対極の少女
※こちらは過去に書店様特典として使用したSSと同一のものとなります。
ありがたいことに再掲の許可をいただきました。
時系列で言うと、ほぼ序盤のお話になります。
最終話を読み終わったばかりの方は、少し時間を空けてから読むのがオススメです。
それが起きたのは、夏休みが終わってから丁度2ヶ月くらいが経った頃だった。
俺に続く大規模な能力発現。
発現地点は隣町。いつか黒犬さん達に連れて行かれた、地下カジノのある町だ。
「あんたのケースがあったからよね。こうやって何人もの構成員がたった一人の発現者のために駆り出されるのは」
頭上を、地上を、自衛軍の隊員達が忙しく動き回っていた。夜の町は喧騒に包まれている。
現在、隣町リールベシルト。俺とロールはあるマンションの屋上から地上を見下ろしていた。
「俺が関係あるのか?」
「こういう案件には、基本的にボスや詩道さん達少数で対処してたんだけど、見ての通り自衛軍側の対応も強化されてるでしょ。これは死音の件があったからだと思う。人手が必要になったのよ」
「へぇ……」
「まあ今回の発現者は、死音程危険性はないみたいだけど」
ロールは地上を見回しながら言った。
町は獣の鳴き声で騒がしかった。能力者の発現によって、町の動物が凶暴化したらしい。おそらく動物の心理状態を操る操作系の能力者だと、執行さんの方から解析報告を受けている。
ロールは俺程危険性はないと言ったが、凶暴化した野生動物やペットによって、怪我人は勿論、死者もすでに数名出ているらしく、警報では家から出ないようにと注意喚起されている。
広範囲に影響を及ぼす、十分危険な能力だ。規模としては俺より上。
そして発現からおそよ一時間。未だサイレンの音が鳴り止まないのは、発現した能力者が現在も逃亡中だからだ。
そう、そして今回俺達に与えられた任務は、その能力者の保護。及びanonymousへの勧誘だ。
この任務にはボスや詩道さんを含む総勢12人が参加している。
発現が及ぼした被害の範囲が広いのもあって、当人の感知が困難。タッグで別れての、広範囲に渡る捜索が必要となったのだ。
対する自衛軍側の対応も、発現した能力者の保護。俺の時とは違い、殲滅命令は出ておらず、かなりの人員が発現能力者の捜索に割かれている。
俺は地上の音を聞きながら、自衛軍の動きを把握していく。すでに交戦したチームがあるため、自衛軍にこちらの介入は伝わっている。地上に降りれば俺達も、交戦は避けられないだろう。
「どう?」
「うーん。やっぱりそれらしき人をここから感知するのは難しいな」
「じゃあ私達もそろそろ降りて直接探した方が良さそうね」
「そうしよう」
頷くと、ロールはフェンスを超えて、マンションの屋上からぴょんと飛び降りた。
俺もフェンスをよじ登り、ホルダーの射出機に手をかける。そして射出機のワイヤーをフェンスに結びつけ、ガシャンとフェンスを蹴って地上へと飛んだ。
ワイヤーがピンと伸び、俺の体重を吊り上げる。射出機でワイヤーの長さを調整しながら、俺は壁を伝うようにして地上へと一気に降りた。
ロールの後を追って、俺は路地裏へと走っていく。
俺が索敵し、ロールが先行する。これが俺達タッグのスタイルである。
しばらく走り、マンションから離れると俺達は路地裏の物陰に隠れた。
「ふぅ……、しかし敵の数が多いな」
「なるべく交戦は避けたいわね」
ロールは涼しい顔をしているが、俺は肩で息をしていた。流石にあの着地からの全力疾走は、強化系でない俺にはきついものがある。
息を整えながら周囲に音の感知を広げる。
すると、後ろから小さな音が近付いてきているのに気づいた。
振り向くと、そこには牙を剥いて敵意を丸出しにした野良猫が、ゆっくりとこちらへと歩みを進めていた。
目が合い、野良猫の動きが止まる。
同時に野良猫は飛びかかってきた。
即座に俺はナイフに手を伸ばしたが、その前にロールが飛びかかってきた猫を片手で弾いた。ギャウンと鳴き声を上げ、野良猫はどこかに走り去っていく。
