表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
音使いは死と踊る  作者: 弁当箱
十章
134/156

死の能力

 翌朝、スレイシイドで騒ぎを起こした俺のニュースがテレビで報道された。

 ニュースでは、中将二人、少将大佐数名他の負傷と街の破壊が取り上げられ、それについてコメンテーターが俺の目的を勝手に予想してそれっぽい発言をしている。


 そして、大橋が攫われたことは報道されなかった。

 だが問題ない。最低限の条件はクリアした。弦気がこのニュースを見てくれさえすればいいのだ。同じ状況に置かれているあいつなら、俺達の目的なんてすぐに察することができるだろう。


「こうなればこっちのもんだな」


 テレビの真ん前に立っていた空蝉さんが、プツッとブラウン管の電源を切って言った。不機嫌そうに。


 そうだ。作戦は上手く行った。

「ただ」と、空蝉さんは続ける。


「納得いかねぇのは、死音だけ抜け駆けで発散したってことなんだわ」


 深い溜息を吐く。

 空蝉さんは、昨日俺だけ戦闘を行ったことに不満を抱いているみたいだ。しかし、空蝉さんがあの場にいたとしても彼の望む戦闘はできなかっただろう。


 スレイシイドに所属する自衛軍は、弦気にとって馴染みの深いメンバーかもしれないので、それを考慮した俺は昨日誰一人として殺していない。

 騒ぎを大きくするために、一般人にも少しは手を出したが、これは自衛軍だけの被害だと揉み消されかねないから仕方なかった。


 なぜ弦気に対してここまで気を遣わないといけないのか分からなくなってくるが、俺が軽率な行動を取れば、今度は宵闇さんの機嫌を損ねることになる。


 俺は空蝉さんを無視して、壁に背を預ける宵闇さんに視線を移した。


「本当に宵闇さんの"暗空"は電波も遮断できるんですか?」


「ああ。俺以外、内外からの干渉は不可能だ」


 "暗空"

