死ぬよりマシ
宵闇さんが使っている部屋には、生き残ったメンバーが再び集合していた。
前に来たときも思ったが、どうやって生きているんだというくらい殺風景な部屋。テーブルの上には埃が積もっており、2つの椅子は無造作に転がっている。
換気扇の音だけが響いていた中、ソファにどっかりと座って、膝の上に両腕を置く宵闇さんが静かに口を開いた。
「仲間が必要だろう」
現在の戦力、五人。
俺は部屋のメンバーを見回す。
再確認するまでもなく、俺達は今戦力不足だ。
「んふ……」
センが思わず笑みを零していた。
無理もない。総力たったの五人なのだ。この絶望的すぎる状況に、却って笑ってしまったのだろう。
しかし、宵闇さんがいるというのは大きい。
生き残った四人なら、自衛軍にとって俺達は取るに取らない存在のはずだ。ボスは悪材料として俺達を取り除こうとしているが、正直言って俺達四人でできることは少ない。
だから優先度が低い。
だが宵闇さんに関しては、一つの"勢力"として扱うのが賢明である。個人で、勢力。
例え彼は軍を相手にしても、単一を相手にしても絶大な力を発揮することができる。ボスですら正面から挑もうとしなかった御堂龍帥を、かつて一人で退けた程の力。
宵闇さんの能力は万能だ。攻撃面、機動性に優れ、長距離移動も感知も可能。
――闇という"兵"を支配する能力。
まあ……その宵闇さんが仲間が必要だと言っているのが現状なのだが。
尤もである。
俺が言いたいのは、半端な仲間ならいらないということだ。
そう、ただ数を増やしたいだけなら必要ない。捨て駒は欲しいが、その存在は隙にもなる。
要するに。
「当てはあるんですか? その……、俺達に協力してくれるような、信頼できる仲間が」
宵闇さんを見て、セン、ロール、空蝉さんと視線を移していく。
無言のセン。ロールは首を横に振り、空蝉さんはいるわけねぇだろと肩を竦める。
「どっかの傘下に入るとか? 裏社会を牛耳ってたAnonymousが潰れたんだから、その後釜は絶対現れると思うんだけど」
誰も当てがないのだろう、それを察したセンの意見だった。
「ハッハ、んなもん全部潰されるに決まってる。Anonymousが裏側でデカイ顔してられたのは、俺達が強かったのも確かにあるが、他が弱いってことでもあったんだぜ?」
「"協会"もNursery Rhymesも、もうないしね」
「ああ、ボスが手を打たない訳がない」
協会とNursery Rhymesを一網打尽にできたあの事件は、まさにボスにとって好都合だったという訳だ。
「そんな畳み掛けてこなくてもいいじゃん……」
センは困った顔をしながら一歩後ずさり、そして黙り込んだ。
しかし仲間……、仲間か。
そうなると問題は当てがないことではなく、今俺達が"仲間"という言葉を信用できないことではないだろうか。
そんなことを考えていた時、宵闇さんが言った。
「俺に当ては確かにないが、お前にはあるんじゃないか? 死音」
「……?」
俺に当てだって?
そんなのあるはずがない。思い浮かびもしない。
こっちの世界で生きて日の浅い俺に、そんなコネクションは……。
「お前達の他に、指名手配されている奴が一人いるだろう」
そう言われて宵闇さんの言葉の意味を理解する。
「……まさか、御堂弦気のことですか?」
弦気は自衛軍を裏切ってAnonymousについていたという捏造で、現在俺達と同列に指名手配を受けている。
あいつもあそこから生き延びて、今も自衛軍から逃げ続けているのだ。
「そうだ。さらにそいつが夢咲愛花を連れているなら、大きなアドバンテージになる」
宵闇さんの言葉にすぐさま反論する。
「いや、無理ですよ。御堂弦気は御堂龍帥の息子であることは知ってますよね?」
弦気にとってAnonymousは父の仇だ。
Anonymousが壊滅したからといって、あいつが俺達と組むはずがない。
「ああ」
「……それに、俺と弦気の間には大きな確執があります。覚えてますよね? 中間基地での出来事……。
……あいつが俺の姿を見たら真っ先に殺しにかかってきますよ」
宵闇さんは俺の目を見据える。
弦気が当てにならない理由を並べているが、要するに、俺もあいつに協力を仰ぎたくないし、一緒に戦いたくないということだ。
それを飲み込めない宵闇さんではないはず。
……そう思っていたが、俺の想いは宵闇さんには通じなかったらしい。
違う、宵闇さんは俺の内心を悟った上で言った。
「状況というものがある。私情は関係ない」
クソ。弦気を当てにするのは、宵闇さんも私情を挟んでいるからじゃないか。
観測者のことが、どうしても頭から離れないんだろ。
内心で吐き捨て、唾を飲み込む。
……いや、宵闇さんは間違っていない。
今、弦気は俺達と全く同じ状況に置かれている。
お互いに協力し合うデメリットは、私情のみ。弦気もAnonymousのボスが自衛軍のトップにのさばろうとしているこの事態を阻止したいだろう。
観念した俺は言い訳をやめて、話を先に進めた。
「第一……昨日も言いましたけど、俺は弦気の居場所を知りませんよ」
そこで宵闇さんがソファから立ち上がった。
「探せばいい。協力する」