「今のは……」
「暴走した能力の影響ね。気をつけなきゃ」
言って、ロールは静かに屈み直す。
「じゃ、しらみ潰しに当たってみましょう。索敵頼んだわよ」
「了解」
そうして、俺とロールは路地裏から駆け出した。
♪
発現した能力者の捜索は難航していた。
あれからおよそ一時間……。未だ能力者は見つかっていない。
敵の応援は増えていき、今や町は捜索中の自衛軍隊員で溢れていた。anonymousを警戒する戦闘員も増え、こちら側が圧倒的に不利。町の動物達も、自衛軍の手によって殆どが鎮静化させられていた。
一方anonymousは、索敵に優れないチームが撤退し、この町に残る構成員は俺とロール、後はボスと詩道さんだけになっている。
俺達は捜索を一時中断し、包囲網の外の、人気のない工場地帯に身を隠していた。流石にあれだけの人数が導入されると、隠れながら能力者を探すのは不可能だった。
壁に背中を預け、端末を弄っていたロールが顔を上げる。
「とうとう私達にも撤退命令が出たわよ」
「……そうか」
ついに、俺達にも撤退命令が出たらしい。
まあ、無難な判断だ。これ以上探したところで、自衛軍との交戦はさらに避けられなくなっていくだろうし、そうなると被害も増える。
「だけどおかしいよな。発現からの包囲網展開は早かったし、未だ能力の暴走は続いている。なのに、ここまで逃げ切ることなんてできるものなのか?」
俺の時はまず無理だった。いや、あれは発現地点が明確過ぎたというのもあるかもしれない。
それでも異常だ。百人単位で捜索しているというのに、見つからないなんていくらなんでもおかしい。
「そうね。一体何人の感知を潜り抜けてるのかしら。全く……、将来有望だわ」
「将来有望か。でも撤退するってことは、後々俺達の敵になる可能性の方が高いよな」
「そうかしら?」
俺とロールは街のゲートに向かって歩き出していたが、彼女がそんなふうに言葉を返してきたので、俺は思わず立ち止まった。
「……なんで?」
「ここまで逃げてるんだから、死音みたいに絶対に捕まりたくないって人だったりするんじゃない」
「……そうかな。別に命を狙われてる訳じゃないんだぞ」
「でも、捕まったらどうなるんでしょうね」
「…………」
捕まった後……。
俺は前に考えたことがあった。もし俺が、あのまま自衛軍に殺されることなく保護されていたら、どうなっていたのだろうか、と。まああの時は殲滅命令が出ていたし、そんなIFの話はありえないのかもしれないが……。
とにかく、その時に調べて分かったことがある。
それは、能力発現の際の暴走は罪に問われるケースが多いということ。
発現の際の暴走において人を殺してしまったとしても、人を殺したという事実は変わらない。なので、能力発現は特殊な過失として扱われるのだ。
ただ、発現の被害にもよるが、基本的にそこまで重い罪という訳ではない。本当に危ないと判断された場合は俺の時のように殲滅命令が出るわけだから、そこで死ねば罪も糞もなくなる。
なので、保護された場合は、牢獄のような自衛軍の隔離施設で、能力のコントロールカリキュラムを数年受け、そのまま自衛軍への入隊を半ば強制される。そして人々の役に立つことで罪を償っていくのだ。
半ば強制というのは、隔離施設という、半分刑務所のような所に入ることによって、出てくる頃にはもうまともな受け入れ先が自衛軍しかないという実態がそうしている。
例え別の道があったとしても、被害者や、その親族からの糾弾は避けられないし、あるべきはずだった明るい未来は待っていない。
齢十数の少年少女が辿る運命にしては、あまりに過酷すぎるだろう。
「どうしたの死音。険しい顔して」
「いや……」
俺はボスに手を差し伸べられた時、そこまで考えた訳じゃなかった。ただその瞬間を生きようとしただけだ。
だがもしあの時、自衛軍から手を差し伸べられていたら?