 宵闇さんは、闇の中にある程度物を収納することができて、そのスペースをそう読んでいる。

 そして今、その中には大橋の携帯がぶち込まれてある。

 取り出せば逆探知されるが、壊す訳にもいかないのでそうしてある。


 なぜなら、大橋の携帯こそが、俺達と弦気を繋ぐ糸なのだから。


「宵闇さんの能力って、本当にできないことないわよね……」


 隣に立つロールが苦笑いして言った。

 確かに、とセンが続けて苦笑したが、性能でいえば俺はセンの能力の方が羨ましい。

 いくら宵闇さんでも不死身という訳ではないのだから。


 それはさておき、弦気が行方不明になってから、大橋は何度も彼に電話を掛けたらしいが繋がらなかったそうだ。

 あいつもあいつで、逆探知を恐れて携帯を破壊しているのかもしれないが、そうじゃなくても大橋を巻き込まないために、電話には出なかっただろう。


 だが今は違う。

 俺が今更スレイシイドに何をしにいったか、それをあいつが理解すれば、きっと連絡(アクション)はある。

 連絡先は当然、大橋の携帯だ。


 弦気は、大橋と凛に電話番号を暗記させられていた。今思えば、あれは学生特殊部隊としての義務でもあったのかもしれない。

 だから、弦気は自分の携帯を破壊していたとしても大橋への連絡は可能だ。


 もうすでに連絡してきているかもしれないが、今携帯を"暗空"から取り出す訳にはいかない。

 ここの位置が割れたら、当然ボスは俺達が宵闇さんに匿って貰っていることに気づくし、そうなれば自衛軍はすぐに手を出せなくなるが、対策を練られてしまう。


 ボスは宵闇さんが人を殺せなくなったことを知っている。人を殺せない、というのは大きすぎる弱点だ。今からボスに手を打たれたらどうしようもない。

 まあ、今の宵闇さんもそうだと一概には言えないが、宵闇さんという兵器は隠しておくに越したことはないだろう。


 現状、大橋を攫ったこちら側の意図に気づいた敵は、俺達と弦気を一網打尽にするべく構えているはずだ。

 俺達がこうした手段で弦気とコンタクトを取ろうとしているのは、敵にとってもチャンスなのだから。


 そして生き残った俺達と弦気を問題視するのはボスのみ。

 弦気から連絡があって、話がまとまったとしても、結局俺達はどこかで落ち合わなければならない。

 そこを敵の手からどう逃れるか。それが重要だ。


 俺は部屋の片隅に座る大橋を見た。彼女は両腕を後ろで縛られ、抵抗できないようにされている。


 俺は大橋の元まで歩み寄り、背中で結ばれている縄をナイフで切った。


「ちょ、それは不用心じゃね?」


 大橋の拘束を解いた俺を見て、センが言う。


「大丈夫」


 大橋は弦気と会うまでは無害だ。

 それに、大橋がどんな能力を持っているかは知らないが、さして強そうには見えない。

 きっと、ここにいるメンバーの誰一人にも及ばないだろう。

 だが丁度いい。念のためこいつの能力は聞いておくか。


「大橋は、何の能力を持ってるんだ?」


「それは……言えない」


 この状況で質問を拒むとは。

 俺が驚いていると、空蝉さんが背後から俺の肩を掴んだ。


「任せろ。俺がコピーすれば分かる」


「ああ、確かに」


 音支配(ドミナント)がいつでも俺からコピーできる以上、彼のコピー枠は一つ空いているみたいなものだ。

 空蝉さんは能力をコピーするのと同時に、それがどういう能力なのかもある程度読み取っていると前に言っていた。だからこういった使い方もできるのか。少し感心した。


 俺が体を開いて避けると、空蝉さんが前に出て大橋の頭に手を乗せた。


「うん」


 空蝉さんが少し目を見開く。

 彼の纏う雰囲気が変わっている。

 どうやら、自身の能力を使役したことで性格が反転したようだ。

 そんな彼に俺は問う。


「どうでした?」


「なんていうか、珍しい能力だね。これは一応操作系なのかな?」


 言いつつ、空蝉さんは俺の肩に手を乗せた。

 そしてその手をすぐに下ろし、彼は言う。


「ちょっと僕をぶってみてよ」


「分かりました」


 言われて、俺は空蝉さんの左頬に一発拳を叩き込む。

 すると、俺の左頬にバチンと衝撃が走った。痛みを感じ、仰け反る。


「いってぇ……」


「ははは。こういうこと」


 頬を擦りながら空蝉さんを見ると、彼の左頬も少し赤くなっている。


「受けたダメージを相手にも与える能力……?」


「みたいだね。セン、今度はキミが僕を殴ってみてよ」


 空蝉さんは、今度は近くにいたセンに検証を頼む。


「えぇ……、まあいいけど」


 結果を見ていたセンは、軽く空蝉さんの頬を叩いた。

 が、今度はセンにダメージが返った様子はなかった。


「あれ?」


 ダメージを予想していたセンが、首を傾げる。


「なるほどなるほど。これは対象に一人しか選べない、限定操作系の能力かな。選んだ対象から受けた攻撃のみ、相手にも同様のダメージを与えることができる。あってる?」


 俺達の検証を見て呆気に取られていた大橋は、空蝉さんの問いに観念したように頷いた。

 流石に詳しいな、空蝉さん。


「気に入った。中々良い能力だね。名前はなんて言うんだい? これ」


 空蝉さんは大橋の肩をポンと叩き、すっかり上機嫌だ。

 大橋の方はしょげた様子で呟く。


「……復讐白書(リベンジノート)


 復讐白書リベンジノートか。……中々趣味の悪い能力だ。

 しかし調べておいて正解だった。これは普通に脅威になりかねない能力だ。どれだけ格上でも、玉砕覚悟なら相打ちに持ち込めるんじゃないかこれ。


「それより、遊んでていいの?」


 傍から見ていたロールが言った。

 そうだ。大橋の能力で盛り上がってる暇はなかった。


「そうだな。じゃあ俺と宵闇さんで一旦街を出て、弦気と連絡を取ってくる。他のみんなはここで待機で」


「僕も連れて行って欲しいところだけど」


「無理ですよ。仕方ないでしょう。空蝉さんが転移能力でもコピーしてくれたら話は早いんですけど」


「そうは言うけどね。転移能力はありふれた能力じゃないんだよ」


「知ってますよ」


 空蝉さんに構っている暇はない。そんな様子で宵闇さんが部屋の出口に向けて歩いて行く。

 俺がその後を追おうとすると、ロールが俺の袖を摘んで引き止めた。


「なんだよロール」


「気をつけてね……、死音」


 眉を寄せ、何を危惧するのか、少し涙を溜めた瞳でロールは言った。

 その、どこかしおらしい態度のロールに、俺は苛立ちを感じる。


 「ああ」と軽く頷いてロールの手を振り払うと、俺は宵闇さんの後を追った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