑張っている時でも自分はキャンプハウスのベッドでグースカ寝てるのだ。

 その癖キャンプハウスに忍び込もうとしたらすぐに起きて俺を阻止してくる。

 気配も音も消してるのにどうやって俺に気づいているんだろうか。


 まあそれはいい。

 とにかく溜息さんは起こせない。


 しかしもったいないな。せっかく掴みかけたのに溜息さんのアドバイスがないとなると。


 そこで俺が思いついたのは、もっかい能力を限界開放してみて再チャレンジしてみようというものだ。


 俺の体力はまだ完全に回復していない。


 溜息さんにはonにできるくらい体力が戻っても、それからしばらくは休めと言われている。

 それを考慮して一日三回なのだ。 


 立て続けに限界を行ったり来たりするのは流石に危険だからという理由である。


 だけどあの感覚を今思い出したいのだ。

 あそこまで掴んだら後もう少し……の気がする。

 

 もう一回だけ。もう一回だけやってみよう。


 そう思って俺はキャンプハウスから離れて樹海の奥に進んていく。

 歩けるのはある程度回復しているからだが、しんどい状態に慣れるというのも変な話だ。


 早めの8回目は溜息さんのヘルプがないから気絶するまで能力は使わない。

 offにしやすいくらいまで体力を削るだけでいい。


 溜息さんの重力結界があるギリギリのところまで着くと、俺は能力を開放する。

 溜息さんが目覚めてしまうため、大きな音は出せない……と、前までの俺ならなっていたはずだが、限界まで能力を使う際、俺も闇雲に音を出してた訳じゃない。


 音の向き。


 そう、音にある程度の指向性を持たせることができるようになったのだ。


 まだピンポイントで音を炸裂させる、みたいなことはできないが、自分の出した音の向きをそれなりに操ることが出来るようになった。


 そう、これを使えば溜息さんに気づかれずに体力を削ることができるのだ!


 なんかドMな修行法だよなこれも……。

 自分の体力を削る修行に意気込み始めた自分が悲しくなってきた。


 いや、これも強くなるためだ。


 俺はドMに作業を開始する。

 音を向ける先は、上。


 俺はそこまで大きくない音を出し続けた。

 たまに違う音を出したり、周波数を変えて遊んで見る。

 これが結構楽しい。


 後音って重力の影響を受けないっぽいな。

 溜息さんの重力結界を通過する音を聞きながらそんなことを考える。



 そしてそれからしばらく音を出し続け、音を出すのが苦痛になってきた頃。


 頭上の重力結界を突き破って、そいつはやってきた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 親方ァ‼︎⁉︎空からヤバそうなヤツガァァァ‼︎⁉︎
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