俺は、その手をとっていただろうか。その先のことは、考えなかっただろうか。
今となってはもう分からない。
「どこにいるんだろうな」
「さあ。もう私達には関係ないわ」
随分と冷たい言葉のように聞こえたが、それが普通なんだろうとも思った。もしくは慣れなのか。
……いや、その言葉が冷たく感じたのは、俺が個人的に少し気になっているからだ。彼か彼女かは知らないが、その能力者のことが。
なぜかと問われたらそれは親近感、それ故の、同情。身勝手ではあるが、できれば俺はその能力者をanonymousに引き入れたいと思っている。
丁度そう思っていた時、ロールの端末が振動した。
「ボスからだわ」
そう言ってロールは端末を耳に当てる。
『bブロック、スラムよりの地点59だ。そこに死音を連れて、来てくれ』
電話の向こうの声は、意図せずとも聞こえてしまう。
俺とロールは顔を見合わせた。
「……? 撤退じゃないの?」
『その予定だったが、発現した能力者を発見した』
「……嘘でしょ、ほんと?」
『ああ』
「……分かった。すぐ行くわ」
ロールは端末をポケットにしまい、もう一度俺と顔を見合わせる。
「bブロックの59番地点って、完全に包囲網から出てるじゃない」
「どういうことなんだ」
「とにかく、行ってみましょう」
♪
ボスと詩道さんの元に辿り着くと、そこには寂れた街の風景があった。
中央街のきらびやかさはなく、音も少ない。
しかし能力発現による注意喚起の放送はここまで響いており、それだけがうるさかった。
そんな中、仮面を被ったボスは人も住んでいなそうなボロい民家の塀に背を預け、詩道さんは近くに停められた車のボンネットにもたれ掛かっている。
発現した能力者は見当たらないが、ボスを跨いだ先にある路地から小さな呼吸音が聞こえてきている。そこにいるのか。
「来たか」
ボスは塀から背を離し、俺とロールの方を見た。
「なんで俺達を呼んだんですか?」
俺は開口一番そう聞いた。しかしなんとなく理由は察している。ボスが俺を呼んだのは……。
「死音、お前を呼んだのは、あの少女の勧誘を任せたいからだ」
隣に立つロールは俺の方を見た。
やっぱりか。そう思い俺は目を瞠る。
「そうだと思いました」
「死音が組織へ誘う。そしてそれであの少女が断ったなら、大人しくアジトに帰るとしよう。口上は覚えているか?」
ボスのマスクの下の笑みが見えた気がする。
「でも、ボスが行っても変わらないと思いますよ」
「どちらにせよ、望みは薄いが……どうせなら高い方に賭けるべきだ」
望みは薄い……。勧誘が成功する可能性が低いと言っているのか……?
なぜだ。
「時間もない。手短に済ませてくれ、死音」
ボスは中央街の方に首を振って急かす。
自衛軍も捜索の範囲を徐々に広げつつある。ここに長居はできないだろう。
俺は色々と考える前に、ボスの前に進んだ。
「でもちょっと待って、その娘どうやって包囲網の外に出たの?」
ロールが口を開く。
「ああ、彼女は能力重複者。二つの能力を同時に開花させた、極めて稀有な存在だ」
「それって、危ないんじゃないの」
「空透明と、主獣従。俺達も見ているし、両方とも危険性の低い能力だ。害はないだろう」
「……ならいいけど。でも私は死音の隣にいてもいいわよね?」
「構わない」
ボスの許可を得て、ロールは俺の隣まで進んで来た。
頷いて、路地の壁に手を付く。
そして俺はその先にうずくまる少女の姿を捉えた。その少女は両膝を抱え込み、頭を自分の腕の中に埋めている。
俺とロールが前に立ったのに気づいたのか、彼女はほんの少しだけ頭を上げ、腕の隙間からその瞳を光らせる。
俺は思わず息を呑んだ。
なんだ、その目は。
何かを悟ったように、まるで生気のない瞳。いや、こんな状況だからおかしくないとも考えられる。……だけど、同じ経験をしたからこそ理解できないことがあった。
そこまで、諦められるものなのか。
「……近寄らないで」
少女は静かに言った。薄暗い路地では、髪の色も服装も、うっすらと月夜に照らされて光る瞳以外は、ほとんど容貌が分からない。
しかし、声だけは透き通るように綺麗で、それが彼女に対する第一印象だった。
近寄らないで、ときたか。
「君を殺そうって訳じゃないんだぞ」
「……うん、知ってる。近寄らないで」
一瞬理解が追いつかず、頭の中で復唱していた口上なんて忘れて、俺は黙り込んでしまった。
「それはどうして」
なんとか口を開く。
「私を仲間にしようとしてるんでしょ。前の人もアノニマスの仲間になったって、ニュースで見た」
前の人、おそらく俺のことだ。
今度はわざと黙り込み、俺は少女の言葉を待った。しかしそれ以上言葉が紡がれることはなく、結局俺がまた口を開いた。
「……君、いくつ?」
「14」
じゃあ中二か中三か。どうやら、質問にはちゃんと答えてくれるらしい。
「これからどうするんだ? 自衛軍に……」
「自衛軍には、捕まらない」
彼女は震えた声で言う。少し怒気のこもった声だった。
「うん」
「あなた達の仲間になるつもりも、ない」
「ならどうやって生きていくつもりなんだ?」
「未来なんてない。死ぬだけ」
少女の瞳はしっかりと俺を見据えている。暗がりでもそれくらいはわかった。
そして俺は、彼女が簡単に死ぬと言ってのけたことに戦慄していた。
死ぬ、死ぬだって?
「……」
「生きてても、何もいいことなんかない。だからもう死ぬ」
だが、死にたいと言ってこうして吐露するのは、縋りたいんじゃないのか。誰かに。
なら俺が話を聞いてやらないと。そう思って口にしようとした時、不意に後ろからボスの声が響いた。
「帰るぞ」
「……! ですがボス」
「死音、そいつはもう選択している。我々が何を言っても無駄だ」
違う。決めつけるのはまだ早いはずだ。
そう思っていた矢先、ロールがボスに同調する。
「……そうみたいね。死音、帰りましょう」
「ロールまで……。じゃあ、先に帰っていてください。俺は残ります。この娘と純粋に話がしたい。構いませんよね? ボス」
「それは好きにすればいい」
「ええ、分かってます」
「そんな、死音。何を意地になってるのよ」
「そんなんじゃない。ただ、気に食わないんだ」
「ほら意地になってるじゃない。これはそういう任務じゃないのよ。その子が拒んだんだから、これで終わりなの」
「だけど!」
少し大きな声を出す。
「俺は嫌なんだ」
「はぁ。じゃあ……、私も残るわ」
ロールは言った。
「それは助かるが、手出しはするなよロール。これは死音の"勝手"だ」
「はいはい分かってます。私は死音が心配なだけ」
「ならいい」
その言葉を最後にボスの気配は遠ざかっていく。
やがて、車の発進音と共に辺りに残った音は俺とロールと、目の前の少女だけになった。
「話、早めに終わらせてね。自衛軍の動き次第ではすぐにでも撤退するわよ」
「……分かった。ありがとう」
言われなくても、命を賭けてまでこの娘をなんとかしたいというわけではない。
これは俺の自己満足だ。俺は再び少女を見据える。
「人殺し集団にも色々あるんだね……」
意外、という様子だ。
「まあな」
「だけど、放っておいて」
「俺はスレイシイドで大規模な発現被害を起こした能力者だ。お前の気持ちも理解できるかもしれない」
言うと、少女の呼吸が僅かに乱れた。
「一緒にしないで」
「……」
「私は、開き直らない」
「ああ、そうか」
「あなたはなんでアノニマスに入ったの?」
「死にたくなかったから。だからそんなに簡単に命を諦められる君が、俺には分からない」
「私にも、そこまでして生きたい理由が分からない。人殺しのレッテルを貼られて、生きていける精神が分からない。
私知ってるの。この発現で人が死んだこと、たくさんの人に迷惑をかけたこと……」
「だからなんなんだ? しようと思ってしたわけじゃないじゃないか」
「だとしても許してくれない人がいる。アノニマスに入って罪を重ねるのも、捕まって、色んな人に人殺し呼ばわりされるのも私は嫌……」
「それは君のせいじゃない」
「私のせい!!」
少女から出た金切り声に驚く。気づけば、少女は立ち上がっている。
「学校でいじめられるのも、お父さんに殴られるのも、私が無能力者だったから! そして今度は、能力で人を傷つけた……!!」
それは……、違う。
それはおかしい。なんで自分のせいにする。もっと人のせいにしろよ。責任転嫁しろよ。自分は悪くないって、そう思い込めよ。色んなことから逃げ出せばいい。
死ぬのだけは違うだろ。
「私にはこのまま罪を重ねることも、罪悪感に潰されそうになりながら罪を償って行くのも嫌。私が死ねば、みんな幸せになれるんだ」
そこで少女の姿がフッと消えた。
一瞬何が起こったのかと思ったが、心音はしっかりと聞こえてくる。これは透明になる、彼女のもう一つの能力だ。
少女は姿を消したまま路地の奥へと走っていく。会話はここで打ち切りらしい。
「ロール、ここで待っててくれ」
「……何かあったらすぐ呼ぶのよ」
「分かった」
俺は彼女の音を追って走る。彼女は街の外へ外へと向かって走っていっていた。自衛軍から遠ざかるように逃げてくれるのは好都合だ。
俺はその後を、音を消しながら彼女に気づかれないように追う。
やがて少女はある工場の中に侵入し、そこで動きを止めた。
積まれたコンテナを上って行く彼女に、俺は下から声を掛ける。
「そこから飛び降りるのか?」
「……なんでいるの」
街灯が彼女の顔を明るく照らしている。
肩までの黒髪と、ロールのような美少女とは言えないが、可愛いと言えるくらいには整った顔。
「本当に死ぬ気なんだな。もう少し生きて見たら、見え方も変わってくるかもしれないのに」
「なんでそんなにしつこいの」
「お前がこの理不尽を自分のせいにしているのが気に食わないから」
もっと怒るべきだ。もっと恨むべきだ。
お前は腹を立てて良い。キレていい。
なのに自分が悪いってなんだ。そんな訳ない。
「……関係ないじゃん、あなたには」
一番上のコンテナまで上り、そこへ立って両手を広げる少女。
「夢とか、なかったのか」
らしくない。ここまで来たらもう放って置けばいいのに。
「お花屋さん」
「……」
「私、お花屋さんになりたかった。花の世話くらいなら、無能力でもできるから」
「今からでもなれるだろ」
「人殺しの育てた花なんて、誰も買わないよ」
「そんなことない」
「……私がそう思ってるの。こんなことして、平気な顔で花を売るって? できる訳ないじゃん……!」
「…………それは」
それはそうかもしれないけど。
だから死ぬのか? なんで他の逃げ道を探さないんだ? 考えなんかどうとでも曲げて、言い訳を探せばいいだろ。
「私はあなたみたいに開き直りたくない。人を傷つける人は、どうあっても最低だ」
「…………」
「でも……、私のこと気にかけてくれたこと、嬉しかった。ありがと」
少女の姿がまた消える。今度は、能力を使った訳ではなかった。
コンテナの向こうまで歩いて行った彼女が急に消えたのは、その身を投げたからだ。
風切り音。それなりの高さがある。頭から落ちればまず死ぬだろう。
俺は周囲の音を完全にシャットし、静かに目を瞑り、しばらくそのままでいた。深く息を吸い込み、胸の支えを吐き出すように呼吸をする。
トンと後ろから肩を叩かれ、俺は目を開いた。
「死音が気に病むことじゃない」
「ロール」
きっとあの子は友達にも恵まれなかった。無能力だからイジメを受け、親からの期待もなく、なんの希望のない人生を送ってきたんだ。
だから、この際に自ら死を選んだ。
「あの子は絶対悪くない」
自分を納得させるように呟く。能力が発現しただけであんなふうに自分を責める必要はない。
あれじゃあまるでもう、取り返しがつかないみたいじゃないか。
何を犠牲にしてでも、とまでは言えないが、生に縋ることは大事だと俺は思う。
「行きましょう」
「ごめん、迷惑かけた」
「気にしてないわ」
コンテナの向こう側に広がっていく血の溜まりに一度目を移し、俺はその場から逃げるようにロールの後を追った。
「面白い」「またSS読みたい」
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